11.気分転換
ベルック公爵領から戻り、さらに1週間以上経っていた。その間もレオン様から特に連絡は無かった。お花の贈り物も無い。
ベルック公爵領であったことを沢山話したいと思うけれど、会うことは叶わず、手紙も書けない。
アカデミーでカリナ様に偶然お会いした時も、たまたまベルック公爵邸で会えたあの日以来帰ってきてないと仰っていた。
もうじき王宮舞踏会だ。レオン様はどうされるのだろう。一緒に参加出来るのだろうか。それとも護衛の任務とかあるのだろうか。やっぱり私は一人で参加するのだろうか。お父様もお母様も行くけれど、パートナーがいないというのも寂しい。
新歓パーティーの時みたいに、一人では駄目って言って欲しい。
それは私の手前勝手な考えだ。こんなことを考えているなんて知られたら、レオン様を困らせてしまうだろう。
お仕事があるなら仕方ないのだから。
王宮舞踏会を不参加にするのはさすがに難しいし。
会えないだけでこんなにも我が儘になってしまうのか。
「元気ないわね、フレイヤ」
「ん?そうかな」
「レオン様とは会えていないの?」
「うん……」
アカデミーの食堂で、いつもの友人といつものランチ。
そんなに元気がないように見えるのだろうか。顔や態度に出てしまうとは、私は貴族令嬢として失格だろうか。
いつもの美味しい筈の魚ランチも、寒い冬に体の温まるサーモンのグラタンなのに、直ぐに手が止まってしまう。食欲が沸かないのだ。
「そう言えば、レオン様の噂を聞いたのよ」
「噂?」
「昨日町でレオン様らしき人を見た人がいるらしくてね、黒いコートを羽織ってたらしいのだけど、チラリと見えた服が騎士団のもので、帯剣もしていたそうでね、その姿がもう最高に格好良かったらしいのよ!」
「ええー!羨ましい!私もお見掛けしたい!」
「でも途中で姿が見えなくなってしまって、進む先には劇場があったから暫く見張ってたそうなのだけど、結局出てくる姿は見られなかったって」
劇場?
「本当にレオン様だったの?」
「あんな美しい顔の方はそうそういないから見間違える筈無いって言ってたみたいだけどね」
ショーン様のところへ行かれたのだろうか。
何かしらの任務で訪れたのだろうか。
それとも、どなたかとお約束でも……
ああ、馬鹿だ。
会えないからってこんな想像は良くない。
会えなくとも、信じて待っていたい。
「レオン様って今髪を伸ばされているのよね?この間見せてくれた写真に写っているお姿は髪が長かったじゃない?その町で見掛けたレオン様も長かったそうでそれがとっても似合っていて格好良かったって」
「うん。先日お会いした時もまだ長かったよ」
「ねえ!今日最後の授業が休講になったから、授業後に町にお買い物に行かない?髪紐をレオン様にプレゼントしてみたら!?」
「プレゼント?」
「最近、フレイヤ本当に元気ないからさ。たまには楽しいことを考えながら出掛けるのも気分転換になるでしょ?」
そんなに私はこの2人の友人に心配をかけてしまっているのか。申し訳ない。
せっかくだから行こうかな。
モヤモヤとした気持ちを抱えて暗くなっているより、レオン様のことを考えながらプレゼントを選ぶ方が楽しくてずっと良いだろう。
思い立ったら即行動!
それが私のモットーだった筈。
いろいろ痛い目にもあって最近はなりを潜めていたけれど。
「ありがとう。じゃあ、行こうかな」
「よーし!決まりね!」
授業が終わり友人と町へ出掛ける為に一緒の馬車に乗ろうとした時、腕をがしっと掴まれた。振り向いたらルイーズがいた。
「何処か行くのか?」
「え?うん。町にお買い物」
「買い物?何を買うんだ?」
まさかルイーズがこんなに詳しく聞いてくるとは思わず、ちょっと吃驚する。
「ルイーズ、どうしたの?」
「いや、授業後に出掛けるなんて珍しいなと思って」
「まあ、確かに。王宮魔導士の講義がいつも遅くまであるから出掛けずに帰宅してたけど、今日は講義が休講になったの。それで友達が買い物に誘ってくれたから行こうと思ったんだけど」
「そうか……。なら、私も付いていって良いか?」
「え?でも……」
まさかそんなことを言うとは思わず、さらに驚く。
ルイーズも何か欲しいものでもあるのかしら?
