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第101話:深海神殿

幻霧樹海攻略から二日後。

王都の冒険者ギルドには、朝から異様な緊張感が漂っていた。

青真達はギルドマスター直々の呼び出しを受け、会議室へと案内される。

「嫌な予感しかしねぇな」と青真が呟くと、メグが資料を眺めながら肩をすくめた。


「普通の依頼ではないでしょうね。ギルドマスター直々ですし」

闇風も短くそう言い、周囲へ視線を走らせる。

カレンは無言で頷き、アルナは僅かに緊張した面持ちを見せていた。

そして一行は、重い扉の先へと足を踏み入れる。


部屋の中央には巨大な地図が広げられ、その前にギルドマスターと幹部達が並んでいた。

空気は一瞬で張り詰める。

「よく来た」とギルドマスターが静かに口を開いた。

その一言だけで、この場の案件が極めて重大であることが伝わってくる。


「今回お前達に依頼したいのは――A級ダンジョン『深海神殿』の攻略だ」

その言葉に、アルナが息を呑む。

カレンの視線が鋭く地図へ向けられ、メグは静かに指先を止めた。

青真は一度だけ目を細め、口元を引き締める。


ギルドマスターは海域を指差しながら説明を続けた。

深海神殿は王都南方の海域に存在する古代遺跡であり、かつては聖地と呼ばれていた場所だ。

しかし現在はA級ダンジョンへと変貌し、侵入すら困難な危険地帯となっている。

そしてその海域には、一体の異常存在が確認されていた。


「海皇」

その名が出た瞬間、空気がさらに重くなる。

土地神級の守護存在であったはずの魔物が、数年前を境に凶暴化し暴走しているという。

調査隊も消息を絶ち、原因すら不明のままだった。


「つまりこれは単なる討伐依頼じゃないってことか」

青真の言葉にギルドマスターは静かに頷く。

調査と攻略、両方を同時に行う極めて危険な任務。

そしてその場で、もう一人の同行者が紹介されることになる。


扉が開き、規則正しい足音が響く。

青い外套を纏った青年が現れ、その手には巨大な三叉槍。

蒼い魔石を宿した穂先が淡く輝き、ただ者ではない気配を放っていた。

ギルドマスターは告げる。七英雄の一人――「水帝」だと。

会議室に現れた青年は、淡々とした視線で青真達を一瞥した。

青い外套の下には軽装の戦闘服、その腰には巨大な三叉槍が静かに収まっている。

穂先の魔石は海の底を思わせる深い蒼色で、見る者に圧を与えていた。

その存在感だけで、彼が常人ではないことは明白だった。


「紹介しよう」ギルドマスターが静かに告げる。

「人類最強の七人、“七英雄”の一角」

「二つ名――水帝」

その言葉に、空気が一段階重くなる。


水帝は一歩前に出ると、静かに口を開いた。

「今回の任務、足を引っ張るつもりはない」

淡々とした声だが、そこには揺るぎない自信があった。

青真はその言葉を真正面から受け止め、視線を返す。


「こっちも同じだ。守られる気はない」

短い応答。だが互いに実力を測る空気が一瞬流れる。

メグは軽く息を吐き、闇風は無言で水帝を観察していた。

カレンは一歩引き、既に戦力分析に入っている。


「深海神殿は特殊だ」水帝が続ける。

「水圧、魔力濃度、視界阻害、全部が揃っている」

「普通の攻略方法は通用しない」

その説明は簡潔だが、経験に裏打ちされた重みがあった。


ギルドマスターが補足するように地図を叩く。

「移動は船だ。すでに用意してある」

「到着後は即潜入。長居はできない」

その一言で、作戦の厳しさが明確になる。


数時間後、一行は港へと移動していた。

海は異様なほど静まり返り、水平線の奥に黒い影がうっすらと揺れている。

まるで何か巨大なものが海の底に沈んでいるかのような圧迫感があった。

その海域が深海神殿へ続く入口だと、誰もが理解していた。


「ここから先が本番だな」青真が静かに呟く。

水帝は海を見つめたまま、小さく息を吐いた。

「……この海は、生きている」

その言葉に一瞬だけ空気が重くなる。


メグは海面を見つめながら眉をひそめた。

「魔力濃度が異常ね。普通の海じゃない」

闇風は何も言わず、ただ海の奥を見据えていた。

カレンは既に戦闘時の動線を頭の中で組み立てている。


そしてアルナが静かに呟いた。

「何か……いる」


その瞬間、遠くの海面がわずかに揺れた。

だがそれは波ではない。

まるで“何か巨大な存在が呼吸した”ような一瞬の歪みだった。


水帝はゆっくりと三叉槍を握り直す。

「明日、この海に入る」

「そこから先は……別世界だ」


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