第十六話
宝石眼が生まれるのは稀な事であり、毎年一人生まれるとは限らない。10年、15年ぶりと間隔が空く場合も多い。シャルア、アダージュ、セカヤ、そしてエトと若い世代が固まっているのは極めて珍しい。
エトは、セカヤについて僅かだが耳にした事がある。
14歳と言う若さで宮廷魔術師の座に就いた天才だ。
宮廷魔術師は、主に王の警護や宮殿を覆う結界を管理していると聞く。侵入者や襲撃者の撃退に活躍した事もあるらしいが、王の庭で暮らし、これまで魔術に触れてこなかったエトにとっては未知の領域だ。
「今後は顔合わせをする機会が増えるだろう。どんな身分で在れ、名前を憶えないのは失礼だ」
シャルアは宮廷魔術師に属さない。あくまで医療従事者の枠組みだ。
しかし、宮殿の防衛に関しては宮廷魔術師達と話し合う余地があり、定期的に意見交換を行っている。エトもいずれは同行することになるだろう。
「奴隷になんて……」
エトを見下すセカヤだったが、ある事に気付き、目を見開く。シャルアの斜め後ろで待機するエトの胸ぐらを掴み、その瞳を観察する。
「こいつ、宝石眼なのか……!?」
「そうだよ!! だから、離せ!!」
シャルアに押され、セカヤはエトからあっさりと手を離した。
「今までどうやって隠れていたんだ!? ありえないだろ!」
「彼は王の庭の奴隷だ!!」
王子の母達による事件を知るセカヤは、その言葉に口を噤む。
若者、特に男性は荷物運び等の裏方仕事が多い。また、事件以降区画が整理され、懐妊なされた女性、乳幼児の王子達が暮らす領域があり、宮廷魔術師達による結界が強固に織り交ぜられている。複雑化し、より発見が遅れたとセカヤは理解する。
「今回も王の庭で問題が発生した。彼は重要参考人であり、宝石眼として今後の育成のためにも俺の傍に置くと陛下が決定された。発見が遅れた彼を、陛下は魔力を悪用されないように所有物として囲っていたんだ」
嘘を交えつつシャルアはセカヤに説明をする。
シャルアばかりを見ていた彼は、そこでようやくエトの腕に王の所有物である証の刺青に気が付いた。
「……宮殿内でも、何かあったのか?」
シャルアは宮殿内部の防衛の為に対呪詛の魔方陣の修正や改善では無く、新たな魔方陣を組み込もうとしている。石の魔方陣を一目見ただけで看破をしていたセカヤは、一瞬エトを見た後問いかけた。
エトの発見時、対呪詛の魔方陣が発動しなかったのは、彼の体内に留まっていたからだ。シャルアが運んでいた様子とエトの怪我に関する情報が先行し、宮廷魔術師達ですら呪いの存在に行き着くものはいなかったようだ。
「あとで報告書を提出する。今はこちらを優先させてほしい」
昨晩、シャルアは魔方陣の制作にあたって、呪いについてより詳しく調べた。
エトに掛けられた呪いは、病気の倦怠感に似た症状から始まるだけでなく、救助しようと触れた人へと伝染する仕組みが書かれていた。
もし第一発見者がシャルアでなければ、人から人へと拡散され、下手をすれば宮殿の外にまで蔓延していたかもしれない。そうなれば、シャルアや宮廷魔術師達による対処が追い付かず、犠牲者が出ていた。
誰かに聞かれ吹聴されては相手の思う壺だ。ディーガの前でも話題には出せなかった。
「せめて何かあったかくらいは」
「おまえ達、何を感けている」
重く咎める声が3人を硬直させる。
声の主はイサールであった。
ディーガの補佐官であるイサールの登場に警備兵達だけでなく、思わず3人も姿勢を正す。
警備兵二名に一瞥した後、イサールは三人を見据える。
「シャルア。陛下より任されたのだろう。雑談は早々に切り上げ、仕事に集中しなさい」
「すいません……」
「セカヤ。仕事を中断するほど、シャルア達との会話が重要なようだな」
「いえ……務めの方が、重要です」
「エト。君の立場上、言うに言えないのは理解できる。だが、止めるのも助手の務めだ」
「は、はい! 肝に銘じます!」
イサールはそれぞれに合った叱り方をすると、皺の寄った眉間に手を当てる。
別件を片付け、シャルアとエトの様子を見に来たイサールだったが、セカヤが来ているのは想定外だった。呪いについて、彼はディーガから情報を得ている。この国において、魔力を使える人間、さらに魔術や呪術に深く精通する者となれば更に限られる。
エトに呪いを掛けた容疑は、宮廷魔術師達にも掛けられている。




