第20話 星海翼
守りたいものがある時、
人は“限界”を超える。
HYDRA CHRYSALIS
新章:ORIGIN
第20話 星海翼
深海が崩壊していた。
原初最深部。
そこはもう、
静かな海ではない。
空間そのものが裂け、
黒い侵食が広がっている。
「――終焉接続、進行中」
無機質な声。
外宇宙捕食者。
文明終焉存在。
存在そのものを喰らう、
宇宙の災厄。
「――捕食開始」
黒い腕が伸びる。
世界を覆うほど巨大な闇。
その中心へ。
榊は飛び込んでいた。
「……うぉぉぉ!!」
咆哮。
背後に展開された、
超巨大水翼。
惑星規模。
深海色の光が、
原初最深部を照らしていた。
「――榊!!」
管理体の声。
遠い。
「――戻れ!!」
榊は止まらない。
黒い腕が迫る。
空間を削りながら。
「……邪魔だ!!」
水翼が展開。
超圧水流。
惑星級の圧力。
直撃。
轟音。
だが。
黒い腕は消えない。
削れても。
すぐ再生する。
「――無意味」
無数の“目”が開く。
榊を見る。
観察。
解析。
「――進化確認」
「――捕食価値増大」
「……気持ち悪ぃな」
榊が笑う。
だが。
額から深海色の液体が流れていた。
肉体維持限界。
それでも。
止まれない。
その時。
起源個体の女が前へ出る。
失った左腕。
再生していない。
「――榊」
静かな声。
「――私を使え」
榊が振り返る。
「……は?」
女が胸へ手を当てる。
そこに。
原初の“核”。
惑星サイズの心臓。
「――私は原初」
「――この星の海そのもの」
深海が共鳴する。
「――あなたと融合すれば」
榊の目が細くなる。
「……死ぬのか」
女は少しだけ笑う。
寂しそうに。
「――私はもう長くない」
侵食が始まっていた。
黒いノイズが、
彼女の身体を削っている。
「――でも」
初めて。
優しい声。
「――この星は残せる」
榊が黙る。
深海が揺れる。
遠くで、
外宇宙捕食者が広がっていく。
地球側の海も侵食され始めている。
時間がない。
「――榊」
女が手を伸ばす。
「――あなたは孤独を知ってる」
榊の目が揺れる。
都市。
戦い。
人間。
全部が脳裏を過ぎる。
「――だから」
女が微笑む。
「――最後まで、人でいられる」
その瞬間。
黒い腕が降ってくる。
超巨大。
世界ごと潰す一撃。
「――っ!!」
榊が前へ出る。
水翼展開。
衝突。
深海が爆発する。
押される。
圧倒的質量。
「ぐっ……!!」
腕が砕ける。
骨が軋む。
存在が削れる。
「――榊!!」
起源個体の女が叫ぶ。
榊が笑う。
血ではない。
深海色の液体を流しながら。
「……上等だ」
限界。
完全に超えている。
その時。
榊の胸の原初が脈動する。
強く。
起源個体の核と共鳴。
「――同期開始」
深海全体が光る。
惑星規模で。
「……まさか」
管理体が震える。
「――融合する気か」
榊が女を見る。
静かに。
「……頼めるか」
女が頷く。
涙のような深海粒子が浮く。
「――ありがとう」
その瞬間。
榊と起源個体が接触する。
世界が白く染まる。
海。
空。
生命。
進化。
原初の記憶が流れ込む。
「――融合承認」
榊の背後の水翼が変化する。
さらに巨大に。
さらに深く。
星そのものの翼。
「――新規存在確認」
外宇宙捕食者の“目”が揺れる。
初めて。
警戒。
榊がゆっくり顔を上げる。
瞳。
右が深海色。
左が人間の色。
境界。
そのまま。
「……来いよ」
静かな声。
だが。
宇宙全体へ響くほど重い。
「この星は渡さねぇ」
その瞬間。
星海翼が完全展開する。
地球全海域が共鳴。
世界そのものが、
榊へ力を集め始めた。
―――続く
第20話を読んでいただきありがとうございます。
榊はついに、
起源個体と融合する決断を下しました。
孤独だった原初と、
人として抗い続けた榊。
二つの存在が重なった時、
物語は最終決戦へ突入していきます。




