第15話 水環
世界を壊す力と、
世界を守る力は、
紙一重だ。
HYDRA CHRYSALIS
新章:ORIGIN
第15話 水環
空が歪んでいた。
都市上空。
超巨大水環。
大気中の水分。
海。
河川。
地下水。
すべてを巻き込みながら、
リング状の構造体が空に浮かんでいる。
「……なんだよ、これ」
避難中の人々が立ち止まる。
恐怖。
理解不能。
まるで。
神話。
「――エネルギー量、測定不能!」
監視施設が混乱していた。
モニターの数値が壊れている。
「都市全域の重力異常を確認!」
「海面上昇継続!」
警報。
怒号。
混乱。
だが。
その中心。
榊だけが静かだった。
「……集まるな」
小さく呟く。
水環が脈動する。
まるで生き物。
「――榊」
管理体が現れる。
白い光をまといながら。
「――止めろ」
真剣な声。
初めて。
命令ではなく、
懇願に近かった。
榊が笑う。
「……無理だな」
深海色の瞳。
完全に変質している。
「もう勝手に動いてる」
その瞬間。
起源個体の“目”が開く。
さらに。
巨大に。
世界中の海が揺れる。
「――排除開始」
空が割れる。
無数の水槍。
都市へ降り注ぐ。
流星群のように。
「っ……!」
管理体が障壁展開。
白い壁。
だが。
数が多すぎる。
防ぎ切れない。
ビルが消し飛ぶ。
道路が蒸発する。
「――被害拡大!」
榊が空を見る。
静かに。
そして。
指を鳴らす。
その瞬間。
超巨大水環が回転する。
轟音。
世界中の水が共鳴する。
「――迎撃開始」
無数の水流。
超高圧。
空へ。
水槍群へ衝突。
空中爆発。
蒸気。
衝撃波。
夜空が白く染まる。
「……防いだ」
誰かが呟く。
だが。
終わらない。
起源個体の“目”が、
さらに開いていく。
「――適合体、危険認定」
世界が軋む。
海面が盛り上がる。
都市沿岸が崩壊していく。
「……来るぞ」
榊が目を細める。
次の瞬間。
海が割れる。
巨大な腕。
水で形成された、
山のような腕。
海から出現。
都市へ振り下ろされる。
「――っ!!」
管理体が飛ぶ。
白い光刃。
斬撃。
巨大腕を切断。
だが。
再生。
瞬時に。
「――再生速度、異常!」
管理体が押される。
初めて。
完全に。
「……どけ」
榊が前へ出る。
ゆっくり。
深海色の水が渦巻く。
「――榊、待て!」
遅い。
榊が右手を上げる。
巨大腕が停止。
空中で。
完全に。
「……壊すぞ」
握る。
その瞬間。
巨大腕が圧縮される。
内側へ。
凄まじい水圧。
そして。
粉砕。
海そのものが爆発する。
衝撃波で、
都市の窓ガラスが砕け散る。
「――っ」
管理体が息を呑む。
榊を見る。
その姿。
半分以上、
人間ではない。
深海色の流体が、
身体を循環している。
「……気持ち悪ぃな」
榊が自分の腕を見る。
指先が液体化している。
「――限界だ」
管理体が低く言う。
「――それ以上は、お前が消える」
榊が笑う。
静かに。
「……消えねぇよ」
だが。
その瞬間。
世界が止まる。
風。
雨。
波。
全部。
完全静止。
「……っ」
榊が顔を上げる。
起源個体の“目”。
真正面から。
こちらを見ている。
そして。
声。
世界そのものから響く。
「――接続完了」
その瞬間。
榊の胸が光る。
原初が暴走する。
「がぁぁっ!!」
激痛。
全身が裂ける。
水が噴き出す。
「――榊!!」
管理体が駆け寄る。
だが。
近づけない。
周囲の空間が、
完全に深海化している。
超圧。
存在崩壊レベル。
「……くそ」
榊が苦しむ。
だが。
視界の奥。
見えてしまう。
原初最深部。
そこに。
巨大な“核”。
世界より古いもの。
「――来い」
起源個体の声。
直接。
脳へ。
魂へ。
「――こちらへ」
榊の瞳が揺れる。
人間性。
理性。
境界。
全部。
深海へ沈んでいく。
管理体が叫ぶ。
「――飲まれるな!!」
その瞬間。
榊の背後で、
超巨大水環が暴走を始める。
都市全域を覆うほどに。
終末が、
口を開いた。
―――続く
第15話を読んでいただきありがとうございます。
榊は起源個体との接続を深め、
ついに世界規模の力へ到達し始めました。
しかしその代償として、
彼自身の存在も崩れ始めています。
そして暴走する“水環”。
物語は、
終末の中心へ近づいていきます。




