第107話:毒砂蠍蝎
地響きと共に砂漠が大きく盛り上がる。
次の瞬間、巨大な砂煙を巻き上げながら一匹の魔物が姿を現した。
岩のような黒い甲殻。
人間など容易く両断できそうな巨大な鋏。
そして天へ突き上げるような猛毒の尾。
「……あれが。」
「毒砂蠍蝎。」
青真は蒼海の剣を抜き放ち、ゆっくり構えた。
圧倒的な威圧感が全身へ重くのしかかる。
毒砂蠍蝎は低い咆哮を上げる。
その音だけで周囲の砂が震え、小石が跳ね上がった。
闇風は双短剣を構え、静かに呟く。
「来るぞ。」
その言葉と同時に巨大な鋏が振り下ろされた。
「速い!」
未来予知が数秒先の軌道を映し出す。
青真は横へ飛び退き、鋏を紙一重で回避した。
そのまま蒼海の剣へ魔力を流し、一気に踏み込む。
水属性を纏った刃が甲殻へ叩き込まれた。
ギィィン!!
重い金属音が響く。
確かに斬れた。
しかし浅い。
毒砂蠍蝎は何事もなかったかのように身体を反転させ、尾を振り抜く。
「青真さん!」
カレンが叫ぶ。
未来予知のおかげで辛うじて回避したものの、毒針が掠めた地面は一瞬で紫色へ変色していく。
「直撃したら終わりか。」
青真は表情を引き締めた。
「援護します!」
アルナの矢が風を纏って飛ぶ。
毒砂蠍蝎の関節へ命中し、僅かに体勢が崩れた。
その隙を逃さず闇風が背後へ回り込み、双短剣を振るう。
だが鋭い刃は甲殻を浅く削るだけだった。
「硬ぇな。」
闇風はすぐ距離を取る。
続いてメグの魔人形が飛び出し、一斉に魔法を放つ。
光弾が次々命中するが、巨大な身体は僅かに揺れただけ。
主魔物の耐久力は、これまで戦ってきた魔物とは別格だった。
「足を止めるぞ!」
カレンが前へ出る。
鋭い剣閃が脚を狙う。
一本、二本と脚へ傷を刻み、毒砂蠍蝎の動きが少し鈍る。
青真も続けて蒼海の剣を振るい、水を纏った一撃を叩き込んだ。
その瞬間だった。
毒砂蠍蝎は突然全身を丸めると、そのまま砂の中へ潜り込んでしまう。
「潜った!?」
アルナが驚きの声を上げる。
辺りは静寂に包まれ、巨大な姿は跡形もなく消えていた。
闇風は目を閉じ、気配を探る。
「下だ。」
「……いや、速すぎる。」
砂の中を高速で移動する巨大な気配が、青真達の周囲を何度も旋回していた。
次に飛び出してくる場所が全く読めない。
未来予知を発動した青真の脳裏へ、無数の未来が映し出される。
前。
後ろ。
右。
左。
四方八方から飛び出してくる巨大な鋏と毒針。
「くそっ……。」
「このままじゃ守り切れない……。」
青真は蒼海の剣を構え直し、迫り来る次の一撃へ神経を研ぎ澄ませた。
毒砂蠍蝎の気配が一瞬だけ消える。
次の瞬間、青真の未来予知が激しく反応した。
「下だ!」
巨大な毒針が真下から突き上がる。
青真は仲間を突き飛ばしながら飛び退いた。
轟音と共に岩柱が砕け散る。
土煙の中から姿を現した毒砂蠍蝎は、今度は巨大な鋏を横薙ぎに振るった。
「くっ!」
カレンが受け止めるが、そのまま大きく弾き飛ばされる。
闇風も背後へ回り込もうとするが、尾による薙ぎ払いで近付けない。
「このままじゃ埒が明かない!」
アルナの矢も、メグの魔法も決定打にはならない。
地中へ潜られる度に攻撃は振り出しへ戻ってしまう。
青真は毒砂蠍蝎の動きを見つめながら、小さく息を吐いた。
(よし……。最近開発した新技を試してみるか。)
青真は蒼海の剣を鞘へ納める。
右手を空へ掲げると、無数の光弾が次々と生み出されていく。
一つ。
二つ。
十。
二十。
やがて数え切れないほどの光が頭上を埋め尽くした。
「青真さん?」
メグが驚いた表情を浮かべる。
「何をするつもりですか?」
闇風も空を見上げ、目を細めた。
青真は不敵に笑う。
「これはまだ誰にも見せてない。」
「俺の新技だ。」
「マナショット――流星群!」
無数の光弾が一斉に空高く打ち上がる。
上空で散開した光弾は、散弾へ分裂。
さらに炸裂の魔力を纏い、最後に追尾の魔力が刻み込まれる。
次の瞬間、流星群のような光の雨が毒砂蠍蝎へ降り注いだ。
「ギシャァァァァ!!」
毒砂蠍蝎は慌てて地中へ潜る。
しかし光弾は軌道を変え、その動きを追い続ける。
逃げても。
潜っても。
流星群は決して標的を逃がさない。
ドドドドドドドドドン!!
砂漠全体を揺らす大爆発。
砂煙が空高く舞い上がり、地面は無数の爆発跡で埋め尽くされる。
やがて毒砂蠍蝎は苦しそうな咆哮を上げながら地中から姿を現した。
全身の甲殻は砕け、胸部の宝玉が剥き出しになっている。
「今だ!」
青真は一気に駆け出した。
蒼海の剣へ水属性を纏わせる。
未来予知が最後の一撃を映し出す。
青真は迷うことなく踏み込み、宝玉目掛けて剣を振り抜いた。
「終わりだ!」
蒼い斬撃が宝玉を真っ二つに切り裂く。
毒砂蠍蝎は大きく身体を震わせると、そのまま静かに崩れ落ちた。
やがて巨大な身体は淡い粒子となり、岩石砂漠の風へ溶けるように消えていった。
戦いを終えた青真は蒼海の剣をゆっくり鞘へ納める。
「……悪くない。」
新たな愛剣と、新たな必殺技。
その両方が確かな力となったことを、青真は静かに実感していた。
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