9.紳士的
翌日は領地周辺の貴族や商人、王都からも招待している懇意にしている貴族、またベルック公爵家の親族方等を招待した夜会が開かれる。
領主館に泊まられる方も大勢いて、その日は貴族方をエミリオ様と共にお迎えするので忙しかった。
ベルック公爵家の親族の方々にお会いするのは特に緊張してしまった。皆様とにかく美しく、魔女の方々は正しく年齢不詳だった。マデリン様と変わらない美しさの方がマデリン様のお母様で、その方が「お母様」と呼ぶ方は双子かと思うような若さと美しさで、さらにその方が「お母様」と呼ぶ方も姉妹かと思うような若さと美しさで……。
つまり、皆様マデリン様と変わらない若さと美しさを保っていらっしゃる。
何をどうしたらこんな若さと美しさを保てるのだろう。いくら寿命が長いとは言え、殆どの魔力のある貴族女性は多少の違いはあれど、50歳位から年相応の老け方をしていくものだ。
100歳越えてる方もいる筈だよね……?
やっぱりいちじくの効果!?それともベリー類の効果!?
親族の方々も、女性が苦手で避け続けていたレオン様の婚約者となった私に興味津々だったようで、ガッチリ捕まりお茶会ならぬ尋問タイムになってしまった。質問に答えながらもどうしてもその美貌維持の秘訣が知りたくて伺ってみれば、「遺伝かしら?」なんて私ではどうしようもない答えが返ってきて遠い目になってしまった。
私にもお父様やおじい様達からのアナベル様の血が混ざっているから、多少の期待は出来るだろうか……。
とりあえず皆様から「可愛い」と連発されていたので、私のことを受け入れて貰えたようだと安心はした。きっとこの方達は美しいものに慣れすぎて、ちんちくりの私が物珍しく、また幼子のように見えたことだろう……。
夜になり夜会の時間になった。
今日もベリー染めのドレスに身を包んでの参加だ。今回は赤みの強い生地で、とても目を引く。
ベルック公爵家の親族方もベリー染めのドレスらしく、青系や紫系の生地で、敢えてなのか私と対照的な色味だ。でも年齢不詳の美貌の彼女達が紫色に身を包むと、何とも言えない妖艶な大人の女性の色気が出ていて自信を無くしそうになる。
ドレスにあわせた濃い赤の口紅が、唯一私の大人っぽいところだろう。この口紅を選んでくれたイネスには感謝しかない。
それにしても、この短期間にこれだけの数のドレスを仕立ててしまうとは、ベルック公爵家ってどうなってるの?専属お針子さんを沢山抱えているのだろうか?それともドレスサロン自体経営でもしているとか?
全て段取りをして準備をされたエミリオ様って、凄いな。
そのエミリオ様と一緒に招待客を出迎え、ダンスの時間になればエミリオ様のパートナーとして踊り、それ以外の時間は様々な方への挨拶に付いて回った。
……社交ってこういうことなんだと、改めて思った。
レオン様と夜会に出ても、他の貴族とこんなに精力的に会話をしない。向こうから来たら対応するのが基本だったので、爵位を継ぐという自覚が足りなかったのかもしれないと、ちょっと反省した。
そして夜会も終わり、帰られる方々との挨拶を終えて、やっと私の任務が終了した。
お世話になっている館なのでだらしない態度は取れないが、それでもソファの上で力を失くして座ってしまった。足はヒールでパンパンだし、ずっと姿勢に気をつけていたから肩は凝るし、笑顔をキープしてたので表情筋が痙攣しそうだった。何よりずっと気を張っていたので、精神的な疲労が凄かった。
「はい、おつかれさまでした」
エミリオ様が湯気が出ている温かい飲み物を差し出してくださった。お礼を伝えて飲んでみれば、なんとレモンの味だった。ずっとベリー尽くしだったので、柑橘系の酸味が体に染み渡るようだった。
そして使用人の方が軽食を持ってきてくれた。完全に私の好みを把握してくださったのか、魚系の料理だった。有り難く頂くことにした。
「色々と助かったよ。振り回して悪かったね」
「いえ、あまり私自身手応えはなかったのですが、少しでもお役に立てたのなら良かったです」
「へえ。こちらとしては商品の宣伝に役立ってもらって昨日だけでかなりの数が売れたし、フレイヤが食べてた白身魚サンドはあっという間に売り切れたらしい」
「そうなのですか!」
吃驚だ。でも白身魚サンドは本当に美味しかったから、私が食べたからというより商品自体が良かったのだと思う。
「何かお礼をしないとな」
「いえいえっ!こちらこそ色々と勉強になることばかりでしたから」
社交については本当に勉強になったし、自分の意識改革にもなったと思う。
「お前は欲がないな」
「そう、ですか?」
「カリナなら遠慮なく言うぞ。どこそこのスイーツが食べたいとか、どこかへ連れてってくれとかな。まあ、それだからレオンも好きになったのだろうな」
何とも反応に困ることを言う。恥ずかしくて顔を上げられない。側でルイーズが笑いを堪えているのが分かる。
「アイツも好きな女に手を出せずに我慢の限界だろうに必死に堪えているみたいだから、そろそろ受け入れてやれば?」
ぶふっと、激しく吹き出す私とルイーズ。
「なっ……何、を……」
「何って、そんなの性──」
「いいです!言わなくていいです!!そういう意味の何じゃないです!!!」
突然何を言い出すのだ。いや、エミリオ様らしいと言えばらしいのだが、ルイーズは多分まだ耐性がない筈で、しかも騎士科と言えどご令嬢であって……いやいや、ルイーズも気になるけれどそんなハッキリ言われると私だって恥ずかしい!
