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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第4部
102/159

12.夕暮れの吹雪

貴族令息のような装いなので、とりあえず馬車の中からでは失礼かもしれないと思い、馬車から降りることに。ルイーズが警戒してか、私の前に立つ。


う~ん、ルイーズの頭部で顔がよく見えない……。


「フレイヤ嬢、忘れちゃったんですか!?」


「ええっと……魔法科ですか?」


とても親しげな雰囲気で話し掛けられるけれど、全然記憶にない。


「またお会いしましょうって言ったんですけどねぇ」


またお会いしましょう?

どこかで聞いたような……?

……………………


「あっ!仮装トーナメント大会の時に声をかけてくださった方ですか!?」


「思い出してくださいましたか!」


合っていた。思い出せて一安心。

忘れてしまうなんて、なんと失礼な。いや、でも、あれ、ちょっと会話しただけだったし。


ひょこっとルイーズから顔を出し、覗き見る。

そうだ、あの時色黒で綺麗な顔立ちの人だなぁって思ったんだ。やっぱりとても綺麗な顔立ちをしている。それに髪も綺麗な金髪だ。この夕暮れの中、輝いているようだ。


「良かったー!1度ゆっくりお話をしてみたいと思っていたんです。良かったらこの後夕食を一緒にいかがですか?」


「え……」


なんとも急なお誘い。どうしたら良いのだろう。断っても大丈夫なのだろうか。どこの家の方だろう。


「申し訳ありませんが急なお誘いはお断り致します。事前にリーズ公爵家へ話を通して頂けますか?」


ルイーズが代弁してくれた。有難い!そして格好良い!


「そうですか。なんとも勇敢な女騎士様ですね。ああ、貴女は仮装トーナメント大会で準優勝された方ですね。タンカーヴィル伯のルイーズ嬢」


「……そういう貴方は?」


何かルイーズが少しピリピリとしている気がする。

だ、大丈夫……かな。


男性はニコリと笑顔を浮かべて私を見る。

次の瞬間には私の手を取り、手の甲にキスをされた。


「私はテオドール。以後お見知りおきを」


速かった。

レオン様のような素早さで、エミリオ様のようなスマートさ。


「おい!何を勝手に───」


ルイーズの声を聞きながら、掴まれている手が冷たくなっていくのを感じる。


「なっ、何!」


足元から氷が広がっていく。パキパキと音を鳴らして広場中を凍らせていく。


「フレイヤ!」


ルイーズが私の体を、テオドールと名乗った男から引き離す。


私の指先が凍っている?

氷の魔法?


「何だ、お前は!」


顔色を変えずにニコリと笑顔のまま。


「その指、早く温めないと凍傷になり、酷いと細胞が壊死して治らなくなりますよ」


そう言うと今度は辺りが吹雪になった。風も強く立っているのも辛い程だ。


「くっ……!フレイヤ!とにかく手を火魔法で温めろ!」


「う……うん!」


指先に集中して手を温めようとするけれど、手が震えている。落ち着かないとと自分に言い聞かせ、火魔法を掛けると直ぐに氷は溶け、少し指先はじんじんとするが、この程度ならリーズ公爵領で慣れている。


顔を上げ辺りを見渡すが、ルイーズしか分からない程の吹雪だ。テオドールもぼんやりとした影しか分からない。このままでは指先どころか全身が冷えて命が危ない。


吹雪からは強い魔力を感じる。体の奥からゾクリとするような気配。こんな魔力、感じたことがない。


どうしたら……

どうしたらいいの?

どうやったら吹雪が止むの?

何でこんなことになってしまったの?

何で?どうして?



その時、ふっと吹雪が止んだ。


違う。止んだんじゃない。


私達の回りだけシールドが張られている。



私達の前に人が立っている。

黒いコートをはためかせて、黒く少し長い髪を靡かせて……



「……レオン、さま?」




◇◇◇



「ぐっ……」


(なんて魔力だ……!)


