第110話:灼熱火山地帯
王都を出発して三日。
青真達は灼熱火山地帯へ到着していた。
赤黒い岩山が連なり、地面の至る所から白い蒸気が噴き上がる。
遠くでは溶岩がゆっくりと流れ、大気は熱で揺らめいていた。
「……凄い暑さだな。」
青真が額の汗を拭う。
「まだ入口なんだよね?」
アルナが地図を見る。
「ええ。」
メグは静かに頷いた。
「インフェルノレオンの縄張りまでは、あと半日ほどです。」
「この辺りから炎属性の魔物が多くなります。」
カレンは剣へ手を添える。
「熱で体力を奪われます。」
「無駄な戦闘は避けましょう。」
闇風は先頭を歩きながら目を閉じた。
「……気配。」
「八体。」
その言葉と同時に、岩陰から炎を纏った狼が一斉に飛び出してきた。
赤黒い体毛。
鋭い牙。
足元には炎を纏っている。
「火炎狼!」
青真は蒼海の剣を抜いた。
「迎え撃つ!」
火炎狼達は一斉に飛び掛かってくる。
未来予知。
数秒先の軌道を読み切り、青真は身体を半歩だけ横へずらした。
そのまま蒼海の剣を横薙ぎに振るう。
ジュゥッ!!
水属性を纏った斬撃が炎を切り裂き、大量の蒸気が立ち上る。
最初の一匹はそのまま地面へ転がった。
「やっぱり水属性は効く!」
だが残る七匹は勢いを止めない。
「青真!」
カレンが前へ飛び出す。
二匹の火炎狼を正面から受け止め、その場へ釘付けにした。
闇風も死角へ回り込み、毒影の短剣で一匹の脚を斬り裂く。
「今です!」
アルナは弓を引き絞った。
「水属性付与。」
淡い青い魔法陣が矢へ重なり、水の魔力を纏った矢が一直線に飛ぶ。
火炎狼の肩を貫いた瞬間、炎が一気に弱まった。
「ウォーターボール!」
今度はメグの魔法が炸裂する。
巨大な水球が火炎狼へ命中し、その身体を大きく吹き飛ばした。
二体の魔人形も前へ出る。
巨大な腕で火炎狼を殴り飛ばし、そのまま青真達の前へ立ちはだかる。
炎を浴びても怯むことなく、力任せに敵を押し返していく。
「前は任せてください!」
メグは次々と水魔法を放つ。
アルナは水属性付与を施した矢で援護し、闇風は隙を突いて確実に敵の数を減らしていく。
カレンが敵を受け止め、その隙を青真が蒼海の剣で斬り伏せる。
五人の息はぴたりと合っていた。
火炎狼達は徐々に数を減らしていく。
しかし、その時だった。
ドォォォォン!!
大地が大きく揺れる。
遠くの火山から、獣の咆哮にも似た轟音が響き渡った。
その圧倒的な威圧感に、火炎狼達は一斉に動きを止める。
闇風は険しい表情で火山の方角を見据えた。
「……来る。主だ。」
闇風の一言と同時に、火炎狼達が一斉に後退した。
先程まで襲い掛かってきた魔物とは思えないほど統率された動きだった。
まるで何者かへ道を譲るように左右へ散っていく。
「逃げる……?」
アルナが驚いたように呟く。
「違う。」
メグは火山の方角を見据えた。
その表情から笑みが消える。
静かに息を吸い、小さく呟いた。
「道を開けている。」
ドォォォォォン!!
再び大地が激しく揺れた。
火山の奥から重々しい足音が響いてくる。
一歩、また一歩と近付く度に、熱風はさらに勢いを増していった。
「来るぞ。」
青真は蒼海の剣を握り直す。
カレンも静かに剣を構え、闇風は短剣を逆手へ持ち替える。
五人の視線が同じ一点へ集まった。
やがて黒煙の向こうから、一つの巨大な影が姿を現す。
燃え盛るような深紅の体毛。
黒曜石のような鬣。
黄金色の双眸は獲物を見据える王者そのものだった。
「……あれが。」
アルナは思わず息を呑む。
「獄炎獅子。」
メグが静かに名を口にする。
「インフェルノレオン。」
全長は五メートルを優に超えていた。
歩くだけで地面が揺れ、周囲の岩肌は赤く焼け始める。
身体から放たれる熱だけで、空気そのものが大きく歪んでいた。
「今までの主魔物とは比べ物にならないな。」
青真は静かに呟く。
未来予知を発動する。
だが次の瞬間、眉が僅かに動いた。
未来は見える。
しかし映る未来が多過ぎる。
突進。
爪撃。
炎のブレス。
咆哮。
無数の攻撃が同時に流れ込み、一つへ絞り切れない。
「未来予知でも全部は読み切れないか。」
青真は小さく息を吐く。
「なら、一人で戦う必要はない。」
その一言に四人が頷いた。
カレンは前衛へ。
闇風は右側面へ回り込む。
アルナは矢を番え、水属性付与の魔法陣を展開する。
メグも杖を掲げ、水魔法の詠唱を開始した。
「今回は後衛が要になる。」
メグが静かに言う。
「任せろ。」
青真は蒼海の剣を肩の高さまで持ち上げた。
「俺達五人で倒す。」
ガアアアアアアアアアアッ!!
インフェルノレオンが天を震わせる咆哮を放つ。
凄まじい衝撃波が灼熱火山地帯全体を揺らし、岩肌へ無数の亀裂が走った。
主魔物との本格的な戦いが、今まさに幕を開けようとしていた。
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