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自分だけ揚げ物が楽しめる世界  作者: ミツメ


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91/96

《 》

 玖珂がヨハネに入ったのは物資支援の裁量を得られるから。ただそれだけだった。だから団野や他のメンバーのように拠点からではなくこの地に住んで活動をしている。ヨハネからしても現地に仲間がいるのは都合が良かった。素性については詳しく知らないがその熱意と、思いに共感し仲間に迎えた。


 避難民の安全は正直どうでも良かった。仕事の分は炊き出しや対話で彼らと接する。しかし、それ以上は関与するつもりはない。それに、ここら一帯の避難民が仮に全員いなくなってしまうと玖珂の仕事も変わる。物資支援の任が解かれたら困る。だから抵抗兵器として改良前のシュヴァリエを利用した。

 シュヴァリエは全部で10台。2台で一対となっており、バージョンアップしていく。つまり今は5世代目。初代はマークに破壊され、二代目はモンスター。三代目は順調だったか、団野の連れてきた助っ人に破壊された。

 現在地上にいるのは四代目。現行機である五代目は地下の脅威と戦っているため、破壊されるわけにはいかなかった。


 綜馬という少年は異常だった。まるで絶望に慣れているかのような素振りで進んでいる。一緒にいる女も同じ空気を纏っている。玖珂からすれば二人の協力など必要なかった。問題解決などされず、このままダラダラと想像通りの地獄が繰り返されるだけでいいと思っていた。


「くだらない偽善のためならもうこれくらいでいいでしょう。」

 玖珂の目には強い意志が籠っていた。綜馬はその眼を知っていた。何かを守るために必死で藻掻く姿。

「確かに、誰も止める人はいないかもしれませんね。これでやめても誰も責めてこない。」

「なら、」

「でも、だめなんです。僕は見てしまったから。助けてほしいのに、助けてって言えない苦しさを僕は知っているから、それを見過ごすような人間にはなれないんです。」

玖珂も知っていた。決して折れてくれない強情な瞳を。綜馬にはそれが宿っていることをとっくの前から知っていた。


「シュヴァリエは壊します。ただそれだけでは問題解決にはならない。地下はずっと安全じゃない。それがいつ起こるのかだってわからない。」

そう言うと、綜馬とミケアは準備に向かう。大きな戦いへ向けての時間が必要だった。


——————————————————————————————————


 モンスターはどこにだっている。陸にも、空にも、海にも。空が澄んで見えるのは空には「絶対」がいるから。竜種に歯向かえる生物は存在しない。海にも「絶対」は多い。しかし、空に比べればその偉大さは半減する。地上には「絶対」が少ない。ただでさえ数が少ないのに気性は温厚。

では、地下はどうか。安全神話が築かれている地下。しかし、どこにだっているモンスターがそこに居ないはずがなかった。

 中型以下のモンスターが自由を得るための条件は今までのフィールドを考えれば一目瞭然。「絶対」と呼べる存在の質とその気性にあった。

つまり、地下にモンスターがいないというのはそれを作り出す「絶対」が影に潜んでいる。こう考えるのが自然と言えた。しかし、人は一縷の希望を見出したかった。希望がなければ生きていけない生き物だから。絶望から目をそらすための輝き。それは絶大だった。どれだけ多くの心を救ったか。けれど気付いていない。光があれば暗闇は生まれ、その希望が照らすほど絶望は濃くなり吞み込んでいく。


 ドワーフ達がシュヴァリエを作らなければならなかった原因。地上ではネームドとされるほどの力を持つ旧世代のシュヴァリエが改良しなければならないほどの脅威。


 長月は避難民コロニーの中では物資補給の役割を担っている。物資補給とは聞こえが良いが、実情は窃盗と略奪。旧時代の物資は当然残っているはずなく、システムによる物資の確保がセオリーとなったこの世界では魔石を取れない者達の生き方は限定的だった。

 与する事を嫌い、利用される事から逃げてきた避難民達はその限定的な生き方がさらに狭くなる。


 コロニー間の物資の奪い合い、ヨハネのような援助団体の物資収奪。その仕事を長月は任されていた。

 なるべく音を立てないようにと、漏れ出る呼吸音すら沈めようと口に手を当てている。

 長月が身を寄せる仲間達のほとんどは戦闘以前といった戦力状況だった。かろうじて戦えるのが3人。長月は彼らの中で機動力に優れているため物資補給を担当することになった。しかし、長月も戦闘は得意としない。最も前線、むしろ敵陣内部に潜るような立ち回りは一つの油断が終わりを告げる。


 大丈夫だよね、

 長月は【召喚魔法】で小型モンスター、コウモリに似たモンスターを召喚し、辺りを索敵する。長月の力の正体をコロニーの仲間達は知らない。けれど、何かしらの特別を持っている事は気付いていた。だからこその役割。

 コロニー間の奪い合いなのだから、相手の拠点も当然地下。暗く、埃っぽい空気が充満している。ひんやりとしたコンクリートに手を置いて、それを導に進んでいく。


 このコロニーの食糧庫、物資庫の位置は何度か訪れた事もあり知っていた。24の看板を左、と、心で唱えながら進む。

 ぼんやりと見える24の文字。よしっ、と今回も上手くいきそうだと安心する。それと同時にどうにも拭えない躊躇。罪悪感と自身への嫌悪感。その戸惑いで長月は一度立ち止まる。


 ドガァァン!!

 目の前が爆ぜる。コンクリートに覆われた地下鉄の構内。ところどころに見える腐食の後、老朽に怯えていたがそれどころの話ではない。破壊。衝撃は伝わり、他の場所にも小さいながらも影響が出る。

 音に反応したコロニーの住人達が集まり始める。長月は慌てて、破損部から下がり、地上へ続く階段の元へ走る。


「おい!誰かいるぞ!逃げてる!」

「くそっ!酷い事しやがる。物資じゃ飽き足らず追い出そうってか、」

 怒りを孕んだ声は、その次に逃すかよと、魔法を放った。【水魔法】何気ない、当たり前の選択。地下では火は御法度。風も粉塵が巻き上がり、味方へのマイナス効果が大きい。水か、土。地形破壊をしない水は特に選ばれる手段。

 しかし、それが《 》にとって欲するものだった。


 バクンッ!と【水魔法】は長月に当たる事なく消える。それは術者と共に。


「はっ、え?」

 隣に立っていた男が思わず横を向く。

 《 》は咀嚼していた。滴る血の音、静寂の中響くのは耳に残る咀嚼音と、液体が滴る音。ゴキボギと、噛み砕く音はその存在の死を確定させた。

 男は発狂して飛び上がり、《 》に向けて【火魔法】を打ち込む。御法度なんて頭になかった。とにかく危険への対処が先決だった。

 《 》は火を嫌った。嫌いな火を打ち込む存在は、食事するに値しない。ゴボッと、男が地に伏せる。倒れ込んだ男の胴には大きな穴が空いており、血溜まりはじんわりと広がっていった。



 

読んでいただきありがとうございます。


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