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自分だけ揚げ物が楽しめる世界  作者: ミツメ


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一振り

 二体目のシュヴァリエ。綜馬は幾つもの疑問が浮かび上がった。が、しかしそれらに意識を割いている暇はないと本能的にそれらの事態に目を瞑る。そして向ける意識はただ一つ。

 [朔]の完全体。総魔力の八割が持っていかれた。初めて対峙したあの不可思議なダンジョン。あの日よりもさらに鋭くなった戦意を持っている。


「久しぶりの戦い、暴れてこい。」


 ズンズンと進みだす。見送る背中は圧倒的な暴力を想起させた。[朔]を見送りながら今度は[カンジ]の数を増やし周囲の索敵とミケアの射撃指示の準備に入る。この間綜馬は自分の周りに意識を置いておけない。そのため、廃屋の影に身を隠しながらすべてのタスクをこなす為に動き出した。


 あれ、一体の腕が無くなって、

 戦況に目を向けた時その様子は先ほどと大きく変わっていた。まず人数が三人。一人の男が二体のシュヴァリエ相手に善戦している。その証拠に一体のシュヴァリエは隻腕となっていた。

 そんな状況下に割って入るのが[朔]。はたから見ればもう一体現れたのかと思うだろう。機動力のない[朔]は堂々と敵の間合いに入っていく。恐れなどなくそれが当たり前化のように突き進む。


 [朔]の登場に状況は再び変化する。戦っていた男は隻腕のシュヴァリエに集中し、一体のシュヴァリエを自由にした。それを傍観する残り二名は絶体絶命と言いたげな表情を浮かべていた。

 [朔]とシュヴァリエの距離はどんどん近づいていく。二人の騎士。太刀を振り上げたのは[朔]。振り上げた隙を突いてシュヴァリエは二本の剣で喉と心臓めがけて刃を突き立てた。

 ガキンッと金属のぶつかり合う音が響く。衝撃波が伝ってくるような一撃。が、しかし、[朔]はただ風を受けたように立っている。その刹那振り上げられた一閃がシュヴァリエに降り注ぐ。

 勝負は一瞬だった。


 ちょうど同じ頃、隻腕となったシュヴァリエも最後を迎えようとしていた。二体相手していた佐々木は、一体、それも片腕をなくしたシュヴァリエに集中すれば良くなった。一歩間違えれば即終了の戦いが、余裕を持って隙を突く戦いになったのだから難易度は大きく変わる。

 ヒットアンドアウェイの戦術を、攻め特化に変えて、一気呵成に攻め立てる。さらに射撃の援護も続く。一対ニの攻防が、ニ対一へと変わり、シュヴァリエを翻弄していく。


 決定打を与えたのは佐々木。片腕を奪ったように再び抉る。【切断魔法】は術者の技量に大きく依存する。肉体を抉り取るほどの技量をつけるためにはどれだけの戦闘が必要か。

 佐々木の繰り出した一撃はシュヴァリエの膝を折るのには十分だった。

 [朔]の一閃。そこに合わせるようにミケアの射撃、佐々木の一撃はシュヴァリエを絶命させた。


 ネームドの討伐に魔石とアイテムがドロップされる。佐々木の前には朱色の輝石。[朔]の前には漆色の珠が落ちた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 男達は焦っていた。危険地域なのは知っていたが、着いて早々こんな様子ではまともな狩りも行えない。それに、戦力も減らしてのスタート。あいつらの亡骸から物資は回収できるだろうが、期待の新人だった佐々木を失ったのは思いの外手痛い出費だった。


「おい、獲物はまだいるのか?」


 対象一人、一度使えばその対象のみを探し出す魔道具。魔石を使い続ける限り稼働するが、驚くほど燃費が悪い。この勢いだともって三日。タイムリミットは目に見えてわかっていた。


