第111話:獄炎獅子
ガアアアアアアアアアアッ!!
灼熱火山地帯へ轟く咆哮。
大気が震え、熱風が岩肌を焼き抜いていく。
百華繚乱の前へ立ちはだかるのは、炎を纏った巨大な獅子――獄炎獅子だった。
「行くぞ!」
青真が地面を蹴る。
未来予知を発動しながら一直線に間合いを詰め、蒼海の剣を振り抜いた。
水属性を纏った刃が赤熱した体毛を斬り裂き、白い蒸気が勢いよく噴き上がる。
「やっぱり水属性は効く!」
インフェルノレオンは怒りの咆哮を上げ、巨大な前脚を振り下ろす。
だが青真は未来予知で軌道を読み切り、半歩だけ身体をずらして回避した。
その隙へカレンが飛び込む。
「はぁっ!」
鋭い連撃が獅子の右前脚を捉える。
続いて闇風が死角へ回り込み、短剣で後脚を浅く切り裂いた。
「まだ止まらないか。」
闇風はすぐに距離を取る。
「アルナ!」
「任せて!」
アルナは素早く三本の矢を番える。
風魔法で加速させた矢へ水属性を付与し、一気に放った。
三本の矢は正確に獅子の肩口と胴体へ突き刺さり、炎を僅かに弱める。
その間にメグが腰のポーチから青い小瓶を取り出した。
「青真!」
投げ渡された小瓶を青真が受け取る。
中身を蒼海の剣へ振り掛けると、刃を包む水属性の魔力がさらに濃くなった。
「冷却薬よ。」
「長くは保たないから、一気に決めな。」
「十分だ!」
青真は笑みを浮かべ、再び突っ込む。
一方、二体の魔人形は正面からインフェルノレオンへ体当たりを仕掛けた。
巨体同士が激突し、獅子の動きが一瞬だけ止まる。
「今!」
カレンが叫ぶ。
青真、カレン、闇風の三人が同時に飛び込んだ。
蒼海の剣。
長剣。
短剣。
三方向から放たれた斬撃が同時に獅子の身体を切り裂く。
ガアアアアアッ!!
苦痛の咆哮。
インフェルノレオンは炎を爆発させながら大きく飛び退く。
しかし、その動きは先程までより明らかに鈍っていた。
「押してる!」
アルナがもう一本の矢を放つ。
青真は大きく息を吸い込み、蒼海の剣を両手で握り締めた。
「これで終わりだ!」
未来予知。
最適な一歩。
最適な踏み込み。
そして――。
水属性を極限まで纏った蒼海の剣が一直線に振り抜かれる。
ズバァァァッ!!
深く刻まれた斬撃が獅子の首元を切り裂いた。
巨体は数歩よろめき、そのまま轟音と共に地面へ崩れ落ちる。
灼熱火山地帯へ静寂が戻った。
「……勝った。」
青真が蒼海の剣を鞘へ納める。
「さすがA級主魔物ね。」
アルナが安堵の息を漏らす。
メグは静かに頷きながら魔人形を回収し、闇風は周囲に敵影がないことを確認する。
「これで王都へ戻れますね。」
カレンの言葉に、全員が静かに頷いた。
獄炎獅子の巨体は静かに崩れ落ち、その全身は淡い粒子となって空へ溶けていった。
残されたのは赤く輝く巨大な魔石だけだった。
青真は魔石を拾い上げ、小さく息を吐く。
「これで討伐完了だな。」
「ええ。」
カレンが剣を鞘へ納める。
「怪我も軽傷で済みました。」
アルナは弓を背負い直しながら笑った。
「最後は綺麗に決まったわね。」
「蒼海の剣の水属性もかなり効いてた。」
青真は剣へ視線を落とし、小さく頷く。
「やっぱり手に入れて正解だった。」
メグが口を開く。
「帰ったら修理ね。」
「冷却薬も結構使っちゃった。」
「また補充しないと。」
闇風は周囲を見回し、静かに頷いた。
「敵影なし。」
「戻りましょう。」
五人は灼熱火山地帯を後にし、その日の夕方には王都へ帰還した。
夕日に染まる王都はいつもと変わらぬ賑わいを見せている。
冒険者ギルドへ入ると、受付嬢がすぐに立ち上がった。
「皆さん、お帰りなさい。」
「獄炎獅子討伐の報告ですね。」
青真が魔石を差し出すと、受付嬢は確認し大きく頷いた。
「確認しました。」
「A級主魔物・獄炎獅子討伐達成です。」
「ギルドマスターがお待ちです。」
「会議室へお願いします。」
五人はそのまま二階の会議室へ向かった。
扉を開くと、ギルドマスターは既に椅子へ腰掛け、地図を机へ広げていた。
青真達を見ると、小さく笑みを浮かべる。
「よくやった。」
「海皇。」
「毒砂蠍蝎。」
「獄炎獅子。」
「ここ最近の功績だけでも十分に歴史へ残る。」
青真は苦笑した。
「まだ終わってませんよ。」
「その意気だ。」
ギルドマスターは一枚の地図を前へ滑らせる。
そこには王都北方の山岳地帯が描かれていた。
「次がお前達に任せる最後の試練。」
「S級ダンジョン――『星天迷宮』だ。」
その名前を聞いた瞬間、部屋の空気が変わる。
アルナもメグも真剣な表情で地図を見つめた。
「星天迷宮は王国内最高難度の迷宮。」
「内部は昼夜を問わず星空が広がる異常空間。」
「魔力濃度も桁違いだ。」
ギルドマスターは静かに続ける。
「迷宮最奥にはS級魔物が待ち受けている。」
「ここを攻略できれば、お前達は王国でも指折りの実力者として認められるだろう。」
青真は静かに拳を握り締めた。
その瞳には迷いはなかった。
「分かりました。」
「百華繚乱。」
「星天迷宮、攻略します。」
ギルドマスターは満足そうに頷いた。
「今日は休め。」
「決戦は明日だ。」
王国最高難度のS級ダンジョン――星天迷宮。
百華繚乱最後の試練が、いよいよ幕を開けようとしていた。
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