第2話④「沈黙の指輪」
白銀の刃が閃いた。
ユカはエクスカリバーを振るい、データゴブリンの身体に走る歪んだコードを切り取っていく。斬るのは異常な部分だけ。剥がれ落ちたコードは光の粒子となって消え、内側に隠れていた正常なデータが姿を現した。
「損傷したコードを分離して……元の構造に戻す!」
ゴブリンの輪郭が崩れ、組み直される。牙も爪も失ったそれは、無害なデータの塊へと還っていった。
壊すためではなく、修復するために剣を振るう。それがユカの戦い方だった。
背後で、ノワの笑い声が弾けた。
「きゃはは! 行くよ、虫ケラども!」
ノワの両手から黒い粒子が溢れ出す。煙にも炎にも見えない。耳障りな音が、そのまま形を持って噴き出しているかのようだった。
「歪んで、壊れろ――カオス・チューン!」
ギィィィーーンッッ!!
不協和音が工場内に響き渡る。空気がひしゃげ、ゴブリンたちの身体を構成するコードが次々と乱れた。
次の瞬間、存在式そのものが崩壊する。
ゴブリンたちは蒸発するように消えた。修復できるコードも、核も残っていない。
「……!」
ユカは剣を構えたまま、消えた場所を見つめた。
「昨日のカイと同じ力……? でも、もっと黒い。壊すことに特化してる……」
ノワは楽しそうにくるりと回った。
「ユカ、壊すのって楽しいよ? だってさ、“正しい形”なんて、誰も知らないでしょ?」
無邪気な笑顔だった。その瞳を見ていると、どこまで本気なのかわからなくなる。
「修復じゃない……存在ごと、削除してる……」
「だって、そっちのほうが速いじゃん!」
ノワは当然のように言った。
ユカが救おうとしたものを、ノワは迷わず消してしまう。同じ敵を前にしていても、二人の戦い方はまるで違っていた。
***
ゴブリンは次々と現れた。
ユカが一体を修復する間に、別の一体がコンベアの陰から飛び出す。ノワの不協和音がそれを消し飛ばしても、床にはまた黒いコードが走った。
「まだ来るの……!?」
ユカがエクスカリバーを振り上げたとき、刃に細いノイズが走った。
ジジッ。
白銀の光が揺らぎ、向こう側が透けて見える。
「……えっ? 出力が安定しない……?」
左手の《セラの指輪》が明滅した。ユカは握り直した剣に力を込める。
「くっ……!」
だが、刃はさらに薄くなり、ユカの手の中から消えてしまった。
「エクスカリバーが……!」
「あれ、もう終わり?」
ノワの声が聞こえた。
顔を上げたユカへ、ゴブリンが跳びかかる。牙が目前に迫った。
間に合わない。
「ユカぁーーー!!」
ピコの叫びと同時に、ユカの身体から白い光が迸った。
視界が真っ白に染まる。光の中心にいるユカ自身にも、何が起きたのかわからない。
「ユカ……?」
ピコの声に戸惑いが混じった。
ノワは光を見つめ、うっとりと目を細める。
「きゃはっ! これって……目覚めた?」
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