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第112話:十二英傑

翌朝。


十分な休息を終えた百華繚乱は、王都北方の山岳地帯へ到着していた。

目の前には、雲を突き抜けるほど巨大な石造りの門がそびえ立っている。

門の表面には無数の古代文字が刻まれ、長い年月を経た今も淡い光を放っていた。


「これが……星天迷宮。」


アルナが思わず息を呑く。

青真も門を見上げ、小さく息を吐いた。

「今までとは格が違うな。」


闇風は静かに目を閉じる。


「気配察知がほとんど機能しません。」

「魔力が濃すぎて、周囲全体が一つの巨大な気配みたいになっています。」

メグも地面へ手を当て、真剣な表情になった。

「ここ、本当に普通の場所じゃない。」


カレンはゆっくりと剣へ手を添える。


「S級ダンジョン。」

「油断は絶対に禁物です。」

「一歩ずつ確実に進みましょう。」

全員が静かに頷き、巨大な門を潜った。


迷宮の中へ足を踏み入れた瞬間、景色が一変する。


天井一面には満天の星空。

昼間であるはずなのに、頭上には無数の星々が静かに瞬いていた。

床は黒曜石のような光沢を放ち、一歩踏み出す度に星明かりを映し出している。


「綺麗……。」


アルナが思わず見惚れる。


「確かに綺麗だけど。」

「魔力の圧力が凄い。」

メグが苦笑しながら肩を回した。

「身体が少し重い。」


青真は蒼海の剣へ手を添えた。


「この空間そのものが敵って感じだな。」

「行こう。」

百華繚乱は慎重に迷宮の奥へ進み始めた。


しばらく進んだところで、闇風が足を止める。


「来ます。」


次の瞬間。


左右の柱の影から銀色の魔物が飛び出した。


星晶狼アストラルウルフ!」


四体の狼は残像を残すほどの速度で距離を詰めてくる。


「速い!」


しかし青真は既に未来予知を発動していた。


「右二体は俺!」


蒼海の剣が青白く輝く。


一閃。


さらに返す刃でもう一体を斬り裂く。


二体の星晶狼はそのまま光の粒となって消滅した。


「左は任せてください!」


カレンが前へ飛び出す。


鋭い踏み込みから放たれた斬撃が一体を真っ二つに切り裂いた。


残る一体は闇風が背後へ回り込み、短剣を突き立てる。


「終わり。」


僅か十秒。


四体の星晶狼は全て討伐された。


「以前なら苦戦していた相手ですね。」


カレンが静かに言う。


「確かにな。」


青真も苦笑した。


「世界二つ攻略してきた経験は伊達じゃない。」


「まだ一つです。」


「細かいな。」


アルナとメグが思わず笑う。


和やかな空気が流れた、その直後だった。


ヒュンッ!!


鋭い風切り音。


上空から無数の光が降り注ぐ。


「散開!」


青真の声と同時に全員が飛び退く。


光の正体は、星の尾を引くように飛来する無数の羽根だった。


天井付近を旋回する巨大な鳥型魔物。


さらに通路の奥では、全身を鎧で覆った人型の魔物達がゆっくりと剣を抜き始める。


流星鷹メテオホーク……!」


「それに天穹騎士スカイナイトまで!」


アルナが弓を構える。


「どうやら、ここからが本番みたいね。」


5人はそれぞれ武器を構え直し、星天迷宮のさらに奥へ向かって駆け出した。


星天迷宮最奥。


巨大な祭壇の中央で、一体の竜がゆっくりと翼を広げた。

漆黒の鱗。

星屑のように煌めく翼。

黄金色の双眸が百華繚乱を見据え、低い咆哮を響かせる。


「グルルルルル……。」

星界竜アストラルドラゴン……。」

青真は蒼海の剣を静かに抜いた。

「行くぞ。」

その一言で全員が駆け出した。


星界竜は巨大な翼を羽ばたかせ、無数の星光弾を放つ。

アルナは風魔法で軌道を逸らしながら矢を放った。

「風よ!」

風を纏った矢が竜の左翼へ突き刺さる。

だが、星界竜は僅かに身じろぎしただけだった。


闇風は死角へ潜り込み、一気に首元を狙う。

しかし短剣は硬い鱗へ弾かれた。

「硬い……!」

「一点へ集中攻撃です!」

カレンが真正面から踏み込み、同じ場所へ鋭い斬撃を重ねていく。


その瞬間、魔人形が巨体へ体当たりを叩き込んだ。

鈍い衝撃音が響き、鱗へ小さな亀裂が走る。

「今!」

メグが叫ぶ。

青真は未来予知を発動した。


数秒先の未来。

星界竜が身体を捻り、胸部が一瞬だけ無防備になる。

その映像を見た青真は迷わず地面を蹴った。

蒼海の剣へ魔力を集中させ、一気に間合いへ飛び込む。

「そこだ!」


青白い斬撃が一直線に走る。

亀裂の入った胸部を深く斬り裂き、星界竜は苦悶の咆哮を上げた。

グオオオオオオオオッ!!

