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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第4部
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10.新しい任務

(寒いな……)


いつの間にか冬に季節が変わっていた。

町の花屋には真っ赤なポインセチアが沢山置かれている。あちこちの路面の店にも飾られ、市民が暮らすアパートの窓辺にも多く見られる。

春にはビオラが植えられている花壇も今の季節はポインセチアで埋め尽くされている。

街路樹の木は葉を落とし寂しげな様子ではあるが、鮮やかな赤色で彩られた町はとても華やかな印象だ。


町を行き交う人は急いでいるのか忙しなく歩く者もいれば、明るい店の人の声に立ち止まり商品を物色する者もいる。冬の休暇を前に、どこか皆の気持ちも違うのだろう。


大通りの先の広場に面した、王都で人気の劇場に足を踏み入れる。

劇場の者に案内されるまま上階へと登って行く。今は客も観覧中でロビーや階段、廊下でも殆ど人と会わなかった。

辿り着いた部屋の扉をノックすると、見慣れた顔が出てきた。


「よっ!久し振り!」


相変わらず軽い。

部屋に入ると歌声が聞こえてくる。今日はオペラだったのか。高い位置の観覧席で、他の席からは一切覗くことが出来ない特別席。

1度フレイヤと一緒に来た。誕生日のお祝いで劇を見た。コイツから謝罪として貰ったチケットだった。


「ショーン。いつから情報屋に?」


「卒業してから殿下にどうだって。信用して貰えて光栄だよ」


いつもふざけていて軽いし適当なところがあるが、アカデミーの基礎科の頃からの付き合いだ。信用の置ける友人であることは確か、か。


「お前らが調べてる演奏家だけど、トルクメ伯爵が気に入って様々な貴族に紹介している。バイオリンの腕は確かに本物で、幾つかの楽団も勧誘したらしいが全部断っている。個人で演奏することに拘っているそうだ。しかも、高位貴族の邸で行われる夜会や茶会でしか演奏しない。それだけじゃなく、最近はベルック公爵家とリーズ公爵家とのパイプを持ちたがっているって噂だ。両家と縁の深い貴族に、両家を招待した夜会で演奏したいと言ってるらしいぞ」


「そうか」


リーズ公爵夫妻は仕事もあり殆ど社交の場に出ない。フレイヤも俺が行けないので出てはいない。

うちは、恐らく父や兄が情報をどこかで得て警戒しているだろう。


この辺りの情報は潜っている隊員と相違ないな。


「トルクメ伯爵がアストゥリア公爵に紹介したことで公爵が大層気に入って、今度の王宮舞踏会で演奏させるつもりで動き始めたそうだ」


「あんのクソ公爵……」


前国王の叔父が臣籍降下で賜った公爵家。前公爵が病気で早くに亡くなり、現公爵が継いだものの地位だけ立派で、散財して遊び呆けているのではなかったか。領地経営も3年前の長雨被害で赤字となり、王家から救済を受け借金もあった筈。


公爵に接触したとの情報は入っていたが、王宮舞踏会を狙っていたのか。


「王宮舞踏会は出るのか?」


「殿下はカリナのお披露目もあるから出席されるが、俺はまだ分からない」


リーズ公爵夫妻は出席するだろう。フレイヤも出なければならないだろうが、俺が一緒に出られるか分からない。

うちは皆必ず出席するだろうな。


その演奏家は間諜かと思ったが、目的がハッキリしない以上何があるか分からないので、始まりの魔女の家系が揃う王宮舞踏会には引き入れたくないな。

殿下なら潰せるだろうか。


「それと最後に、さっき個人で演奏することに拘っていると言ったが、パトロンらしき人がいるという噂もある」


「パトロン?トルクメ伯爵ではなく?」


「ああ。アカデミーの新歓パーティーでも演奏に加わっていたそうなのだが、学生らしき貴族が乗る馬車に入って行き、そのまま帰って行ったのを見た演奏家がいる。どこの家の者か分からないらしいが、とても美形の男だったと。それにレオンや殿下が卒業して王子様不在になったアカデミーに、新しい王子様が現れたとか言って令嬢が色めき立っているらしいのだが、多分同一人物だ」


