第109話:灼熱の獅子
岩石砂漠を後にした青真達は、数日ぶりに王都へ帰還した。
高い城壁が見えた瞬間、アルナは大きく背伸びをする。
「やっと帰ってきたぁ。」
「流石に砂漠は疲れるわ。」
メグも苦笑しながら頷いた。
「砂だらけでしたからね。」
「今日はゆっくりお風呂に入りたいです。」
「まずはギルドだな。」
青真がそう言うと、一行はそのまま冒険者ギルドへ向かった。
大きな扉を開けた瞬間、酒場の喧騒が耳へ飛び込んでくる。
何人もの冒険者が青真達へ視線を向けた。
「あれが百華繚乱か。」
「毒砂蠍蝎を倒したって本当らしい。」
「主魔物討伐なんて簡単にできる相手じゃねぇぞ。」
周囲から小さなどよめきが広がる。
以前までのような半信半疑の視線ではない。
そこにあったのは、実力者を見る眼差しだった。
受付へ向かうと、受付嬢は笑顔で頭を下げた。
「お帰りなさい。」
「討伐依頼達成、お疲れ様でした。」
青真は討伐証明となる素材を取り出し、静かにカウンターへ置く。
受付嬢は一つ一つ丁寧に確認すると、大きく頷いた。
「確認いたしました。」
「岩石砂漠主魔物、毒砂蠍蝎討伐。」
「依頼達成です。」
周囲の冒険者達から感嘆の声が漏れる。
主魔物討伐は、それほどまでに難易度の高い依頼だった。
受付嬢は報酬袋を差し出した。
「こちらが今回の報酬になります。」
「さらに討伐実績が認められ、百華繚乱のギルド評価も更新されました。」
「皆様は現在、A級上位パーティとして正式に登録されます。」
アルナが目を丸くする。
「A級上位?」
「もうそこまで来たの?」
受付嬢は微笑んだ。
「A級依頼を複数成功させ、さらに主魔物を討伐した実績は非常に大きな評価となります。」
「現在の皆様は、王都でも指折りの実力者です。」
青真は仲間達を見回し、小さく笑う。
「少しずつだけど、前へ進めてるな。」
闇風も静かに頷いた。
「まだ足りない。」
「だが悪くはない。」
その時だった。
二階から重い足音が響く。
「よう。」
低く響く声と共に姿を現したのは、ギルドマスター・ガレスだった。
大柄な体格に相変わらず豪快な笑みを浮かべている。
「毒砂蠍蝎討伐、ご苦労だった。」
「期待以上の働きだったぞ。」
青真達は軽く頭を下げる。
ガレスは腕を組みながら続けた。
「だから早速次の依頼だ。」
「今回の相手は灼熱火山地帯を縄張りとする主魔物――。」
ガレスは一枚の地図を机へ広げる。
赤く染められた火山地帯の中央を指差し、ゆっくりと口を開いた。
「獄炎獅子。」
「インフェルノレオンだ。」
その名を聞いた瞬間、周囲にいた冒険者達の表情が一斉に変わる。
「インフェルノレオンだと……。」
「あの火山の王か。」
「まともに近付くだけでも命懸けだぞ。」
酒場の空気が一気に張り詰めた。
ガレスは青真達を真っ直ぐ見つめる。
「受けるか?」
問い掛けに迷いはなかった。
青真は仲間達と視線を交わし、力強く頷く。
「もちろんです。」
「俺達が倒します。」
その言葉に、ガレスは満足そうに笑った。
「よし。」
「詳しい話は依頼室で聞かせてやる。」
依頼室へ移動すると、ガレスは壁へ掛けられた大きな地図を広げた。
赤く塗られた地域には幾つもの火山が連なっている。
「ここが灼熱火山地帯だ。」
「年中溶岩が流れ、普通の魔物ですら長くは生きられねぇ。」
ガレスは中央の巨大火山を指差した。
「インフェルノレオンは、この火山一帯を縄張りにしている。」
「炎を纏う獅子型の主魔物だ。」
「近付くだけで火傷するほどの熱気を放ち、吐き出す炎は岩すら溶かす。」
「真正面から挑んで勝てる相手じゃねぇ。」
青真は真剣な表情で地図を見つめる。
「弱点はありますか。」
ガレスは頷いた。
「水属性だ。」
「だが弱点だからと言って簡単にはいかねぇ。」
「火山地帯そのものが奴の庭だ。」
「地形も味方につけて戦ってくる。」
「つまり環境込みで戦えってことですね。」
メグが静かに呟く。
ガレスは腕を組みながら笑った。
「理解が早ぇな。」
「それともう一つ。」
「奴の周囲には炎属性の魔物が大量にいる。」
「火炎狼、フレイムリザード、マグマゴーレム。」
「まずはそこを突破しなきゃ、インフェルノレオンには辿り着けねぇ。」
アルナは小さく息を吐く。
「炎属性だらけってことは……。」
「私とメグの遠距離支援が重要になりそうね。」
カレンも頷く。
「前衛だけでは押し切れません。」
「後衛との連携が鍵になります。」
青真は蒼海の剣へ視線を落とし、小さく笑った。
「蒼海の剣の力も試せそうだな。」
水属性を纏うA級アーティファクト。
炎を相手にするには、これ以上ない武器だった。
闇風も新たに手に入れた毒影の短剣を腰へ差し直す。
「準備はできてる。」
「いつでも行ける。」
ガレスは満足そうに頷くと、一枚の許可証を机へ置いた。
「灼熱火山地帯は危険区域だ。」
「この許可証がなけりゃ入れねぇ。」
「途中の補給所で水と耐熱装備を整えてから向かえ。」
「無茶だけはするなよ。」
依頼室を出た青真達は、その足で王都の市場へ向かった。
水袋や保存食を買い揃え、火山地帯用の装備も確認していく。
街にはいつも通り多くの人々が行き交っていた。
だが青真達を見つけた人々は、以前とは違う眼差しを向ける。
「主魔物を倒した冒険者達だ。」
「あの若さでA級上位なんて凄いな。」
そんな声が聞こえてくるたび、アルナは少し照れくさそうに笑った。
「少し有名になっちゃったみたい。」
青真は肩を竦める。
「気にしても仕方ない。」
「やることは変わらないさ。」
翌朝。
青真達は王都の西門へ集まっていた。
門の向こうには赤茶けた大地が広がり、その遥か先には黒煙を噴き上げる巨大な火山群が見えている。
熱風はここまで届き、乾いた風が頬を撫でた。
青真は火山を真っ直ぐ見据える。
「次の相手はインフェルノレオン。」
「炎の王、か。」
蒼海の剣の柄を軽く握り締める。
「行こう。出発だ。」
五人は力強く頷き、新たな主魔物が待つ灼熱火山地帯へ向かって歩き始めた。
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