騒乱の始まり
答えのない問い。綜馬は自分の足りなさを責める。誰かにとっての幸福は誰かにとっての不幸になる。そんな事は知っていたつもりだった。
そう、つもりなのだ。実際にたくさんの幸福と不幸。幸福と呼ぶには充分暗くて冷たいものだが。そんな境遇を何度も目にして来た。
自分はその責任の一端を担えるほど強くないと感じていた。
玖珂の話してくれた事情。それはある意味裏切りだった。仮に団野が聞いたら玖珂は即座に任を解かれ、糾弾されるだろう。
しかし、それでは問題解決にはならなかった。玖珂とドワーフは地下から出なくなり、物資にも困窮する。物資に困ったドワーフ達がどんな行動に出るかわからない。それに、一種の特異点と呼べる異種族の存在。彼らに守られ、そして彼らの力になりたい気持ちは綜馬からするとよく分かった。自分が玖珂の立場で、ミケア達エルフがいたらどんな手を使っても彼らの力になろうと思うだろう。
綜馬にとって幾つもの迷いが浮かぶ。誰の幸せを妥協し、誰の不幸せを選択するか。
近くで眠るミケアをちらっと横目で確かめる。自分の手のひらが届く世界、綜馬はぎゅっと拳を握った。
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工房の奥、鉄工のドワーフ達の仕事場に玖珂はいた。
これまで通りの生活が送れなくなること、どうやってドワーフ達に伝えようか頭を悩ませる。この拠点を去るなんてこともあり得る。団野の能力で追われ続ける生活になるかもしれない。それならば自分だけがここから離れれば、とこれから起こるであろう可能性とその結果を思案し続ける。
「何をしてるんじゃ、そこで」
「あぁ、カシム。」
「頭領が呼んでたぞ、問題が起こったって」
「こっちも話さないといけない事があって、」
「どうした、クガそんな顔して」
あまりにも暗い表情を浮かべている玖珂を心配そうにのぞき込む。
「大丈夫。けど、大事な話なんだ」
「あぁ、わかった。晩飯の時皆に集まるよう伝えておくからな」
そう伝えるとカシムはその場を後にした。残された玖珂はカシムの背中を目で追いながら小さく溜息をはいた。
カーン カーン カン
長い鐘が二回と、短い鐘が一回。夕餉の合図の鐘が鳴り、食堂へ向かおうと重い腰を上げる玖珂。
突然システムが告げる。人類へのクエストを。宙に浮かんだウインドウを見て玖珂は声を漏らした。
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自分の意思とは別にやらなければならない事。避難コロニーの削減、避難民の支援。この二つはどんな結果であれ取り組むべき仕事だった。
モヤモヤする思考を切り替えて、綜馬は仕事に取り掛かる。コロニーの巡回が意味をなさない事を理解したため、情報収集を主に取り掛かった。なぜ彼らがここに居たいと思うのか、どんな避難民が多いのか、彼らを知らなければ話は進まないと感じていた。
その間ミケアはモンスターを狩る。数は減ったとはいえ、市街地にもモンスターは湧く。その処理とパトロールをミケアが行なっていた。
しばらくは玖珂が顔出すとも考えられないため、地道な活動を続けていくしかない。そう考えながらも、頭の片隅には玖珂とドワーフの話が常にあった。
[カンジ]を使いミケアに合図を送る。午後の仕事おしまいの合図だ。[カンジ]を使った伝達は単純な作戦共有にもってこいだった。電柱の上で左回り。数羽放っている[カンジ]がいればミケアがどの位置にいるか知らなくても大丈夫だった。
撤収作業に入る綜馬、突然声が響く。
「ソーマ、大変。地下が大変なことになってる。」
【音魔法】による報告は不思議な感覚を与える。脳内に直接語りかけてくるような、認知外からの音というのは咀嚼に時間がかかった。
ミケアの報告を確かめるため、[スコル]を三匹召喚する。それぞれ散ってミケアを探すように命令し、綜馬は続くミケアの報告に耳を傾けた。
「一回行ったことある地下で、その辺りで人の数が多かったから不思議に思って、様子を見に潜ったら、何かが暴れた後があった。大きさは中型以上。被害はまだわからない。」
ミケアの報告を聞いている間に[カンジ]がミケアの居場所を見つけた。綜馬はその場に直行し、[カンジ]と[スコル]には付近の警戒を頼んだ。
「地下は安全だって話じゃなかったのか。」
目の前に広がる光景に綜馬は思わず言葉を漏らす。
何かが暴れ回った跡。ミケアが伝えてくれた情報通りの状況が目の前に広がっている。痕跡の大きさからその元凶の強靭さを測る。
「これ、」
ミケアは地面を指差す。目を凝らさないとわからない暗闇の中、ミケアの指差す先にはいくつかの血溜まり。
「外に逃げた人たちはどうにか生き延びれたのか」
地下鉄入口付近にはいくつかの人影があった。その全てが恐れや怯えを纏った表情で入口を見つめていた。隠密による侵入で綜馬とミケアの姿は確認できていないが、今の彼らはこの暗闇が出てくるもの全てに死を想起する様子だろう。
ただでさえ手一杯な状況にもう一つ大きな問題が降り積もる。
モンスターの全容を掴めていないため、対処可能なのか、そもそもどんな対処をしたら良いのかすらわからない。まさに暗中模索。
とにかくこの場で調べられることは全て調べ、玖珂に頼れない以上ミケアと二人。団野に声かけるのも抵抗感があった。
「ソーマ」
ミケアの呼ぶ声で思考の海から引き摺り出される。
「どうした??」
「倒れてる」
辺りを調べていたミケアが何か見つけたようだった。駆け足でミケアの下に向かうとそこには長月琴が倒れていた。
「長月」
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