第113話:炎神降臨
王都の正門前。
十二英傑となった百華繚乱の前には、多くの兵士や冒険者達が集まっていた。
王城で魔王軍討伐の勅命を受けてから一夜。
ついに人類最高戦力としての初任務が始まろうとしていた。
「本当に行くんだな。」
「ああ。」
青真は静かに頷く。
「みんな、絶対に生きて帰ろうね。」
アルナが笑顔で言うと、四人も小さく笑った。
「当然。」
闇風は短く答える。
「ここからが本番ね。」
メグは魔導棍棒を肩へ担いだ。
「油断だけは禁物です。」
カレンが銀色の剣を握り直す。
青真も腰の魔剣・銀河へ手を添えた。
「行こう。」
百華繚乱は王都を後にした。
◇◇◇
数日後。
一行は王国南西部へ広がる灼熱地帯へ到着していた。
赤黒く焼けた大地。
遠くでは巨大な火山が噴煙を上げている。
立っているだけで汗が滲むほどの熱気だった。
「相変わらず暑い場所ね。」
メグが額の汗を拭う。
「普通の暑さじゃありません。」
カレンが周囲を見渡す。
「魔力濃度が異常に高いです。」
アルナも風魔法で身体を冷やしながら苦笑した。
「風が熱風しかないよ……。」
青真は静かに周囲を見渡す。
その横で闇風が目を閉じた。
「気配。」
全員の表情が引き締まる。
「四人。」
「魔王軍です。」
岩陰から四つの人影が姿を現した。
黒い外套。
胸元には魔王軍の紋章。
先頭には細身のレイピアを持つ男。
その隣には黒いロッドを握る魔術師。
後方には双剣使いと弓使いが控えている。
「十二英傑か。」
レイピアの男が薄く笑う。
「幹部様より先に始末できれば、大手柄だ。」
「直属配下だな。」
青真が静かに呟く。
「悪いけど急いでるんだ。」
「相手をしてやる時間は長くない。」
「ほざけ!」
レイピア使いが一気に踏み込む。
鋭い突き。
だが。
「遅い。」
未来予知。
青真は身体を半歩だけずらし、銀河を抜き放った。
一閃。
レイピアごと男の身体が吹き飛ぶ。
「な……。」
男はそのまま地面へ倒れ込んだ。
「馬鹿な!」
魔術師がロッドを掲げる。
黒い魔法陣が展開され、無数の闇弾が放たれる。
「任せて。」
アルナが一歩前へ出た。
風の矢が次々と闇弾を撃ち落としていく。
その隙に闇風が魔術師の背後へ回り込んだ。
「終わりだ。」
短剣が首筋を貫く。
残る二人も動く。
双剣使いはカレンが真正面から迎え撃つ。
数合打ち合った直後。
「甘い。」
鋭い一閃。
双剣は宙を舞い、男もそのまま崩れ落ちた。
最後の弓使いは距離を取ろうとする。
しかし魔人形が一気に間合いを詰め、巨大な拳を叩き込んだ。
鈍い衝撃音。
吹き飛ばされた男へ、メグが小さく息を吐く。
「終わりね。」
戦闘終了。
時間にして一分も掛からなかった。
「やっぱり以前とは全然違うな。」
青真が銀河を鞘へ納める。
「十二英傑ですから。」
カレンも静かに頷いた。
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴ……
突然、大地が激しく揺れ始める。
火山から吹き出す熱風。
空が真紅へ染まり、灼熱地帯全体へ凄まじい魔力が満ちていく。
瀕死のレイピア使いが震えながら空を見上げた。
「ま……まさか……。」
「目覚めたのか……。」
次の瞬間。
甲高い鳴き声が天地を震わせた。
燃え盛る巨大な翼が空を覆う。
炎を纏う神鳥。
四神獣の一角――**朱炎雀**が、ゆっくりと百華繚乱の前へ舞い降りた。
朱炎雀がゆっくりと翼を広げる。
全身を包む紅蓮の炎。
翼を一度羽ばたかせるだけで熱風が吹き荒れ、大地が赤く揺らめいた。
その神々しい姿に、百華繚乱は誰一人として目を逸らさない。
「これが……四神獣。」
メグが静かに呟く。
「今までの魔物とは格が違います。」
カレンが剣を構える。
闇風も短剣を握り直し、アルナは静かに弓へ矢を番えた。
「行くぞ。」
青真の一声で全員が動く。
朱炎雀は高く舞い上がる。
次の瞬間。
無数の炎弾が流星のように降り注いだ。
「散開!」
青真が叫ぶ。
百華繚乱は一斉に飛び退く。
炎弾は地面へ着弾するたび大爆発を起こし、岩盤を次々と砕いていく。
熱風だけでも肌が焼けるようだった。
「風よ!」
アルナが風魔法を放つ。
烈風が炎弾の軌道を逸らし、その隙を突いて矢を放った。
風を纏った一矢は朱炎雀の翼を掠める。
しかし。
まるで効いていない。
朱炎雀は悠然と空を舞い続けていた。
「硬いどころじゃないわね。」
メグが表情を引き締める。
魔人形が大きく跳び上がり拳を振るう。
だが朱炎雀は軽く身を翻しただけで攻撃を避け、そのまま魔人形へ炎の羽根を放った。
無数の羽根が爆発し、魔人形は大きく吹き飛ばされる。
「魔人形!」
メグがすぐに錬金術で修復を始めた。
その間にも朱炎雀は攻撃の手を緩めない。
炎を纏った急降下。
一直線に青真へ迫る。
未来予知。
数秒先の軌道が脳裏へ映る。
「そこだ!」
青真は紙一重で回避し、銀河を抜き放った。
七振りの剣へ分離。
同時に四方から斬り掛かる。
しかし。
キィンッ!!
甲高い金属音だけが響いた。
炎の羽毛は鋼よりも硬く、銀河の斬撃ですら浅い傷しか残せない。
「……強い。」
青真は静かに距離を取る。
そこへ闇風が死角から飛び込んだ。
短剣が首元を狙う。
だが朱炎雀は翼を軽く動かしただけで闇風を弾き飛ばす。
「ぐっ!」
空中で体勢を立て直し着地するが、腕が僅かに痺れていた。
「まともに近付けません。」
カレンも剣を構えたまま言う。
「ですが。」
「必ず突破口はあります。」
青真は未来予知を発動したまま朱炎雀を見つめる。
炎。
翼。
飛行。
高速機動。
その全てを観察する。
そして数秒後。
未来の映像の中で、一瞬だけ炎が弱まる場所を見つけた。
「見えた。」
青真は小さく呟く。
「次の攻撃で試す。」
その瞬間。
朱炎雀が再び高く舞い上がった。
灼熱地帯全体を覆うほどの巨大な魔法陣が空へ展開される。
「これは……!」
アルナが息を呑む。
空から降り注ぐ炎は、先程とは比べ物にならないほどの規模だった。
「来るぞ!」
青真の叫びと共に、百華繚乱は神獣との本格的な激突へ身を投じるのだった。
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