第10話 核
救済と破壊は、
時に同じ形をしている。
HYDRA CHRYSALIS
新章:ORIGIN
第10話 核
触れた。
ついに。
捕食体の“核”へ。
その瞬間。
世界が静止する。
黒が止まる。
時間が止まる。
音も。
圧も。
すべて。
「――」
沈黙。
そして。
声が響く。
今までとは違う。
低く。
静かで。
どこか幼い声。
「……痛かった」
榊の目が揺れる。
「……お前」
核の中。
小さな光。
人の形にも見える。
だが。
不安定。
崩れ続けている。
「――ずっと」
声が震える。
「――喰べなきゃ、消えた」
黒が揺れる。
苦しむように。
「……そうか」
榊が呟く。
理解してしまう。
こいつは。
最初から怪物だったわけじゃない。
「――失敗した」
光が歪む。
「――捨てられた」
原初の海。
進化の実験。
その果てに生まれた異常。
制御不能。
だから。
隔離された。
封じられた。
「……一人だったのか」
沈黙。
黒がわずかに震える。
肯定。
「――だから喰べた」
寂しさを埋めるように。
空白を埋めるように。
世界を。
命を。
存在を。
「……馬鹿だな」
榊が笑う。
優しく。
ほんの少しだけ。
「そんなやり方じゃ、埋まんねぇよ」
その瞬間。
黒が揺れる。
大きく。
感情が波打つ。
「――わからない」
苦しそうに。
「――止まれない」
崩壊が加速する。
空間が裂ける。
外側では、
管理体が必死に支えている。
「――限界接近!」
世界全体が軋む。
「……なら」
榊が核へ近づく。
さらに。
「俺が止める」
黒が震える。
拒絶。
恐怖。
「――嫌だ」
子供のような声。
「――消えたくない」
榊の目が細くなる。
「……消さねぇよ」
手を伸ばす。
ゆっくりと。
「終わらせるだけだ」
核へ触れる。
完全に。
その瞬間。
深層水が流れ込む。
青白い光。
優しく。
静かに。
黒を包む。
「――ぁ……」
捕食体の声が変わる。
苦痛じゃない。
安堵。
初めて。
「……眠れ」
榊が言う。
世界が震える。
黒が崩れる。
だが。
暴走ではない。
静かに。
穏やかに。
海へ還るように。
「――あ……」
最後の声。
小さい。
消えそうな。
「――ありがとう」
光が消える。
完全に。
静寂。
その瞬間。
内部空間が崩壊を始める。
「――榊!」
管理体の声。
裂け目が開く。
脱出路。
「……っ」
榊が動こうとする。
だが。
体が崩れる。
深層接続の反動。
限界を超えた。
「……やば」
右半身が水になる。
制御できない。
「――適合限界超過」
管理体が近づく。
初めて。
焦っている。
「……終わりか?」
榊が笑う。
力が抜ける。
その時。
胸の奥。
原初が脈動する。
強く。
深く。
「――進化反応」
管理体が止まる。
榊の体が光る。
青白く。
崩壊していた肉体が、
再構築されていく。
水と。
人間の境界が混ざりながら。
「……はは」
榊が息を吐く。
「マジかよ」
完全ではない。
だが。
もう分かる。
戻れない。
“人間だけ”には。
「――段階移行確認」
管理体が静かに言う。
榊が立ち上がる。
崩壊する空間の中で。
目が光る。
深く。
静かに。
「……終わったな」
管理体が首を振る。
「――否定」
一拍。
「――始まった」
その瞬間。
遠く。
さらに深い場所で。
“何か”が目を開く。
原初の海。
その最深部。
観測。
確認。
そして――
反応。
世界が、
再び動き始める。
―――続く
第10話を読んでいただきありがとうございます。
捕食体との戦いは、
一つの決着を迎えました。
しかし榊は、
完全に新たな段階へ進み始めています。
そして原初の最深部では、
さらなる存在が動き始めました。




