第8話 捕食
喰われる。
存在ごと、
世界ごと。
HYDRA CHRYSALIS
新章:ORIGIN
第8話 捕食
夜空が裂けていた。
都市の上空に広がる、
巨大な黒。
“捕食体”。
それは生物ではなかった。
現象。
災害。
あるいは――
宇宙そのものの異物。
「……デカすぎだろ」
榊が空を見上げる。
水が震えている。
恐怖。
今まで感じたことのない、
本能的な拒絶。
「――接触禁止」
管理体が言う。
その声は低い。
初めて、
明確な緊張が混ざっていた。
「――情報汚染確認」
次の瞬間。
捕食体が動く。
ゆっくりと。
それだけで、
空間が歪む。
都市のビル群が浮く。
重力が狂う。
「なっ……!」
崩壊。
道路がめくれ上がる。
建物が圧縮される。
まるで紙細工。
「――領域侵食」
管理体が手を上げる。
白い光が広がる。
空間固定。
崩壊が止まる。
だが――
「……押されてる」
榊が呟く。
管理体の領域が、
少しずつ侵食されている。
“喰われている”。
「――捕食開始」
捕食体の声。
頭の中へ直接響く。
低い。
重い。
そして。
圧倒的。
「……喋るのかよ」
榊が笑う。
だが。
額には汗。
理解している。
今までの敵とは違う。
“存在の法則”が違う。
「――適合体」
捕食体が榊を見る。
その瞬間。
視界が割れる。
「っ……!」
榊の脳内に、
大量の映像が流れ込む。
喰われる星。
沈む文明。
消えていく存在。
数えきれない世界。
「……っ、ぐ……!」
膝をつく。
水が暴れる。
制御できない。
「――侵食開始」
管理体が即座に動く。
榊の前へ。
白い壁を展開。
映像が遮断される。
「……助かった」
息を吐く。
だが。
まだ残っている。
頭の奥に。
“喰われた記憶”。
「――理解したか」
管理体が言う。
榊が立ち上がる。
ゆっくりと。
「……ああ」
目が変わっている。
完全に。
「こいつは」
空を見る。
巨大な黒。
都市すら小さく見える。
「世界を食ってる」
管理体が沈黙する。
否定しない。
つまり事実。
「――原初の失敗体」
その言葉。
空気が止まる。
「……失敗?」
榊が眉をひそめる。
「――進化過程異常個体」
淡々と続ける。
「――無限捕食へ変質」
理解する。
進化の果て。
壊れた存在。
「……化け物だな」
榊が笑う。
乾いた笑い。
その瞬間。
捕食体が動く。
速い。
巨大な質量が、
一瞬で距離を潰す。
「――来る!」
管理体が叫ぶ。
初めて。
感情を込めて。
榊が反応する。
水を展開。
都市全域へ。
巨大な水壁。
次の瞬間。
衝突。
世界が揺れる。
轟音。
いや。
音ではない。
空間そのものが悲鳴を上げている。
「ぐっ……!!」
押される。
水壁が崩れる。
一瞬で。
「――侵食率上昇」
管理体が支える。
白い光が広がる。
だが。
止まらない。
喰われる。
すべて。
「……なら!」
榊が前へ出る。
水が集まる。
極限まで。
「こっちから飲み込む!」
突撃。
真正面から。
管理体が目を見開く。
「――待て」
遅い。
榊はすでに、
捕食体の領域へ飛び込んでいた。
黒。
深い闇。
その内部。
「……ここが」
呼吸ができない。
上下もない。
存在が溶ける感覚。
「――侵食完了」
声。
すぐ近く。
榊の腕が崩れ始める。
水になって。
消えていく。
「っ……!」
だが。
榊は笑う。
狂気のように。
「……なるほどな」
見えている。
内部構造。
核。
中心。
「そこか」
手を伸ばす。
崩れながら。
それでも。
「届け……!!」
その瞬間。
榊の中の“原初”が反応する。
深層水が暴走。
黒を押し返す。
「――異常」
捕食体が初めて反応する。
動揺。
「……見つけたぞ」
榊の目が光る。
完全に。
人間の目じゃない。
「お前の心臓」
次の瞬間。
世界が白く弾ける。
―――続く
第8話を読んでいただきありがとうございます。
ついに“捕食体”との本格戦闘が始まりました。
榊は自ら侵食領域へ飛び込み、
その内部へ到達します。
次話では、
捕食体の核心と、
榊のさらなる変化が描かれます。




