第9話 深層接続
壊れることでしか、
辿り着けない領域がある。
HYDRA CHRYSALIS
新章:ORIGIN
第9話 深層接続
黒だった。
上下も。
距離も。
時間すら曖昧な空間。
捕食体の内部。
「……っ」
榊の右腕が崩れていく。
水になり。
粒子になり。
消えていく。
「――侵食進行率、43%」
声が響く。
捕食体。
内部そのものが、
意思を持っている。
「……うるせぇよ」
榊が吐き捨てる。
呼吸が重い。
意識が遠い。
だが。
見えている。
奥。
さらに深い場所。
“核”。
「……そこだ」
一歩進む。
足場はない。
だが沈まない。
水が支えている。
いや。
“原初”が繋いでいる。
「――適合体、崩壊確認」
捕食体の声。
どこか愉しげだった。
「――統合開始」
その瞬間。
黒が流れ込む。
榊の胸へ。
頭へ。
意識へ。
「がっ……!!」
記憶。
知らない世界。
知らない文明。
喰われた命。
消えた星。
絶望。
狂気。
終末。
「……っ、あぁぁ!!」
膝をつく。
精神が削られる。
境界が消えていく。
自分が誰なのか、
分からなくなる。
「――同化」
黒が囁く。
優しく。
甘く。
「――一つになれ」
榊の視界が揺れる。
楽になる。
抗わなければ。
苦しまなくて済む。
「――個の消失は救済」
声が響く。
何度も。
深く。
沈むように。
「……うるせぇ」
榊が呟く。
小さい声。
だが。
消えない。
「――抵抗、無意味」
黒が押し寄せる。
侵食率が上がる。
右肩が消える。
胸部が崩れる。
「……まだだ」
目は死んでいない。
むしろ。
強くなっている。
「俺は……」
思い出す。
雨の立体駐車場。
AQUA-1。
先行個体。
都市。
戦い。
ここまで来た理由。
「……俺は」
黒が囁く。
「――不要」
だが。
榊は笑う。
「違ぇよ」
その瞬間。
胸の奥で、
“水”が脈動する。
深く。
静かに。
そして。
圧倒的に。
「――原初反応」
捕食体の声が変わる。
初めて。
明確な焦り。
「……今さらだ」
榊が立ち上がる。
崩れた体のまま。
だが。
水が補完している。
腕が再構築される。
青白い水で。
完全に。
「――接続率上昇」
世界が揺れる。
黒が押し返される。
「――ありえない」
捕食体が震える。
内部全体が。
「……見えた」
榊の目が光る。
深層。
さらに奥。
核の中心。
そこに。
“閉じ込められているもの”がある。
「……お前」
近づく。
ゆっくりと。
黒が止めようとする。
だが。
もう遅い。
「――接触禁止!!」
初めて。
捕食体が叫ぶ。
感情をむき出しに。
榊が笑う。
「やっぱあるんだな」
手を伸ばす。
核へ。
その瞬間。
映像が流れ込む。
原初の海。
無数の存在。
生まれては消える世界。
そして。
一つの失敗。
暴走。
無限捕食。
「……お前」
理解する。
捕食体の正体。
「捨てられたのか」
沈黙。
一瞬。
世界が止まる。
「――黙れ」
初めて。
怒り。
捕食体の感情。
黒が暴走する。
内部空間が崩壊を始める。
「――排除」
榊へ向かって、
黒い槍が無数に走る。
だが。
榊は動かない。
「……遅ぇ」
水が広がる。
今までとは違う。
深層水。
原初に近い力。
黒を飲み込む。
逆に。
「――なっ」
捕食体が揺れる。
恐怖している。
初めて。
「……終わらせる」
榊が核へ手を伸ばす。
あと少し。
その時。
外側から、
巨大な衝撃。
管理体の声が響く。
「――時間限界!」
空間が裂ける。
捕食体が暴れる。
崩壊寸前。
「……っ」
榊が歯を食いしばる。
届くか。
間に合うか。
核が光る。
黒が絶叫する。
世界が。
崩れる。
その中心で。
榊の指先が、
ついに核へ触れた。
―――続く
第9話を読んでいただきありがとうございます。
榊は捕食体の内部で、
ついに“核”へ到達しました。
そして明かされる、
捕食体の真実。
次話では、
この戦いが一つの決着を迎えます。