「フレイヤ、私達は構わないよ」
「え?そ、そう?」
「はい!決まり!ありがとうございます!お邪魔しますね~!」
ルイーズにグイッと背を押され馬車に詰め込まれる。さも当然と言った感じで私の隣に座り、友人と親しげに会話をし出す。
相手に嫌悪感を抱かせずに上手く丸め込むこの感じ、エミリオ様やカリナ様に似てる……。昔からそうだったけれど、今となればアナベル様の家系特有のものなのだろうな……。
レオン様も時々そうだもんな。
「買い物って、それ?」
「うん、そうなんだけど……う~ん、どれにしよう……」
友人の勧めるお店に着いて店内を見渡せば、品揃えの多さに驚く。
(こんなにもあるんだ……)
刺繍糸のように様々な色の紐があり、また何色か合わせた紐もある。長さも太さも沢山の種類がある。自分で手作りすることも出来るみたいで、作り方の本まで売っている。
「買ってどうするんだ?何に使うんだ?」
「……レオン様に、あげようと思って」
「この紐を?」
「今髪が長いから、縛るようの髪紐をプレゼントしようかなって……」
「何照れてるのよ、フレイヤ」
「そうそう。恋人に贈り物するのに恥ずかしがる必要ないでしょ?」
何だろう。友人の目が生暖かい気がする。
友人の提案でここまで来たのに、何故だかからかわれている。おかしくないか??
「ふ~ん。こういうのって、自分の色の物を贈るものなんじゃないの?」
「そうよね~!彼は私のものっていう一種の独占欲よね!フレイヤのイヤリングみたいにね!」
どきっ!
「そのイヤリング、レオン様から頂いたのでしょ?同じように2人の色が入ったものが良いんじゃない?」
「そうだよー!その方が喜ばれると思うよ?フレイヤだって嬉しかったでしょ?」
友人の推しに恥ずかしさが増してしまう。
自分の色を贈るのはやっぱり恥ずかしい。友人の言った通り、独占欲丸出しだし。誕生日に贈ったハンカチの刺繍も黄色にしたし。
髪紐でも男性のレオン様が身に付けるものだから、派手な色よりかは落ち着いた色味にしようかなと思っていた。
レオン様の髪にあわせて黒色か濃い紫色か……。
でも、確かにイヤリングを頂いた時、青色と琥珀色で凄く嬉しかった。
『会えない時でも、俺は君の側にいられる気がする』
そう言っていた。側にいてくれてるんだって、嬉しかった。それから毎日着けている。
私もそんな欲を出して良いのだろうか。
「私を側に感じていて貰いたい」なんて、図々しく無いだろうか。
レオン様は嬉しいと思ってくださるのだろうか。
青色系は沢山種類がある。琥珀色に似た色味はやっぱり目立ち過ぎてしまうだろうか。他の色の紐と組み合わせても、差し色として際立ってしまいそう。
夜会の時によく着ているのは紺色。青みが強い色の時もある。
……紺色くらいなら、良いかな。
地味すぎ?ああ、もうよく分からない!
頭を抱えて溜め息をついてしまう。
友人とルイーズがそんな私を見て呆れたように笑う。
結局3人が暇を持て余してしまう程に長い間悩みに悩み、何とか決心して買い物を終わらせた。
悩みすぎたのか、店の外は夕暮れに染まっていた。
「長い時間付き合わせてごめんね」
「いいの、いいの!」
「気分転換になった?」
「うん。ありがとう」
友人2人と別れ、それぞれの家の馬車に乗り込む。ルイーズもリーズ公爵邸に行くと言うので、一緒に乗り馬車が走り出す。
馬車の窓からは赤いポインセチアが飾られた町並みが見える。
馬車は大通りの広場を通り、劇場が見えてきた。昼間にあんな話を聞いたからか、辺りをキョロキョロと探してしまう。会える筈もないのに期待してしまう。
すると馬車が突然止まった。
「何だ?」
「何だろう?」
暫くすると御者から声が掛かる。
「アカデミーのご友人だと言う方がいらっしゃるのですが?」
「友人?」
こんなところで?さっき別れた友人以外にそこまで親しい友人はいないけれど……。
馬車の窓から外を見ると、1人の男性が私に向かって手を振っていた。
「フレイヤ、知ってる人?」
「あの人……誰だっけ?」
私の声が聞こえたのか、私が首を傾げたのが見えたのか、ガクッとショックを受けて項垂れている。
何だか、申し訳ないな。




