第13話 守護者
深海には、
触れてはいけないものが眠っている。
HYDRA CHRYSALIS
新章:ORIGIN
第13話 守護者
海が割れていた。
巨大な裂け目。
その中心から、
“それ”は現れた。
遅い。
だが。
圧倒的。
海面そのものが、
持ち上がっているように見える。
「――守護個体、浮上確認」
管理体の声。
低い。
緊張が混ざっている。
榊は海を見つめていた。
巨大な影。
輪郭が見え始める。
長い。
白い外殻。
都市を超える巨体。
そして。
深海のような青い発光。
「……龍?」
思わず呟く。
完全な生物ではない。
だが。
そう表現するしかなかった。
深海から現れた、
超巨大存在。
「――起源防衛機構」
管理体が言う。
「――原初へ接近する存在を排除する個体」
守護個体が動く。
ゆっくり。
その視線が榊へ向く。
瞬間。
空気が沈む。
「……っ」
榊の膝がわずかに落ちる。
重い。
今までとは違う。
純粋な“質量”。
存在密度。
「――警告」
守護個体の声。
海そのものが喋っているような音。
低く。
巨大で。
古い。
「――適合体、進行停止」
榊が笑う。
わずかに。
「……嫌だね」
水が揺れる。
応えるように。
守護個体の青い光が強くなる。
「――危険認定」
海面が盛り上がる。
次の瞬間。
超高圧水流。
都市を貫く速度。
「っ!!」
榊が腕を振る。
水壁展開。
衝突。
轟音。
街が揺れる。
「ぐっ……!」
押される。
重い。
ただの水じゃない。
“深層圧”。
存在そのものを潰してくる。
「――解析不能圧力」
管理体が障壁を追加展開。
それでも。
防ぎ切れない。
ビルが崩れる。
道路が砕ける。
都市が削れていく。
「……やべぇな」
榊が笑う。
だが。
目は逸らさない。
むしろ。
興奮している。
「――榊!」
管理体が叫ぶ。
「――長期戦は不可能!」
分かっている。
今のままでは押し切られる。
守護個体は、
起源個体に近すぎる。
「……なら」
榊が息を吐く。
ゆっくり。
深く。
胸の原初へ意識を落とす。
もっと奥。
さらに下。
「――何をする」
管理体の声。
警戒。
「……借りるだけだ」
水が変わる。
色が深くなる。
青白かった水が、
深海のような蒼へ。
空気が震える。
「――待て」
管理体の顔色が変わる。
初めて。
明確な恐怖。
「――それ以上は」
遅い。
榊の右目が変化する。
瞳が深海色へ染まる。
「……見える」
世界中の水脈。
海流。
雨雲。
全部。
繋がっている。
「――同期率急上昇!!」
守護個体が止まる。
初めて。
動きを止めた。
「……お前」
榊が笑う。
深く。
静かに。
「同じ側か」
その瞬間。
守護個体が咆哮する。
海が爆発する。
巨大な水柱が空を裂く。
「――排除!!」
守護個体が突撃する。
都市が吹き飛ぶ速度。
だが。
榊は動かない。
「……遅ぇ」
一歩。
踏み込む。
その瞬間。
世界中の水が、
榊へ収束する。
雨。
海。
地下水。
大気中の水分。
全部。
「――なっ」
管理体が息を呑む。
ありえない。
起源個体級の干渉。
榊が腕を振る。
深海色の水が走る。
超圧縮。
一直線。
守護個体へ。
直撃。
海が割れる。
空間が裂ける。
守護個体の外殻が、
初めて砕ける。
青い破片が舞う。
「――損傷確認」
守護個体が後退する。
巨大な体を揺らしながら。
「……効くじゃねぇか」
榊が笑う。
だが。
その顔。
すでに人間離れしている。
右半身が半透明化していた。
深海色の水へ変質している。
「――榊、止まれ!」
管理体が叫ぶ。
「――その力は!」
榊が振り返る。
目が合う。
その瞬間。
管理体が凍りつく。
「……止まれねぇよ」
低い声。
今までと違う。
深い。
二重に響く。
「ここまで来たんだ」
海が共鳴する。
起源個体の“目”が開く。
さらに。
大きく。
「――適合進行、確認」
世界が震える。
榊の進化が、
次の段階へ入り始めていた。
―――続く
第13話を読んでいただきありがとうございます。
ついに“守護個体”との戦闘が始まりました。
榊は深層の力へさらに踏み込み、
その代償として変質が加速していきます。
そして起源個体もまた、
榊を“適合体”として認識し始めました。
物語は、
さらに核心へ近づいていきます。




