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第2話③「ノワ」

スマートファクトリーの内部では、赤い警告灯が回り、サイレンが断続的に鳴り響いていた。


コンベアは逆回転し、無人のはずの溶接アームが火花を散らしながら動き回っている。作業員たちは機械から距離を取り、中央制御端末の前に集まっていた。


「制御コードが上書きされています! 停止命令が効きません!」


担当者の報告を聞き、ユカはピコとともに端末へ駆け寄った。画面には、見慣れないコードが次々と表示されている。


「解析を開始します……えっ、なんですかこれ?」


ピコの声が変わった。


「確かにバグです。でも、構造が固定されていません。解析している間にも書き換わっています!」


画面上のコードは形を変え続けていた。消えたはずの文字列が別の場所に現れ、そこからまた新しいコードが伸びていく。


「ただの破損じゃない……。データが、自分で自分を組み替えてる」


「自己増殖型でしょうか? でも、こんなアルゴリズムは……」


ユカは画面を見つめたまま、眉を寄せた。


「……意思があるみたい」


足元から低い振動が伝わってきた。端末に映る波形が一斉に乱れる。


ユカは床へ目を向けた。継ぎ目に沿って、黒い光が走っている。


「これ……実体化する!」


光が床から立ち上がった。


黒いコードが何本も絡み合い、ねじれながら輪郭をつくっていく。鋭い爪、牙、歪んだ顔。モニターの中にあったバグが、ユカたちの目の前で怪物になった。


「これ……パチャママのときと同じだ」


パチャママ・シティでも、データが実体化してモンスターになった。目の前の現象は、あのときに酷似している。


「“データゴブリン”よ……」


背後から聞こえた声に、ユカは振り向いた。


黒いマントを羽織った少女が立っている。ユカより少し年下だろうか。瞳は無機質で、騒然とした工場の中にいながら、表情ひとつ変えていなかった。


「誰……?」


「あたしは“ノワ”」


少女は自分の名を告げ、データゴブリンに目を向けた。


「来るわよ」


言い終わるより早く、ゴブリンが跳躍した。


「くっ……!」


ユカは身を引き、振り下ろされた爪をかわす。床に深い傷が走った。


ユカは左手を掲げる。


「リアライズ!」


《セラの指輪》が淡く輝いた。空間に幾何学的な紋様が広がり、仮想層と現実がつながる。


「パラレル・アーカイブ――エクスカリバー・ライトエディション!」


収束した光が、ユカの手の中で白銀の剣になった。


剣を構えるユカを、ノワが見つめている。正確には、その左手の指輪を。


「あれが“セラの指輪”……」


ノワの視線が指輪に留まる。


「それなら、あたしも」


黒いマントが翻った。ノワの瞳がぎらりと輝き、それまで動かなかった表情が歓喜に変わる。


「さあ、戦いよ! 破壊よ! ユカ、一緒に遊ぼう!」


声を弾ませ、ノワは笑った。


「きゃはははは!」


「えっ……なに、それ……?」


ユカは剣を構えたまま、ノワから目を離せなかった。


目の前には、爪を振り上げたデータゴブリンがいる。それなのにユカには、笑っている少女のほうが、よほど危険に見えた。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※『フラグメンツ・シリーズ』一覧はこちら。

https://ncode.syosetu.com/s8950k/


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