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第114話:炎神の試練

朱炎雀は大きく翼を広げた。

紅蓮の炎が全身から噴き上がり、その熱だけで周囲の岩盤が赤く溶け始める。

神々しいほどの威圧感。

百華繚乱の五人は静かに武器を構えた。


「行くぞ。」

青真の一声で全員が駆け出す。

朱炎雀は鋭く鳴き、巨大な翼を羽ばたかせた。

次の瞬間、無数の炎弾が空一面へ展開される。


「散開!」

青真の叫びと同時に全員が左右へ飛び退く。

炎弾は流星群のように降り注ぎ、着弾する度に激しい爆発を巻き起こした。

熱風だけでも肌が焼けるようだった。


「風よ!」


アルナが風魔法を放つ。

巨大な旋風が炎弾の軌道を逸らし、その隙を突いて風を纏った矢を放った。

しかし矢は朱炎雀の羽毛へ当たると、そのまま弾かれてしまう。


「全然通らない!」


「普通の攻撃じゃ無理ですね。」

カレンも正面から斬り込む。

鋭い連撃が神獣を襲う。


だが、紅蓮の羽毛は鋼鉄以上の硬度を持ち、刃は浅く滑るだけだった。

朱炎雀は微動だにしない。


「闇風!」


「分かってる。」


闇風は姿勢を低くし、一気に死角へ潜り込む。

短剣が首元を狙う。

だが朱炎雀は翼を軽く振っただけで爆風を生み出した。


「くっ!」


闇風は空中で体勢を立て直しながら着地する。

腕へ鈍い痺れが走った。

まともに近付くだけでも危険だった。


「未来予知。」


青真は静かに呟く。

数秒先の未来が脳裏へ映し出される。

朱炎雀が急降下する未来。

その一瞬だけ胸元の炎が薄くなる光景を捉えた。


「そこだ。」


銀河が七振りへ分離する。

七本の長剣が四方八方から朱炎雀へ襲い掛かった。


キィィィン!!


