表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/33

村を助けよう

 ボノの村は、傍目には平和そのものだった。

 農作業をする村人、それを遊びながら手伝う子供たち。広場では女性が数人囁き合い、荷物を運ぶ男性がいる。

 セラフィナたち四人は、ルーヴェンから徒歩で五日かかる村にいた。定期便の馬車もなく、訪れる人も少ないこの村は、どことなく疲れた雰囲気が漂っていた。

「わざわざ、遠いところから、ありがとうございます」

 村長は、四人に丁寧に頭を下げた。

「ご丁寧に、こちらこそありがとうございます」

 カイルが人の良い笑顔で答えるの見て、村長は明らかにホッとした様子を見せた。まだ四十代ほどに見えるこの男性の顔には、ありありと疲れが見えている。

「いえ……馬車が出ていないこの村に来てくれる冒険者の方がいなくて。来ていただいて、本当に助かります」

「そんなに畏まらなくてもいいですよ。うちのセラが、歩いて移動したかっただけなので」

 朗らかに笑って言うエーリヒに、セラフィナが抗議する。

「私を変な子のように言わないでくれる?」

「セラフィナさん、諦めましょう。ただの事実です」

「――どういう意味よ」

 セラフィナの冷たい視線を、リーゼは向こうを向いて無視した。

 それを見ていた村長が、口の端だけで少し笑った。

「お気遣いをいただいたのは、こちらのほうですね」

 カイルとエーリヒは気遣いだったが、セラフィナとリーゼはただの素だ。それでも村長は、四人の温かい雰囲気に、少し緊張がほぐれる気がした。

「依頼の話をさせていただいてもよろしいでしょうか」

 断りを入れてから、村長はことの次第を説明する。

 冬も間近なこの頃、ボノの村は秋芋収穫で大忙しのはずだった。それが、今年は一部の畑の秋芋が食い荒らされるという事態になっている。原因は、近くに巣くったマッドボアだ。

 土魔力を帯びた猪に似た魔物で、主食は芋。この村が、絶好の食糧庫になってしまったのだった。

「――秋芋は、村にとっては冬を越えるのに不可欠な作物です。これ以上畑を荒らされれば、冬を越せないかもしれない……」

 村長は、深く頭を下げて続ける。

「どうか、村を助けてください」

 セラフィナが「歩いて旅がしたい」という理由だけで受けた依頼は、村の存続がかかった依頼だった。四人は申し訳ない気持ちになって顔を見合わせ、誰からともなく頷き合った。

 四人を代表して、カイルが口を開く。

「軽い気持ちで来てしまって、申し訳ない。依頼内容は理解しました。できる限りを尽くしましょう」

 村長は、誠実なカイルの言葉に、いたく感動したのだった。


 村の近くにある広い森。

 四人は、崖の上から魔物の巣を見下ろしていた。

「ずいぶん大きな群れね。普通はこんなものなの?」

 セラフィナが、横にしゃがんだカイルに聞いた。

「いや。普通の群れは十匹くらいなんだけどな」

 カイルが、顔を引き攣らせて答える。

「普通の三倍はいそうですね。燻製にしておけば、冬は超えられそうですね」

 リーゼは、早速マッドボアの活用について考えだした。そこに追加情報を入れるのは、セラフィナだ。

「マッドボアのお肉は、柔らかくて美味しいって、受付のお姉様が言っていたわ。あと、牙は高く売れるのですって」

 話し込む二人を、カイルが呆れながら嗜める。

「二人とも、この前水晶柱を持ち込みすぎて呆れられたの、忘れたのか?」

 先日の依頼で、水晶の洞窟の水晶柱をギルドに引き渡した時のこと。

 回収した水晶柱は百本を超えていたので、事前に「常識の範囲で引き渡す」ことを四人で話し合っていた。当日、依頼達成の報告で提出したのは、リーゼの魔法拡張鞄の中身分、つまり四十本弱だった。