「あの……その……それは、マデリン様からベルック公爵家の掟だと言われておりますし……ええっと、両家の信頼を裏切ることにも、なりますし……はい……」
しどろもどろになりながら答える。
「ふーん。信頼ねぇ」
「はい……」
もうこの話は終わって欲しい。もう恥ずかしい。もう止めて欲しい。
「あっ、あのっ!エミリオ様!」
ちょっと声が裏返った。動揺が隠せない。
「先程のお礼をと言う話ですが!魔法について教えて頂くことは可能ですか!?」
「魔法?」
「エミリオ様は仮装トーナメント大会でも優勝される程強いと伺いました。私は今、王宮魔導士を目指してその為の講義を受けているのですが、無詠唱の魔法解除がなかなか出来ないのです。もしエミリオ様が出来るのなら、コツなど教えてくださいませんか!?」
話を変えるために無理矢理引き出してきた話題としては上々ではないだろうか。
「ああ。コツか。俺は直ぐ出来たからよく分からん」
……神よ、何故平等ではないのだ!
「フレイヤの両親も出来るのではないのか?」
「そ……そうですね」
し~ん。と、静寂が訪れた。
折角話題を変えたのにもう終わった……。
私は何度もチャレンジするのに全然出来ない。でもエミリオ様は直ぐ出来たと言う。こうも能力に差が出るのは何故なのだろう。悲しくなる。
「そう言えば、アリーチェ王女殿下と対戦した時、かざした手の平をぐっと握ると魔法解除されてた。恐らくだが、詠唱していた頃からの魔法解除する時の癖だったのではないかと思う。そう言った動きをつけながら試してみてはどうだ?」
思いがけずまともなアドバイスだった。さっきの静寂は考えてくれていたからなのだろうか。
この方は不思議な方だ。いつも女性を口説くような軽い態度で女たらしと言われるそのままなのに、根は真面目で紳士的なのだ。
女たらしを装っているのだろうか。
「ありがとうございます」
「……何だ?何故笑ってる?」
知らず頬が上がってしまっていたようだ。指摘されてしまった。
「エミリオ様はとても真面目で優しく紳士的で素敵な方だなぁと思いまして」
「そうか。レオンが居なくて夜が寂しいなら、いつでも俺の部屋に来ていいぞ。優しく紳士的に全てを教えてやるぞ?」
「……行きません」
結局からかわれてしまった。
◇◇◇
夜会が終わり寝支度を済ませたフレイヤに、就寝の挨拶をしてフレイヤが借りている客室を出る。直ぐ隣の自身が借りている客室に行こうとして、人の気配を感じる。
「何か?フレイヤのとこへ夜這いに行くつもりですか?」
「……少し良いか」
良いかと聞きながらも、有無を言わせぬ間に奥の空き部屋に消えていく。仕方なくその後をついていく。
「ルイーズは魔力の気配を読み取れるのか?」
部屋に入り扉を閉めるなり問われる。真っ暗な部屋の窓からは月の光が差し込み、妹と同じダークブロンドの髪を照らしている。
「それは、気配に気づいたかってことですよね」
「ああ」
「高魔力の気配は2つ。1つはフレイヤに付いている影の護衛ではないかと。もう1つは自身の魔力を霞ませながら尾行していた。観察されているようだった」
「……お前は何も知らされていないのだな」
「はい。気配を感じてからレオン様が護衛に私を付けた訳を悟りました」
「そうか」
「今、教えては頂けないのでしょうか?」
「俺も知っている訳ではない。だが、その内お前もフレイヤも知らされるだろう。お前もソフィア様の血を引いている魔女なんだろう?とりあえず気をつけてくれ」
それだけ言ってエミリオ様は部屋を出ていった。
知らされていなくとも勘づいているのなら、それだけでも教えてくれればいいのに。
不確かなことは言えないのか。
「フレイヤの言う通り、真面目だねぇ」
お前も気をつけろと言いたかったのかもしれない。始まりの魔女の家系だから。




