第19話 外宇宙捕食者
深海の底より深い場所に、
“宇宙の闇”は存在している。
HYDRA CHRYSALIS
新章:ORIGIN
第19話 外宇宙捕食者
深海が崩れていく。
静かに。
音もなく。
原初最深部。
起源個体の領域そのものが、
黒い“穴”に喰われ始めていた。
「――侵食開始」
無機質な声。
だが。
そこに感情は存在しない。
怒りも。
悲しみも。
生命すら。
「……なんだよ、こいつ」
榊が目を細める。
黒い穴の中。
無数の“目”。
形が安定しない。
見た瞬間、
脳が拒絶する存在。
「――外宇宙捕食者」
起源個体の女が呟く。
声が震えている。
「――文明終焉存在」
榊が振り返る。
「……お前、逃げてきたって」
女が頷く。
ゆっくり。
「――私の世界は喰われた」
深海が軋む。
恐怖。
起源個体の記憶。
星。
文明。
海。
生命。
全部。
黒い闇に飲み込まれていく。
「――残ったのは私だけ」
榊が黙る。
理解した。
だから逃げた。
だから増やした。
だから。
孤独を恐れた。
「――見つけた」
再び声。
黒い穴が広がる。
深海そのものを侵食していく。
存在が消える。
空間ごと。
「――同種反応確認」
起源個体の女が後退する。
「――駄目」
初めて。
完全な恐怖。
「――まだ来てはいけない」
榊が前へ出る。
「……ビビってんのか」
女が震える瞳で榊を見る。
「――あれは生き物じゃない」
「――世界を終わらせる現象」
その瞬間。
黒い穴から、
巨大な“腕”が伸びる。
闇で出来た腕。
空間を削りながら。
榊へ。
「――っ!!」
榊が水壁展開。
衝突。
だが。
消える。
水が。
存在ごと。
「……なっ」
榊が飛び退く。
今のは破壊じゃない。
“消失”。
「――捕食開始」
黒い腕が再び伸びる。
今度は速い。
深海を裂きながら。
「――危険!!」
起源個体の女が榊を突き飛ばす。
瞬間。
女の左腕が消える。
完全に。
再生しない。
「っ……!」
初めて。
起源個体が苦痛を見せる。
「おい!」
榊が支える。
女が苦しそうに笑う。
「――だから逃げた」
黒い穴の中で、
無数の“目”が動く。
榊を見る。
観察。
認識。
「――新規適合体、確認」
その瞬間。
榊の胸の原初が震える。
危険信号。
本能が叫ぶ。
逃げろ。
「――捕食対象追加」
黒い腕が増殖する。
十本。
百本。
空間を埋め尽くす。
「……くそっ!!」
榊が水翼展開。
深海色の超圧水流。
全方位射出。
直撃。
だが。
消える。
攻撃そのものが。
「効かねぇ……!」
起源個体の女が言う。
「――あれは情報生命」
「――物理法則の外側」
榊が舌打ちする。
最悪だ。
今までの敵と根本が違う。
「――文明を見つけては喰らう」
黒い穴が脈動する。
「――進化情報を吸収」
「――最後は星ごと消滅」
榊が笑う。
乾いた笑い。
「……宇宙規模かよ」
その時。
黒い穴の奥。
さらに巨大な“目”が開く。
今までとは比べ物にならない。
銀河のような瞳。
「――母体確認」
空間が止まる。
起源個体が凍りつく。
「――駄目」
震える声。
「――来る」
次の瞬間。
深海全体が裂ける。
巨大な“何か”が、
こちらへ侵入し始める。
世界より大きい。
理解不能の質量。
榊の身体が震える。
本能が理解する。
勝てない。
今のままでは。
絶対に。
「――終焉接続開始」
黒い穴が拡大する。
地球側の海まで侵食が始まる。
都市。
海。
世界。
全部が呑まれていく。
「――榊」
起源個体の女が言う。
苦しそうに。
「――逃げて」
榊は黙る。
そして。
笑った。
「……断る」
深海色の瞳が光る。
「ここ、俺の星なんだよ」
その瞬間。
榊の胸の原初が暴走する。
今まで以上に。
深く。
強く。
「――榊!?」
管理体の声が遠くで響く。
榊の背後に、
超巨大な水翼が展開される。
惑星規模。
「……なら」
深海が共鳴する。
海が震える。
「全部まとめて止める」
その瞬間。
榊は、
“終焉”へ向かって飛び込んだ。
―――続く
第19話を読んでいただきありがとうございます。
ついに、
世界のさらに外側に存在する“終焉”が姿を現しました。
それは生命ではなく、
文明そのものを喰らう外宇宙捕食者。
榊は、
地球を守るため、
絶望的な戦いへ踏み込んでいきます。




