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第1話③「つながる瞬間」

データ管理省ビル・データ分析室。


薄暗い室内を、

半円状のホログラムスクリーンが

青白く照らしている。


中央の解析フィールドでは、

浮遊エリアから回収した《ピース》が

ゆっくりと回転していた。


透明な結晶の内部から、

幾層ものデータ構造が展開されていく。


複雑に絡み合うコード。


細かな断面。


欠落した領域。


ユカは腕を組みながら、

その一部をじっと見つめていた。


「……ピコ、ここ見て」


指先を動かし、

断面の一部を拡大する。


渦を巻くような、

独特のフラクタル構造。


「これさ。

このあいだL&Tシンクで見たピースと

似てない?」


ピコのセンサーが光る。


「照合します」


複数のデータウィンドウが

一斉に展開された。


過去に解析したピース。


今回回収したピース。


二つの断面が重なり、

高速で比較されていく。


「断面パターン照合中……」


ユカは画面を見つめたまま、

無意識に身を乗り出す。


数値が上がっていく。


72.4。


84.7。


91.8。


そして――


「一致率、96.1%です!」


「やっぱり!」


ユカの顔が一気に明るくなる。


「誤差範囲を考慮しても、

実質的に同一データ系列と判断できます」


ピコが解析結果を表示する。


欠けていたデータ群へ、

今回のピースがぴたりとはまり込む。


「中規模クラスタの

最終補完ピースですね」


ユカは画面を見つめた。


ばらばらだった欠片が、

ひとつにつながる。


その瞬間は何度見ても、

少しだけ胸が高鳴る。


「じゃあ、

リサさんとトモさんに連絡しよう!」


***


数分後。


分析室の中央に、

オンライン会議用の

ホログラムスクリーンが展開された。


映し出されたのは、

データ結合会社《L&Tシンク》。


整然と並ぶサーバーラックの前に、

リサとトモが立っている。


「ユカ、すごいじゃないか!」


送られてきた解析結果を見たリサが、

身を乗り出した。


「それが本当に繋がるなら――」


「今、データ送るね」


ユカが結合候補データを共有する。


二つの断面が、

リサたちの画面上で重なった。


リサの目が見開かれる。


「……間違いない」


さらに解析を走らせる。


「これで中規模データ群が、

完全体になる!」


その横で、

トモは慎重に断面を確認していた。


「ちょっと待って」


細い指が、

結合部分を拡大する。


「ここ。

微細な欠損が残ってる」


ユカの表情が引き締まる。


「ダメそう?」


「ううん」


トモは小さく首を振った。


「修復可能レベル。

補正を入れれば、

安定して再構築できると思う」


「よかったぁ……!」


ユカの肩から、

力が抜けた。


現場で回収したときには、

ただのひとつの欠片だった。


それが今、

遠く離れた場所にある別のピースとつながり、

失われていたデータを取り戻そうとしている。


「じゃあ、

そっちに転送手配するね。

結合ログも全部共有する」


「助かったよ、ユカ」


リサが笑う。


「さすが“現場組”だね」


「えへへ」


思わず頬が緩む。


トモも画面越しに微笑んだ。


「ユカ、

データ修復士として

確実に成長してるね」


トモの言葉に、

ユカが目を丸くする。


「え?」


「前だったら、

“なんとなく似てる気がする!”

って、そのまま持ってきてたでしょ?」


「うっ……」


否定できない。


思い当たる節が、

ありすぎる。


画面の向こうで、

リサが吹き出した。


「それが今じゃ、

フラクタル構造から特徴を拾って、

自分で関連データまで推測してる」


「ちゃんと根拠を持って

判断できるようになったってこと。

すごいよ」


トモもうなずく。


「……ありがと」


ユカは頬をかきながら、

照れくさそうに笑った。


褒められるのは、

やっぱり嬉しい。


「そういえば……」


トモが、

何かを思い出したように首を傾げる。


「このあいだニュースで、

ピース回収中に廃工場が

大爆発したって――」


ユカの肩が跳ねた。


「わ、私、その件、

詳しく知らないから!」


「え?」


「じゃ、じゃあデータ送るね!

お疲れさまー!」


リサとトモが何か言うより早く、


ブツッ。


通信終了。


ホログラムが消えた。


ピコが横から、

じっとユカを見る。


「当事者なのに、

詳しく知らないんですか?」


「心の傷が癒えたら話すわ」


ユカは遠い目をした。


「まだ癒えていないんですね」


「ニュースになったんだよ?」


「なるほど」


「しかも見出しに

“大爆発”って書かれたんだよ?」


「かなり大きかったですからね」


「思い出させないで!」


***


分析室に、

いつもの明るさが戻る。


解析フィールドでは、

回収したピースが淡い光を放っていた。


ピコが、その光へ視線を向ける。


「……爆発の件は、

ひとまず置いておきましょう」


「ありがたい」


「それはそれとして――」


ピコがユカを見る。


「やりましたね、ユカ」


「……うん」


ユカもピースを見つめる。


今度こそ、

胸を張っていい成果だった。


そして――


ぐっと拳を握る。


「……よしっ!」


小さく、

けれど確かなガッツポーズ。


爆発はした。


ニュースにもなった。


それでも、

ちゃんと成長はしている。


「中規模クラスタの修復完了は、

今期でも指折りの成果です」


「でしょ?」


得意げに胸を張る。


「では、この勢いで――」


ピコが間髪入れず続けた。


「報告書も一気に

仕上げてしまいましょう」


ユカの笑顔が固まる。


「……そこまでがセット?」


「当然です」


「今回はさ……」


ユカは少しだけ目をそらした。


「アランさんの赤字チェック、

回避できそうな気がするんだよね……!」


「“気がする”ではなく」


ピコが即答する。


「“確定させる”のがプロです」


「今、いい空気だったのに!」


分析室に、

ユカの抗議とピコの笑い声が響く。


ばらばらだった欠片は、

ひとつにつながった。


そしてユカ自身もまた、

少しずつ。


昨日までの自分と、

今日の自分をつなぎながら

前へ進んでいた。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※『フラグメンツ・シリーズ』一覧はこちら。

https://ncode.syosetu.com/s8950k/


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