巨大な身体が大きく仰け反る。

しかし、その瞳から闘志は消えていなかった。


星界竜は最後の力を振り絞り、巨大な尾を薙ぎ払う。

「危ない!」

アルナへ一直線に迫る尾。

その瞬間、闇風が飛び込みアルナを突き飛ばした。

尾は闇風の肩を掠め、そのまま祭壇を粉砕する。


「闇風!」

「問題ない。」

短く答えながら立ち上がる。

「これで終わらせる。」

カレンも剣を構え直した。

「全員、合わせます!」


アルナの矢が風を纏って飛ぶ。

魔人形の拳が星界竜の動きを止める。

闇風の短剣が傷口をさらに抉る。

カレンの連撃が亀裂を広げる。

全員の攻撃が一つへ重なった。


「終わりだああああっ!」


青真の渾身の一閃。


蒼海の剣が星界竜の首を斬り裂いた。

巨体はゆっくりと崩れ落ち、やがて無数の光となって星空へ溶けていく。

静寂が訪れる。

祭壇の中央には、巨大な宝箱だけが静かに残されていた。


「終わった……。」

アルナが大きく息を吐く。

カレンは宝箱へ歩み寄り、慎重に蓋を開いた。

眩い光が祭壇全体を包み込む。

中には五つのS級アーティファクト。

そして中央には、一振りの銀色の魔剣が静かに収められていた。


青真が剣へ手を伸ばす。

その瞬間、魔剣は蒼海の剣と強く共鳴し、青白い光へ包まれた。

二振りの剣はゆっくりと一つへ溶け合い、新たな姿へと変化していく。

青真は静かに柄を握り締めた。


「少し待って。」


メグが前へ出る。

剣へそっと手を添え、魔力を流し込んだ。

鑑定が終わると、小さく目を見開く。


「S級アーティファクト……。」

「魔剣『銀河』。」

「能力は『操作。」


「最大七振りまで刀身を増やすことができ、全てを自在に操れます。」

「さらに分離した刀身は自由に融合させることも可能です。」

「七振りの長剣にも、一振りの巨大な大剣にも変化させられます。」


青真が意識を向ける。


すると刀身が青く輝き、一振りだった魔剣は二振り、三振りと増え、やがて七振りの長剣となって青真の周囲を静かに旋回した。


さらに七振りは一つへ重なり合い、巨大な大剣へ姿を変える。


「これが……。」


青真は静かに息を吐いた。


新たな相棒は、確かな存在感と共にその力を示した。


その直後。

祭壇全体を、どこまでも優しい風が吹き抜けた。


祭壇全体を、静かな風が吹き抜ける。

次の瞬間。

風は一点へ集まり始めた。

渦を巻きながら天井へ伸び、巨大な風柱となる。


誰も言葉を発せない。

やがて風柱の中心から、威厳ある声だけが響いた。

「星界竜を討ちし者よ。」

「我は風を統べる大精霊。」


姿は見えない。

あるのは巨大な風そのもの。

風は翼のように広がり、祭壇全体を包み込む。

その圧倒的な存在感に、百華繚乱は静かに見上げた。


「風を極めし資格ある者。」

「前へ。」

アルナは静かに一歩踏み出す。

「私……ですか。」


「然り。」

「そなたは風を信じ、仲間を守り続けた。」

「我はその歩みを認めよう。」

巨大な風がアルナを優しく包み込んだ。


暴風ではない。

どこまでも澄み切った風がアルナの魔力と共鳴していく。

やがて右手の甲へ翠色の紋章が刻まれた。

「契約は成った。」


「必要な時、我はそなたと共に戦おう。」

その言葉を最後に、巨大な風は静かに消えていく。

アルナは右手の紋章を見つめ、小さく頷いた。

「よろしくお願いします。」


百華繚乱は星天迷宮を後にし、その日のうちに王都へ帰還した。

S級ダンジョン攻略の報は瞬く間に王都中へ広がる。

翌朝、五人は王城へ召集された。

案内された先は王国の玉座の間だった。


国王は静かに立ち上がり、五人を見渡す。

「百華繚乱。」

「星天迷宮攻略、誠に見事であった。」

「王国を代表し、感謝を述べる。」


「その功績を称え、本日付で百華繚乱全員をS級冒険者へ昇格とする。」

玉座の間にどよめきが走る。

最高位冒険者が、一度に五人誕生したのである。

国王は続けて告げた。


「青真。」

「二つ名『蒼剣』を授ける。」


「闇風。」

「二つ名『黒影』を授ける。」


「メグ。」

「二つ名『錬金女王』を授ける。」


「カレン。」

「二つ名『戦姫』を授ける。」


「アルナ。」

「二つ名『弓姫』を授ける。」


五人は静かに頭を下げた。

冒険者として最高の名誉。

その重みを、それぞれが噛み締める。



国王は表情を引き締める。

「しかし、祝福だけで終わるわけにはいかぬ。」

「各地で魔王軍の活動が活発化している。」

「これ以上の被害は看過できん。」


「そして本日より、人類最高戦力は新たな時代へ入る。」

「これまで人類最強は七英雄と呼ばれてきた。」

「だが、お前達百華繚乱が加わったことで、人類最高戦力は十二名となった。」


国王は力強く宣言する。

「ここに、七英雄と百華繚乱を合わせた人類最高戦力十二名を――『十二英傑』と称する。」

「七英雄の称号はこれまで通り受け継がれる。」

「そして、お前達五人もまた、十二英傑の一員である。」


玉座の間に集まった騎士や貴族達が一斉に頭を下げた。

それは一介の冒険者ではなく、人類を背負う英雄への敬意だった。

青真達も、その重責を静かに受け止める。


国王は再び口を開く。

「よって王国は、十二英傑・百華繚乱へ正式に命ずる。」

「魔王軍討伐。」

「王国最強戦力として、その任を託したい。」


青真は一歩前へ進み、真っ直ぐ国王を見据えた。

「謹んで、お受けします。」

闇風、メグ、カレン、アルナも力強く頷く。


こうして百華繚乱は、人類最高戦力『十二英傑』の一員として、新たな戦いへの第一歩を踏み出した。


その旅路の先で待ち受けるのは魔王軍。

そして、人類・魔王軍・四神獣による三つ巴の戦乱である。


この世界、絶対に攻略して現実世界に戻ってやるよ。

読んでいただきありがとうございました!もし面白いと思っていただけたら、ブクマや評価で応援してもらえると励みになりま

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