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第106話:岩石砂漠

翌朝。


王都の東門には青真達の姿があった。

晴れ渡る空の下、それぞれが新たな装備を身に着け、岩石砂漠への出発準備を整えている。

青真は腰へ差した蒼海の剣へ軽く触れ、小さく息を吐いた。


「いよいよ初のダンジョン以外の依頼だな。」

「気合い入ってるわね。」

アルナが笑う。

「当然だろ。」

青真も笑い返し、仲間達と共に門を潜った。


その途中、一人の男が手を振る。

「おーい。」

聞き覚えのある豪快な声だった。

振り向くと、萬屋『黒鉄』の店主・黒鉄が腕を組んで立っている。


「見送りに来てくれたんですか。」

メグが尋ねる。

「まあな。」

黒鉄は青真の腰にある蒼海の剣へ視線を向けた。

「少し貸してみろ。」


青真は剣を手渡す。

黒鉄は刀身を静かに眺めると、ゆっくり頷いた。

「良い剣だ。」

「海皇を倒した褒美としては申し分ねぇ。」

「魔力を流してみろ。」


青真が剣を握り直し、魔力を流し込む。

すると蒼い刀身が淡く輝き始め、水滴のような光が刃全体を包み込んだ。

刃先から滴る雫は地面へ落ちることなく、そのまま霧となって消えていく。


「これが蒼海の剣の能力だ。」

「水属性付与。」

「魔力を流すだけで刃そのものへ水属性が宿る。」

「飛ぶ斬撃なんて派手な真似はできねぇが、その分一撃一撃の威力は本物だ。」


青真は何度か軽く剣を振る。

空気を裂く音と共に、水を纏った斬撃が滑らかに軌跡を描いた。

「……手に馴染む。」

「今までの剣とは全然違う。」


黒鉄は満足そうに笑う。

「その剣は使い込むほど応えてくれる。」

「大事にしてやれ。」

「はい。」

青真は力強く頷いた。


王都を出発して二日後。

一行は岩石砂漠へ到着した。

見渡す限り岩と砂だけが広がる過酷な大地。

灼熱の風が砂を巻き上げ、巨大な岩柱が幾本も突き出している。


「暑い……。」

アルナが額の汗を拭う。

「本当に砂漠ね。」

メグも辺りを見回した。

対照的に闇風は黙ったまま周囲へ意識を巡らせている。


「気を付けろ。」

「もう魔物の縄張りだ。」

その一言で全員の表情が引き締まる。

青真も蒼海の剣へ手を掛け、慎重に歩みを進めた。


その時だった。

岩陰から複数の影が飛び出す。

鋭い毒針を持つ巨大な蠍。

ロックスコーピオンが三体、一斉に襲い掛かってきた。


「来た!」

青真は一歩踏み出す。

未来予知が数秒先の動きを映し出す。

右から一体。

左後方から二体。


「まずは一体!」

蒼海の剣へ魔力を流す。

淡い蒼色を纏った刃が一直線に振り抜かれた。

ロックスコーピオンの硬い甲殻が、水を切るような滑らかさで真っ二つに裂ける。


「すげぇ……。」

青真は思わず目を見開いた。

以前の剣なら弾かれていた甲殻を、蒼海の剣は容易く切り裂いていた。

新たな力は、確かな手応えとなって青真の掌へ伝わっていた。


ロックスコーピオンの残る二体も素早く動き出す。

一体が毒針を振り下ろし、もう一体が横から鋏を突き出した。

未来予知が二匹の軌道を映し出す。

「見えてる!」


青真は身体を半歩だけずらし、鋏を回避する。

その勢いのまま蒼海の剣を横薙ぎに振るう。

蒼い刃が水を纏い、ロックスコーピオンの脚をまとめて斬り落とした。

体勢を崩したところへ闇風の短剣が首元へ突き刺さる。


最後の一体はアルナの放った風を纏う矢によって動きを止められる。

「今です!」

カレンが一気に距離を詰める。

鋭い一閃が振り抜かれ、ロックスコーピオンは静かに崩れ落ちた。


「前より連携も良くなってきたな。」

青真が剣を鞘へ納める。

「海皇戦を乗り越えた成果でしょう。」

カレンは静かに答えた。

メグも小さく頷き、魔人形を回収していく。


そのまま砂漠の奥へ進む。

乾いた風が吹き抜け、辺りには生き物の気配すら感じられない。

岩柱が迷路のように並び、不気味な静寂だけが支配していた。

闇風は足を止め、ゆっくり目を閉じる。


「……静かすぎる。」

「魔物がいない?」

アルナが周囲を見回す。

闇風は首を横へ振った。

「違う。」

「全部逃げてる。」


その言葉と同時だった。

ドゴォンッ!!


地面が大きく揺れる。

砂煙が舞い上がり、巨大な岩柱が音を立てて崩れ落ちた。

青真達は咄嗟に飛び退く。


「何だ!?」

青真が叫ぶ。

未来予知が発動する。

脳裏へ映ったのは、砂の下を高速で移動する巨大な影だった。

その大きさは、先程のロックスコーピオンとは比べ物にならない。


「来る!」

青真が声を上げる。

次の瞬間、地中から巨大な毒針だけが姿を現し、一瞬で再び砂の中へ消えた。

その一撃だけで地面には大穴が穿たれている。


メグが息を呑む。

「あれが……。」

カレンも剣を構えたまま動かない。

「間違いありません。」

「主魔物です。」


砂漠の遥か先。

巨大な岩山の頂上から、二つの赤い瞳が静かに青真達を見下ろしていた。

姿はまだ見えない。

だが、その圧倒的な威圧感だけで、この地の支配者であることは十分に伝わってくる。


青真は蒼海の剣の柄を強く握る。

「毒砂蠍蝎……。」

「次はいよいよ、お前の番だ。」

巨大な魔物は低い咆哮を響かせると、再び砂の中へ姿を消した。

決戦の時は、すぐそこまで迫っていた。


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