「雪崩れるほどの水晶柱を見て引いてなかったのは、お前たち三人だけだからな」

 カイルが半目で三人を睨むが、見られた方は疑問符だらけだ。

「常識の範囲内でっていう話だったし、妥当な量だったと思うけど」

 エーリヒまでおかしなことを言い出した。

「一本で大銀貨一枚だとしても、宿代一ヶ月分に満たないだろう?」

 エーリヒが首を捻りながら言うと、セラフィナが訂正する。

「エーリヒ。普通の宿なら、一ヶ月泊まれるわ」

「ルーヴェンの『羊亭』に泊まりましたが、一泊で大銀貨三枚でしたよ」

 詳細情報はリーゼが担当するが、三人の会話にカイルは開いた口が塞がらない。

「お前たち……『羊亭』は、ルーヴェンじゃ高級宿と言われてるからな。一般的な、には該当しないからな」

 低く唸るようにカイルが言うと、三人は顔を見合わせて「知ってた?」「知らない」「一般的って何?」と言い出した。

 その様子を見て、カイルはため息をついた。その所作や言動から薄々気がついてはいたが、「たぶん貴族」の三人と庶民のカイルとでは、金銭感覚が絶対的に合わない、とカイルは確信していた。三人がそれを隠す気も、修正する気もないことも問題だった。

 カイルは、こめかみを抑えながら「とにかく」と話し出した。

「魔物の全体像もわかったし、今日はもう日が暮れる。とりあえず村に戻って休ませてもらおう」

 そう言って、セラフィナを見た。

「セラ、村の畑に結界を張れるか? 朝まででいいんだが」

「問題ないわ。村全体にかけた方が楽だけれども」

 頼もしい答えに、カイルが頷いた。

「頼んだ。魔物の駆逐は明日にしよう。作戦でも考えるか?」

「あまり細かいと混乱しますので、大雑把にお願いします」

 頼りない返事が、リーゼから返ってきた。

 四人は、翌日の戦闘をイメージしながら、村に戻っていった。

 

