第十四話
健診を終え、退室した2人は準備の為に医務室に立ち寄る。
「……えーと、これから、よろしく」
「宜しくお願い致します」
改めて、2人は挨拶をした。
頭を下げるエトの首飾りが揺れ、太陽の光に反射する。
「先生とお呼びした方が、よろしいでしょうか」
助手ならば、と形から入るべきかと考えたエトは問いかける。
「未熟な俺にはまだ早いから、今まで通りで良いよ」
シャルアはそう言うと、対呪詛の魔方陣の改良の為に準備をする。棚や引き出しから筆や塗料の入った瓶など、魔方陣を描くための道具類を外国産のトランクケースに仕舞って行く。
「助手の仕事について色々話したいところだけれど、今日は魔方陣に構いきりだ。とりあえずエトには、荷物持ちをやってもらおうかな」
これからエトに関する情報を流すとなれば、目撃者がいることが重要だ。
エトがシャルアの仕事用の鞄を持ち、彼の後ろを付いて回っている。
その様子を見れば、弟子とまでいかずともシャルアの奴隷になったと周囲は思うはずだ。そして、シャルアの瞳の色と同じ宝石の首飾りに気付かれることが出来れば、その関係が嘘では無いと強調されるはずだ。
「はい。落とさないよう気を付けます」
エトは渡されたトランクケースを手に持ち、細心の注意を払う。
そして医務室の扉に〈留守です〉と書かれた看板を吊り下げ、シャルアはエトを連れて中庭へと移動する。
中庭に到着すると、現場を荒らされないよう警備する二名の兵士がいた。既に話が通っているらしく、シャルアが挨拶をするとすんなりと中庭へと入れてくれた。
エトが倒れていた場所には、目印として楕円形を描くように複数の木の枝が刺さっている。他にシャルア以外の足跡もあったらしく、白い布の巻かれた木の枝の目印が刺さっており、その大きさから男性のようだ。
シャルアはその楕円の中へと手を入れ、指を差し、体内の魔力を軽く放出をする。
地面に魔方陣が描かれていたのならば、水路のように魔力の流れる菅が残っている場合があるが、それらしきものは感知できなかった。
木の根元、幹や枝先を確認したが、それらしいものは残されていない。シャルアは荷物番をするエトの元へと戻って来た。
「呪いは道具によって発動したみたいだ」
「道具……?」
「魔方陣を描いた紙か石だよ。発動には呪文のように時間が掛からないし、物を回収すれば証拠が消せるからね」
詠唱は術式の解明を困難に出来る利点はあるが、即効性を重視するなら予め描いて準備が出来る魔方陣が最適だ。たが、詠唱は自分で器の大きさを変えられるのに対して、魔方陣は描いた素材によって決まった量しか魔力を注ぎ入れられない。容量の少ない素材に過度な量の魔力は暴走を引き起こすので、取り扱いには細心の注意がいる。その量の見極めるには数をこなし、感覚で覚える必要がある。犯人は、手馴れているようだ。
「無いものを探すよりも、魔方陣を書くのを優先しよう」」
シャルアはエトからトランクケースを受け取り、懐から布を取り出し石畳に敷くとどっしりと腰を据える。
兵士達は気にする様子はなく、右往左往するエトは遠慮がちにシャルアの隣へと座った。
開けられたトランクケースの中から、石畳の上へと道具が広げられていく。
夜蝶草等の薬草を混ぜた塗料の入った小瓶5種と豆皿6枚、月光樹の枝と砂漠馬の尻尾の毛で作られた面相筆5本、そして石の入った袋。中から取り出されたのは、手の平ほどの大きさの石だ。しかし、そこらに落ちている黄土色や赤褐色の石とはまるで違う。滑らかで艶のある丸い石は黒曜石のように黒く、亀裂に似た金の筋が無数に入っていた。
ただの石には見えず、エトは興味深そうにじっと見つめる。