「…………」


王子様って……。


「だが、普段の授業でその美形の男を見たものはいないみたいだぞ」


「新歓パーティーに学生のふりをして潜り込んでいたということか」


フレイヤを新歓パーティーに行かせなくて良かった。

それにしても、アカデミーにも間諜が1名いた筈。そんな目立つような容姿の者がその間諜とは考えにくい。ならばその美形の男が首領の立場の者の可能性が高いか。


「その美形の男の特徴は分かるか?」


「色黒で、王家の者に良く似た美しい金髪をしていて、少し長く1つで結んでいたそうだ。ちょうど今のレオンのような髪型だろうな」


研修期間に髪を切らず、その後も切りそびれいつの間にか髪を結んでいる髪型に定着してしまった。

いや、それだけではない。フレイヤがどこかウットリとした表情で髪を見るから、気に入っているのかもしれないと思い、積極的に髪を切ろうとしなかったのもある。


……我ながら単純だ。


それはさておき、その様な目立つ金髪なら潜っている隊員も気づきそうなものだが。


「了解した。ありがとな」


「なあ、レオン」


「なんだ?」


話も終わりだと立ち上がり行こうとして、ショーンに声をかけられる。


「お前、もうちょっと変装とかしろよ」


「は?気配は消してたぞ」


「もっと町に入る前から消せ。お前に気づいた令嬢3人が追いかけて来て劇場前で待ち伏せしてるぞ」


……令嬢は侮れない。


「分かった。すまん。迷惑かけた」


「女の噂はあっという間に広まるぞ」


「……じゃあな」


何処にでも居そうな下働きの青年に変装して劇場の裏口から出た。



途中の人気の無い路地裏で変身を解いて警備隊の詰所に寄り、そこに繋いでおいた馬に乗って王宮の騎士団に戻った。


いつもの特殊部隊の部屋へ入ると、書類に囲まれているエドワード殿下だけでなく、リアム隊長も待機していた。


「はい、報告」


ソファに座りながら人差し指をクイッと曲げて報告を促してくる。

俺を待っていた訳かと悟る。


「演奏家の件、概ね隊員の調査報告と同じでしたが、アストゥリア公爵に気に入られて王宮舞踏会で演奏させるつもりの様です」


「面倒な……」


「姉上に言って潰させよう」


この間トルクメ伯領に潜った際、特におかしな船は無かった。船を隠している倉庫も無かった。

トルクメ伯爵は協力しているというより、利用されていると考えるのが妥当だ。

それと同様アストゥリア公爵も見事に利用されているのだろう。


「それとパトロンらしき人がいるそうです。アカデミーの新歓パーティーで演奏後に学生らしき貴族が乗る馬車に入って行き、そのまま帰って行ったのを見た演奏家がいると。どこの家の者かまでは分からず、普段の授業でもその者を見たものはおらず、ただとても美形の男で、色黒の王家の者に良く似た美しい金髪をしており、少し長く1つで結んでいたそうです」


「……金髪か」


「妙だな。何故そんな見立ちそうな容姿なのに潜っている隊員からの報告には載っていないんだ?」


殿下も俺と同じように疑問に思ったようだ。


「その隊員が裏切り者か、もしくはバレている為に魔法を使って隊員に怪しまれないようにしているか、だな」


「そんな都合の良い魔法があるのですか?」


「一種の催眠魔法だろう。素性を知っている者として思い込ませるんだ。そうすれば怪しく思わないから特に報告もしない」


成る程、催眠魔法はそんな使い方もあるのか。この星では禁忌魔法なのに自在に使っている可能性があると言うことか。


「アカデミーに潜っているのはアルだったな。比較的若くて卒業したばかりの者をアカデミーに潜らせたのが仇になったか。レオン、裏切り者かもしくは魔法で操られているのか、どちらかを確かめて来い」


「私がアカデミーに潜るのですか?」


「お前しかいないからな。但しお前は学生に顔が知れている。常に別人に変装をして解くなよ。魔力消費は激しいかもしれないが、高魔力だから大丈夫だろ」


「分かりました」


「それと、婚約者に目を奪われて仕事を放棄するなよ」


「……しませんよ」


リアム隊長がニヤニヤしている。

しかし例え任務だとしても、彼女を一目見られるのかもと思うと気持ちが逸ってしまう。

結局トルクメ伯領に潜る前日に会って以来会えていない。気がつけば2週間程経っている。


……平常心で気をつけよう。


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