第22話 終焉核
人は弱い。
傷つく。
壊れる。
孤独にもなる。
それでも。
誰かを守りたいと願った瞬間、
人は“終わり”に抗う存在になる。
HYDRA CHRYSALIS
新章:ORIGIN
第22話 終焉核
世界が軋んでいた。
原初最深部。
黒い穴は、
さらに巨大化している。
外宇宙捕食者。
文明終焉存在。
宇宙そのものを侵食する災厄。
その中心。
黒い“核”。
榊の一撃によって、
確かに亀裂が入っていた。
だが。
終わっていない。
「――自己修復開始」
無数の“目”が開く。
黒いノイズ。
侵食。
空間そのものが再構築されていく。
「……ちっ」
榊が膝をつく。
右腕。
完全崩壊。
深海色の粒子となって消えていた。
呼吸も浅い。
身体維持限界。
「――榊!」
管理体が駆け寄る。
白い光が揺れている。
「――もうやめろ!」
榊は笑う。
疲れ切った顔で。
「……今さら無理だろ」
その時。
起源個体の声が響く。
榊の内側から。
「――核が閉じる」
榊が顔を上げる。
黒い核。
亀裂が再生し始めている。
「――次はない」
静かな声。
「――今しか壊せない」
榊が息を吐く。
長く。
深く。
「……だろうな」
立ち上がる。
フラつきながら。
その背中。
星海翼は、
半分以上崩壊していた。
だが。
まだ光っている。
「――榊」
管理体の声。
震えている。
「――消えるぞ」
榊は少しだけ黙る。
そして。
小さく笑った。
「……怖ぇよ」
本音だった。
初めて。
本当に。
「消えるのは怖ぇ」
沈黙。
深海が静まる。
「でも」
榊が前を見る。
黒い核。
世界を喰う終焉。
「ここで逃げたら」
深海色の瞳が揺れる。
人間の色を残しながら。
「全部終わる」
その瞬間。
黒い穴が脈動する。
「――抵抗確認」
「――最終捕食開始」
宇宙が割れる。
巨大な黒い波。
銀河規模。
原初最深部を埋め尽くしながら、
榊へ迫る。
「――来るぞ!!」
管理体が叫ぶ。
だが。
榊は動かない。
静かに目を閉じる。
都市を思い出す。
雨。
立体駐車場。
AQUA-1。
戦い。
笑い声。
泣き声。
全部。
脳裏を流れていく。
「……守る」
小さく呟く。
その瞬間。
星海翼が発光する。
地球全海域が共鳴。
惑星全体の海が、
榊へ応える。
「――星海出力、限界突破!」
管理体が目を見開く。
榊の胸。
原初が輝いている。
深海色と人間の光。
二つが重なって。
新しい光へ変わっていく。
「……行くぞ」
榊が前へ出る。
黒い波が迫る。
世界を消す終焉。
その中心へ。
榊が飛ぶ。
一直線。
「うぉぉぉぉぉ!!」
咆哮。
星海翼が全開放される。
宇宙を覆うほどの蒼。
黒い波と衝突。
その瞬間。
全宇宙が白く染まった。
音が消える。
時間が止まる。
だが。
榊は止まらない。
黒い波を突き破る。
肉体が崩れる。
左脚消失。
左腕崩壊。
それでも。
前へ。
「――捕食不能」
無数の“目”が揺れる。
初めて。
混乱。
「――理解不能」
榊が笑う。
ボロボロのまま。
「……だろうな」
核が見える。
あと少し。
あと数メートル。
だが。
黒い腕が榊を貫く。
腹部消失。
「がっ……!!」
意識が飛びかける。
深海が遠のく。
その時。
声。
世界中から。
無数に。
「頑張れ……!」
「負けるな……!」
「立て!!」
避難シェルター。
通信。
都市。
人々の声。
全部。
榊へ届く。
「……っ」
瞳が開く。
人間の色。
強く。
「……まだだぁぁぁ!!」
最後の力。
星海翼を一点収束。
超圧縮。
限界突破。
榊が黒い核へ拳を叩き込む。
亀裂。
拡大。
崩壊。
そして――
黒い核が、
完全に砕け散った。
その瞬間。
外宇宙捕食者の“目”が、
初めて悲鳴を上げた。
―――続く
第22話を読んでいただきありがとうございます。
榊はついに、
外宇宙捕食者の“終焉核”へ到達しました。
肉体を失いながらも、
最後まで前へ進み続けた榊。
そして砕かれた終焉核。
しかし、
物語はまだ終わっていません。




