バンドマン
二十七歳になったら死んでやる。漠然とした人生だったが、それだけは常に考えていた。
音崎 蓮華はバンドマンだった。ロックンロールに憧れて、魂を燃やす場所を見つけたと思った。けれど現実は彼女の事など求めていなかった。
吐いて捨てるほどいる夢追い人のただ一人。彼女が数年掛けて得た肩書きはこれくらい。二十七歳の予定をグッと縮めようか、そんな事が頭の片隅に置かれていた。
ずっと未来に絶望していた。
そんな音崎にとって世界の変革はまたとない機会だった。幸いな事に音崎は圧倒的な魔力量と、天才的な操作技量が備わっていた。
【陽魔法】と【重力魔法】
扱う魔法も優れている。二度目の誕生を迎えた彼女は、その瞬間から世界の最強格の一人となっていた。
今まで辛酸を舐めてきた彼女にとって絶対とも呼べる力は毒と言えた。
私を馬鹿にしてきた同級生
対等に話してこなかったバンド
無能だと手を払ったレーベル
肩書を失った彼らは一瞬にして私に頭を下げた。媚びへつらう表情は見ていられなかった。
高円寺に現れたシェルターは中規模シェルターと呼ばれ、内部で何度か揉めた後、勝手に内部統制されていた。力ある者が上に立ち、弱者には救済を見せて利益を得る。今までの世界と構造は変わっていなかった。
ただ今までと違うのはその力のある者になっていると言う事。シェルターの管理者だと踏ん反り返っている男は、少ししたらみんなと同じ表情になった。
そこから退屈だった。元から欲求の多い人間ではないからこそ、特別と言う称号を得ても対して心は弾まなかった。
ただ唯一、壊れていないギターが何本も用意された時は声をあげて喜んだ。ロックンロールは不滅だと、再び魂が燃え上がった。
音崎は演奏会を開いた。その時はどの立場でも日々の苦悩を忘れられるようにと、政治の外として場を設けた。音楽をしていたもの、音楽が好きなもの、音楽に興味あるもの、参加資格はそれだけだった。
参加者が集まるか不安だったが、そんなものは杞憂と終わり、初開催にしてうまく行った。定期的にやる事を決め、常に参加者を募った。
ある日のこと、演奏会の会場にふらっと散歩しにやってきた。音崎はこの場所が大好きだった。唯一息苦しくない自由な場所だった。このシェルターにとってここはそんな安息地となっている。そんな自信があった。
ギターを鳴らす音が聴こえる。夜も更けてこの時間自由に出歩ける人は限られている。
しかしそんな立場の人間であれば広くて音を気にしなくていいような設備は持っているはず。ならば自分と同じ音楽好きで、そしてこの場所が好きな、
そこにいたのはいつか自分を嘲笑った別バンドのボーカルだった。
「もう辞めちゃったと思ってた。」
「辞めないよ。辞めてないよ、ずっと。」
「それなら今度の演奏会、」
「行かない。その日は、」男はそこで言葉が詰まって、唾を飲み込んだ。
「行くわけない。お前らのやってるのは音楽じゃない。お前らに媚を売りたい奴らが集まってるだけ、お前の音楽もこの場所も誰も良いなんて思ってない。」
「っ、」
音崎は言葉を失う。またこいつは、といつかの怒りが再び燃え上がる。もうあの頃の自分じゃないんだと音崎は男に一歩近づく。
男は震えていた。その目は死を悟ったような諦めが浮かぶ。
「もういい。こんな世界生きていても意味がない。死ぬ勇気も、痛みも怖いんだ。それなら音崎、お前が俺を殺してくれ。辛いんだ、こうやってギターに触れていると今の自分が情けなくて、夢も希望も無くなったこの世界で前を向いていける自信がない。」
その表情を音崎は見た事があった。鏡に映ったあの頃の自分と同じ表情。気持ちが痛いほどわかった。腹を出して寝たら風邪をひくみたいに、小さい何かで死ぬみたいなそんな事を願っていた。同じだった。
自分が一歩踏み込めた理由。それは自分が力を持ったから。けれどこれはかつて自分が憎んで、ああはならないと誓ったその姿そのものだった。
「一曲歌ってよ。何でもいいからさ。」
音崎はその場所腰を下ろす。男は少し黙ってから頷いた。
andymoriの『愛してやまない音楽を』
この日音崎はシェルターから姿を消した。
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ヨハネの依頼を受けて二日目。初日にシュヴァリエとの戦闘があったため、随分と拍子抜けな時間を過ごすことになる。
綜馬からすればもっと別の理由で二日目が空虚に感じるのだろうが、どちらにせよこの仕事は討伐するみたいな一か八か、終わりがわかりやすいといった感じではなく、とにかく時間を要する雰囲気を持っていた。
「これさ、もう良くない?綜馬君はあの子に会えればいいわけで、耳長ちゃんも綜馬君が終わりでいいならいいんでしょ?サクッと会いに行って終わりにしようよ。こんなところで時間使わずさ、もっと面白いことしようよ。」
いつの間にか着いてきている有栖はこの中々動かない状況に対して文句を言う。
「やるよ、ちゃんと最後までやるって約束したから。」
「えぇー、それなら俺ちょっと出かけて来ようかな。一週間くらいじゃまだ全然だよね?」
「出来るだけ早く終わらせるつもりだけど。」
「どうなの?」
有栖は前を歩く玖珂に問いかける。
「一週間はかかると思います。今日も結局、全部門前払いだったので。」
「そっか。ならいいか。じゃあ綜馬君また。戻ってくるから勝手にどっか行かないでよね。」
有栖はヒラヒラと手を振りながら帰り道とは逆の方向に進路を向けた。
何だこいつはと、綜馬は最初から最後まで自分のペースで動く有栖を見て呆れた感情を持つが、自由な振る舞い方に少しだけ羨ましいとも思っていた。
三人に戻り、二日終了。三日目、四日目も大きな成果なく時間だけが過ぎていく。
途中玖珂は物資補給に現場を離れ、ミケアと二人になった時はあまりの進展のなさに近くのダンジョンへ息抜きに向かった。
ミケアもフラストレーションが溜まっていたようでこの日はいつもより多くのモンスターを狩っていた。いつになく動きがキレていた。
五日目。問題外が降りかかる。
「どうして、討伐したんじゃ、」
玖珂は声を震わせる。目の前にはシュヴァリエ。それも初日に出会った個体とは違い、一部分黒い装甲を身に纏っていた。
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