 翌日、日が昇ると四人はさっそく魔物の巣へ向かった。

「まだ何もしていないのに、あんなに感謝されるなんて」

 歩きながら、セラフィナは朝の出来事を振り返る。

「一夜にしろマッドボアに作物を襲われないとなれば、安心して眠れたんだろうね」

 エーリヒも、朝の村長の顔を思い出す。疲れてはいたが、すっきりとした顔をしていた。

「セラフィナさん、夜にマッドボアは来ていたのですか?」

「うーん……すっかり眠っていたから、わからないわ」

 少し思い出そうとするそぶりを見せながら、何も覚えていないセラフィナに、リーゼはため息をついた。

「セラフィナさんは、のんびりしすぎです」

「夜は眠るものよ。朝、起きられなくなるじゃない」

「セラフィナさんは、お寝坊しないですものね」

「そう、私はえらい子なのよ」

「お子様ですね」

「何ですって?」

 ムッとした様子のセラフィナに、カイルが「まあまあ」と苦笑いする。

「それより、そろそろマッドボアの巣だぞ。少し緊張感を持とうか」

 リーゼは「はーい」と返事をしたが、セラフィナはぷいとあっちを向いてしまった。エーリヒがくすくすと笑う。

「セラは、小さい頃から規則正しい生活だったんでしょ? 長く続けられるって、すごいことだよ」

 頭を撫でられて、セラフィナはチラリとエーリヒを見上げる。

「――そうよ。子供ではなくて、継続する努力なのよ」

 まだ少し口を尖らせながら言うセラフィナに、エーリヒが「そうだね」と優しく返した。

 二人に世界に入り込めず、リーゼはすすすっとカイルに近づいた。

「カイルさん。エーリヒさんをあのままにしておいていいのですか?」

 カイルは、何のことかわからず困惑する。

「あのままって、エーリヒはいつも、あんな感じだろ?」

「いいえ。最近糖度が過剰です」

 真面目に言うリーゼだが、カイルは「糖度?」と首を傾げる。

「甘やかしすぎです。うちのお嬢さんは、ああいった態度に慣れていないので、エーリヒさんに甘えている節があります。こまった状況です」

 リーゼは顎に手をあてて、真剣に悩んだ。

「これは、いよいよエーリヒさんを排除……」

「怖いことを考えるな」

 間髪入れずにカイルが突っ込んだ。

 その一方で、カイルはセラフィナとエーリヒのやり取りを見やった。

 今も、エーリヒはセラフィナに蕩けるような視線を送り、彼女はそれに気づいていないまでも受け入れているように見える。

「ま、何にせよ、そろそろ巣だ。別れるぞ」

 カイルの言葉で、リーゼはセラフィナの元へ行った。何かを囁いた後、エーリヒと二人で離れていく。代わりに、セラフィナがカイルの元へ来て笑顔で言う。

「行きましょうか」

 カイルは、何となく久しぶりにセラフィナの声を聞いた気がした。先程まで話をしていたのに、と不思議に思いながら、それは口に出さずに笑い返した。

「ああ、よろしく頼む」

「任せておいて」

 カイルは、セラフィナの笑顔に目を細めた。

 

 セラフィナたちが向かったのは、昨日も行った崖の上だった。

 二人が崖の下を覗き込むと、五メートルほど下に、マッドボアの群れが見える。少し離れた木々の間で、リーゼとエーリヒの姿が見える。

 カイルは、探索魔法を広げた。

「全部を囲うとすると、直径で三十メートルくらいか。頼んだぞ」

「頼まれたわ」

 セラフィナはスタッフを持ち、空に掲げる。その先に光が灯り、次の瞬間にはマッドボアの群れを丸ごと囲う、透明な膜が立ち上がった。

 スタッフを下ろしたセラフィナは、カイルを少し下から見上げて言った。

「ねえ、やっぱり、どかーんと殲滅しちゃうのは、ダメ……よね?」

「昨日も言ったが、ダメだ。リーゼも言ってただろ? 自然破壊になるし、何よりここは村から近い。村に影響が出かねない」

 カイルにはっきりと言われ、セラフィナは「そうよね」と崖の下を見る。

「村のための依頼だものね。村の人たちの利益にならないと、ね」

 それを聞いたカイルは、優しい顔でセラフィナの頭を撫でた。

「そうだ。セラは、ちゃんとわかってるじゃないか」

「子供ではないもの。ちゃんと、わかっているわ」

 最近、頭を撫でられることが多いな、と思いながらも、嫌ではない。くすぐったい感覚に戸惑いながら、セラフィナは次の行動に出る。

「次は、数を減らしてリーゼたちのフォローね。始めましょうか」

「ああ。始めよう」

 セラフィナはスタッフを、カイルは弓を構えた。

 風の刃と魔力矢が、マッドボアに向かって同時に放たれた。

 

 マッドボアの巣のすぐ近くで、エーリヒとリーゼは木の影にしゃがみ込んでいた。エーリヒは、ぴくりと顔を上げた。セラフィナの結界が張られたのを感じたのだ。

「リーゼ、結界が張られた。次の合図で、行くよ」

 リーゼは、魔力操作が得意ではなく、透明な結界が張られても見えない。エーリヒの言葉に頷き、剣を抜いた。

「セラフィナさん、暴走しないといいですね」

「カイルがいるし、大丈夫でしょ」

 エーリヒが苦笑混じりに答えた。

「俺たちは、二人の攻撃に当たらないように注意するだけだよ」

 エーリヒが言ったその時、マッドボアの巣の奥方で、空気が裂ける音と、その直後に重い衝撃音が響いた。リーゼがさっと立ち上がる。

「行きますか」

「ああ、行こう」

 二人は、目標に向かって走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