「はい、というか、さっきまでいた場所に反応ありますよ。」


「なんだと、」


 様々な可能性を思案する。その結果導き出した答え。


「あいつらも獲物を狩らなきゃ行けていない、同じ狩人ってわけだ。漁夫の利するつもりだろうが、全部いただくのは俺たちだ。」

 柏木は先ほどまでの焦燥感をとっくに忘れ、全てが自分の手のひらの上で踊っているのだと口角を綻ばせた。


「人数は最低限だ。人が増えりゃ、あのわけわからんモンスターが来るかもしれねぇ。俺と、あと何人か。」


 柏木は少数精鋭で事足りると判断した。それは彼らに告げたようにシュヴァリエへの対策であると同時に、分け前を減らしたくないとい理由も当然あった。

 ここに残らせる中で、物資をまとめて引き上げられる【空間魔法】使いと、狩りに行く自分を含めた三人。計四人で分け合えれば暫くは贅沢できる。


 全てが自分に都合がよく動いている。そう確信していた。


 目の前で起こった衝撃。全員でかかってやっと一体倒せると思っていたモンスターが、一振りで葬られる。格上のモンスター。明らかに死を直感させられる。

 だめだ、ここにいては。と考える一方で、それはここにいる皆が同じことなのだと、冷静な自分が告げる。

 ならば、獲物のあいつもどこかでこれを見て、怯えているに違いない。


「おい、魔道具ではどうなってる?」


「魔力が濃くてうまく判別出来てません。」


「もういい。魔石は全部使うペースで見つけろ。」


「いました、民家に反応ありです。」


 神は自分を見放してはいなかった。そもそも、神はずっと自分に微笑んでいる。男達はこれからの幸福について夢想する。魔石を払えばどんな待遇も得られるというシェルターがあるらしい。そこでしばらくバカンスしても良い。あぁ、なんて俺たちは幸せ者なんだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


 綜馬は熱に侵されていた。それは目の前で起こった圧倒。今まで肉体労働担当と言ったような、採掘や壁的な役割ばかりさせていた[朔]。彼の力は自分が誰よりも知っているとそう思っていたが、完全体がまさかこれほどまでのものだとは思ってもいなかった。

 まるであの日対峙したオークのような絶望を今の[朔]は放っている。もう一体のシュヴァリエも無事戦い終えている。勝負は完勝。思ってもいない結果だった。

 魔力の消費は著しいが、当初の目的をすぐに終えられたわけで、ここからの仕事は魔力を回復しながらでもどうとなる。


 [カンジ]を解きながら監視の目を減らしていく。司令塔の綜馬は座布団の上に寝転がっていた。


「失礼しまーす。」


 緊急事態に意識が肉体へ引き戻される。完全な油断。まだ意識が混濁し、ぼやける視界には男が三人。先ほど戦場からいなくなった三人だと言う事はこの時気づいていない。

 明らかな敵意。下卑た笑顔を浮かべ、自分たちが格上だと言いたげな様子。


「やっと見つけられたよランカー君。ちょろちょろ逃げ回って大変だったんだからな。」


 綜馬は思考を巡らせる。【空間魔法】で逃げる、または空間に逃げ込む。[スコル]を召喚して、

 しかしそのどれもを万全にやれるほど魔力が残っていないのが問題だった。煙玉、閃光弾、魔石の爆弾、

 様々考える。しかし、間合いは敵に有利。何かしようとすればその瞬間に反撃されるのは目に見えてわかっている。

 敵がどんな魔法を使うのか、それもわからない。つまり絶対絶命。


「おいおい、無視すんなよ。せっかく最後の時間を楽しませてやろうと思ってるのによ。」


「こいつ、ビビって何も出来ねえみたいじゃん。」


 彼らは笑う。拍子抜けといった様子で綜馬笑う。


「つまんねぇし。良いか。もう終わりで。」

 男は【火魔法】で掌に炎を作ると綜馬に向けて――


「遅いですよ、柏木さん。」

 炎が落ちる。掌ごと。突然のことに静寂が広がる。

 そこには佐々木が、


「久しぶりだね。綜馬君。」

 そこには有栖が立っていた。

 

読んでいただきありがとうございます。


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