高い金属音が灼熱地帯へ響く。

確かに斬れた。

だが傷は浅い。


「火力が足りないか。」


青真はすぐに銀河を呼び戻す。

今の一撃では決定打にならない。

神獣の防御力は想像以上だった。


その時。


「青真!」


メグが声を上げる。

青真は振り返ることなく答えた。


「分かってる。」


「ここからは、お前の番だ。」


メグは静かに頷く。

右手へ握る魔導之杖へ魔力を流し始めた。

杖全体へ赤い魔法回路が浮かび上がっていく。


「みんな。」


「少しだけ時間を稼いで。」


「任せろ。」


青真は再び銀河を構えた。

カレンも剣を握り直し、闇風は短剣を逆手へ持ち替える。

アルナは新たな矢を番えた。


朱炎雀は再び空高く舞い上がる。

灼熱の空一面へ、先程よりも遥かに巨大な魔法陣が展開された。


「来るぞ!」


青真が叫ぶ。


その直後、メグは静かに魔導之杖を天へ掲げる。


「――真武解放。」


その言葉と共に、魔導之杖は眩い紅蓮の光へ包まれ始めた。


眩い紅蓮の光が魔導之杖を包み込む。

杖身はゆっくりと二回りほど大型化し、黒い杖身へ無数の赤い魔法回路が浮かび上がる。

そして先端を覆っていた装甲が花弁のように展開し、その中心から深紅の魔法玉が姿を現した。

膨大な魔力が渦を巻き、灼熱地帯全体の魔力が共鳴し始める。


「これが……。」

アルナは思わず息を呑む。

「メグさんの真武解放。」

カレンも静かに目を見開いた。

闇風は短く息を吐き、小さく笑う。

「ようやく本気か。」


メグは魔導之杖を握り締め、静かに目を閉じる。

魔法玉から溢れ出した魔力が巨大な錬成陣を描き始めた。

幾重にも重なる魔法陣は空へ広がり、朱炎雀を包み込むように展開される。


「真武解放――魔星導極。」


その一言と共に、紅蓮の魔力が天を覆った。


「今だ!」


青真が叫ぶ。

銀河は七振りへ分離し、一斉に朱炎雀へ襲い掛かった。

四方八方から放たれる斬撃が神獣の動きを封じ込める。


「はあっ!」


カレンが真正面から踏み込む。

鋭い剣閃が朱炎雀の胸元を捉え、僅かな隙を作り出した。


「そこ!」


闇風はその一瞬を逃さない。

死角へ潜り込み、短剣を神獣の翼へ突き立てる。

完全には貫けない。

それでも朱炎雀の体勢は大きく崩れた。


「風よ!」


アルナが放った風の矢が朱炎雀の飛行を乱す。

巨大な身体が僅かによろめき、高度を落とした。


「メグ!」


青真は未来予知を発動する。

数秒先の未来。

胸元の炎が消える、一瞬だけ訪れる決定的な隙。


「次だ!」


青真の声と同時に銀河が一つへ重なり、大剣形態へ変化した。

渾身の一撃が朱炎雀を押し返し、その身体を巨大な錬成陣の中心へ誘導する。


「今!」


メグは静かに魔導之杖を掲げる。

魔法玉がかつてないほど眩しく輝き始めた。

その中心へ、灼熱地帯中の魔力が吸い込まれていく。


朱炎雀は大きく翼を広げ、最後の力を振り絞る。

紅蓮の炎が天を覆い、巨大な炎の奔流となって百華繚乱へ降り注いだ。


「負けない!」


メグは真っ直ぐ朱炎雀を見据える。

魔導之杖の魔法玉は紅蓮を超える黄金色の輝きを放ち始めていた。


「これで……終わり!」


メグは魔導之杖を力強く振り下ろした。

黄金へ染まった魔法玉から莫大な魔力が一気に解き放たれる。

巨大な錬成陣が眩く輝き、紅蓮の奔流となって朱炎雀を正面から飲み込んだ。


轟音。


灼熱地帯全体が激しく揺れる。

紅と黄金の光が空を埋め尽くし、誰も目を開けていられないほどの閃光が走った。


「ギャアアアアアアアッ!!」


神獣の咆哮が天地へ響く。

それでもメグは魔導之杖を握る手を緩めなかった。

錬成陣はさらに輝きを増し、朱炎雀を完全に包み込んでいく。


やがて。


紅蓮の炎がゆっくりと静まり始めた。

巨大な翼は力なく閉じられ、朱炎雀は静かに百華繚乱の前へ降り立つ。


そこには、もう敵意はなかった。


「見事。」


穏やかでありながら威厳に満ちた声が響く。

百華繚乱は静かに武器を下ろした。


「人は長き時を経て弱くなった。」


「そう思っていた。」


朱炎雀は黄金色の瞳でメグを見つめる。


「だが、お前は違う。」


「炎を破壊のためではなく、人を守るために使った。」


「錬金術によって命を繋ぎ、仲間を支え、その力を最後まで信じ抜いた。」


メグは静かに魔導之杖を胸の前で抱える。


「私は……。」


「みんなと一緒に戦いたかっただけです。」


その言葉を聞いた朱炎雀は、小さく笑ったように見えた。


「その想いこそが、我の求めていた器。」


「錬金術師よ。」


「我が力、お前へ託そう。」


朱炎雀の身体がゆっくりと無数の紅い光へ変わっていく。

炎の粒子は空高く舞い上がることなく、真っ直ぐ魔導之杖へ吸い込まれていった。


眩い光。


やがて輝きが収まる。


魔導之杖の先端。

深紅の魔法玉の中心には、小さな朱雀の紋章が静かに刻まれていた。


「宿った……。」


メグは驚いたように杖を見つめる。


その直後、自然と情報が頭へ流れ込んでくる。


「神獣……朱炎雀。」

「魔導之杖へ宿りました。」

「炎属性魔法の大幅強化。」

「錬金術の魔力効率向上。」

「真武解放時、朱炎雀の神炎を行使可能。」

青真は静かに笑う。


「認められたんだな。」

「おめでとう。」

アルナは嬉しそうにメグへ抱きついた。

「やったね!」


カレンも穏やかに微笑む。

「流石です、メグさん。」

闇風は腕を組み、小さく頷いた。


「これで、また一つ強くなった。」

メグは照れ臭そうに笑いながら、魔導之杖をそっと握り締めた。


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