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自分だけ揚げ物が楽しめる世界  作者: ミツメ


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計り知れない

 全てが捕食対象だった。《 》にとって生活とは飢えを満たすだけの時間。だからこそ味もなく、しっかり食べられてくれない人形がいる場所には近づかないようになった。

 同じ食事なら気軽で美味しい方がいいに決まっていた。


 自分の判断は正解だった。食べ切ったはずの優秀な餌が沢山いる。ウジャウジャといるくせに味は美味いし手間もかからない。最高の存在。

 久しぶりの満腹まで食事を済ませて《 》は一眠りする。再び腹が減るまでの時間を待つために。


——————————————————————————————————

 長月の目に映った殺戮はよくある光景だった。何度も目にしてきた捕食者と被捕食者の関係。人間がこれまで当たり前のように肉を、魚を、野菜を、様々な命を調理して食べてきたように当然の摂理が繰り返されているだけ。

 その対象に自分たちが選ばれるようになっただけだった。

 長月はこの現象を自然と受け入れていた。失い続ける自分の大切な存在と、欠落し続けていく今までの自分。気付きながらもそこを拾おうとする無意味さと、目を向けることで生まれる絶望を味わいたくはなかった。


 だから今度は自分の番が回ってきたんだと長月は覚悟した。

 しかし取り繕った覚悟は精神の弱さを超越することはなかった。死を自覚し、嬲られるように息絶えて行く人を見て、目を逸らしていた絶望と痛みが一瞬にして破裂した。結果、長月は意識を手放す。

 目を覚ました長月はここが死後の世界なんだと錯覚を覚えた。


 それが間違っていたと気づいたのは部屋の片隅で眠る少女を見たから。綜馬の隣にいたあの少女。スラっと長身で目深に被ったフードから覗く顔だけで分かる秀麗な顔立ち。

 どこか闇を抱えているような雰囲気が彼女の魅力を際立たせる。陰鬱とした表情が綜馬を見つめるときだけは解けて体温を取り戻すような。

 そして彼女が計り知れない実力の持ち主である事もわかる。はからずして戦闘を行うようになった長月は、以前に比べ戦ってはいけない強者を理解できるようになっていた。


 彼女の佇まいから見て取れる強さは計り知れない。綜馬からも感じ取れた圧倒的な実力。その強さが二人のこれまでの苦労を語り、そして二人の繋がりの強さの証明でもあるような気がしていた。

 長月が目を覚ました事に気付いたのか、彼女はぼんやりとした目つきでこちらを見ていた。


「あの、ここって、」

「休んで」

「けど、戻らないと」

「ダメ。ここで寝てて」

 彼女から返ってくる言葉は単調で、確定された出来事を述べるようなものだった。


 意識だけでなく脳も完全に目を覚ました事で、長月は自分がしなければならない事に思考が向いた。物資の調達として出発し、そこから消息を絶った。自分の帰りを待つ者たちは不安や疑念を抱えるだろう。あれからどれだけ時間が経っているのかもわからない。

 それにあの怪物。夢だと思いたいが心に刻まれた記憶がそれを否定する。とにかくここで寝るという選択は最も適していない事は確かだった。しかし、彼女の様子を見るに対話や交渉は求めていないし意味がない。


「あの、綜馬くんは今どこにいるのかな?少し聞きたいことがあって」

「そーまは近くにいない。わかったら眠る」

「もうあんまり眠くなくて。そうだ、よかったら名前教えてくれない?私は琴。長月琴って言います」

「コト、知ってる。そーまから聞いた。けどミケアは教えない。仲間になるつもりはない」

「あ、ミケアって、」

「違う!ミケアは違う!名前じゃない!」


 クールな様子のミケアが顔を赤らめながら否定する。そんな様子を見て長月は思わず笑う。

「なんで笑う!笑うな」

「だって、名前教えたくないって言いながら自己紹介しちゃうんだもん」

 堪えきれず笑みをこぼす長月。笑い声に呼応するようにミケアの恥じらいも高まっていく。


 二人が穏やか笑顔に包まれているのと時を同じくして、綜馬は苦笑いを浮かべていた。その性質は穏やかさとは正反対の緊張感と焦燥感を孕んだもの。

 目の前に対峙するのは一匹の怪物。名前のないそれの見た目はカエルのようなものだった。

 ずんぐりとした体型。後ろ足は発達しており筋力の高さが窺える。対象的に前足は細い。全体的に粘液のようなものを纏っており、口から覗かせる舌は血に濡れていた。


「いやぁ、まさかなぁ。準備中に会っちゃうなんて」

 予定していたモンスターとの対決。そのために立てた作戦。スコルを倒した時のような罠を仕掛けた場所への誘導と、一方的な攻撃。ダンジョン外ではこの作戦が適切で有効的だった。中型以上の危険度をもつモンスターと直接ぶつかり合うのは危険が大きすぎるから。

 そんな危険が目の前で舌なめずりしていた。


——————————————————————————————————


 緊急時の合図を[カンジ]に頼み、綜馬は目の前の事に注力する。シュヴァリエ戦で失った魔力はほとんど回復しており、状態としては万全だった。

「シーナ、やろうか、」

 綜馬はそう呟くと空に穴が生まれ、ふわふわと浮遊するクラゲが出てきた。綜馬の言葉に呼応するように触覚を振り上げて威嚇のようなポーズをとっている。


 綜馬の持つ切り札はいくつかあるが、戦局を変えるほどの強さを持つのは[シーナ]と完全体の[朔]。それと魔力ほとんどを消失させる【空間魔法】による空間抉りだろう。

 相手の強さがわからない以上、魔力消費の多い後者二つは即決できない。[シーナ]との共闘は少し前のエリアモンスター討伐と、有栖との対決。[シーナ]の成長曲線の異常さは綜馬が一番知っている。二人で時間を稼いでいる間に何か好機が生まれる事を願って戦うしか無かった。


 《 》はいつも通り食事をするだけ。今までなぜ気づかなかったのかと後悔するほど、この辺りには餌が溢れている。どれも弱く、良質。中には弱っているものや、過食部が少ないものもいるが大した問題とは言えなかった。


 舌を伸ばす。音速にも近い必殺の一撃。《 》は攻撃手段を数種類しか用意していなかった。それで十分だったから。基本的に舌を伸ばせば獲物は息絶えるか、血を吐いて呼吸を荒くする。そうなるはずだった。

 伸ばしたはずの舌が空に飛んでいる。次の瞬間痛みが全身に走る。舌が斬り飛ばされていたのだ。

 初めての経験に《 》は声をあげる。奇声に近い絶叫。


 綜馬は絶叫に顔を顰めながらもふわふわと浮かぶ[シーナ]のことで意識がいっぱいだった。かろうじて視認出来た一撃を[シーナ]はいとも簡単に払い除け、それだけに留まらず硬化し鋭利になった触覚で斬り落としてみせた。

 そんな一連の動作をさも当然と言った様子で[シーナ]は様子を変えることなくただ浮かんでいた。

読んでいただきありがとうございます。


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