恐らくあまりシールドは持たないだろう。吹雪なんてものじゃない。風が強くて尖った氷が降ってきているようだ。


この男を尾行していたらフレイヤと接触し出し、ルイーズが付いているようだからと様子を見ていたが、この男は急に俺に視線を合わせ、笑ったのだ。


『気づいてるよ』


そして辺りを凍らし吹雪にさせた。

王都はあまり雪が降らない。そのような町にとってこの吹雪は未経験で、町中の者が驚き混乱し出した。

救いは範囲が狭いことか。広場一帯だけだ。


『早くしないと死んじゃうよ』


挑発されているようだった。

吹雪を止めるほどの技術は俺には無い。

姿を現すべきではないのは分かっているが、どうせ奴には気づかれているのだ。

変装も気配消しも解き、残っている魔力を凍った地面を溶かすのと、シールドに使うしかない。地面が凍ったままでは巻き込まれた市民は吹雪の風に足をとられ滑ってしまって逃げるのに時間がかかってしまうだろう。


「やっと出てきたね」


シールドの向こうに奴がいる。吹雪で姿はハッキリとは見えない。


「目的は何だ?」


「何だろうねぇ。それより、君、魔力持つかなぁ?」


吹雪いている広場から、1人、また1人と抜け出している気配を感じる。巻き込まれた市民はあと……3人。シールドを延ばして市民の逃げ道を作るしかないか。


「今日、ずっと変装してたんでしょ?お仲間に掛けられてた魔法も解いて、アカデミーに掛けられてた魔法も解いて、私のことを探して、気配消して尾行して。そして浮遊魔法に探知魔法、広範囲に火魔法とシールド?君の魔力量の限界はどのくらいかなぁ?」


試しているのか何なのか。

しかし、そろそろキツイのも事実。ここまで魔力を使ったことは、記憶にはない。


「ルイーズ!フレイヤを連れて広場から出ろ!吹雪はこの広場だけだ!」


「えっ……!レ、レオン様は!?」


背中から久しぶりに聞くフレイヤの声がする。


まだ逃げられていない市民はあと……1人か。


「早く行け!」


「!?フレイヤ!行くぞ!!」


「待って!だって、レオン様を置いてなんて……!」


「駄目だ!邪魔になるだけだ!無理にでも連れて行く!」


「やっ、やだ!ルイーズ、離して!レオン様っ……!───」


フレイヤの叫ぶ声が段々と小さくなる。その内吹雪にかき消されて聞こえなくなった。


「あーあ、なんで逃がしちゃうの?彼女も始まりの魔女の子孫なんでしょ?魔法手伝って貰えば良いじゃない」


フレイヤは戸惑ってしまい判断力が鈍っていた。そんな状態で魔法を使わせる訳にはいかない。


「残念だなぁ。彼女の力を見たかったのに」


「お前の目的が分からないのに見せるわけがないだろう」


気配を探る。フレイヤも広場から出て、市民ももう皆逃げたか……。


「ふふっ!そうなんだ。で、準備は整った?じゃあ、君にこの魔力をぶつけてあげる。耐えられるかなぁ?」


「なにっ!」


ぶつける!?


吹雪が一旦ピタリと止まったかと思ったら、一斉に雪が氷となり俺に向かってくる。


(シールドは持たないか……!シールドに火を纏わせ強化させる魔力は───)



ドゴォォォ──────ン!!!!



(まず、い……意識、が……───)



目の前が霞む。


瞼が閉じる瞬間、青白い光が見えた気がした。



◇◇◇



信じられない光景だった。


ルイーズに無理矢理広場の外に連れられると、知らない男の人が居て、私とルイーズをさらに近くの建物の上に浮遊させて乗せられ、シールドを張った。そしてルイーズには私が動かない様にかガッシリと体を抱え込まれた。


この男の人は……?この人は信用して良い人なの?

さっきのテオドールという人は何なの?

何故こんなことをするの?


建物の上からレオン様を探すけれど、吹雪で見えない。

そう思っていたら吹雪が突然ピタリと止まった。雪が宙に浮いている。微かに隙間から人影が2つ見えた。

あれがレオン様?


見えたのは一瞬で、次の瞬間には雪が一斉に中央に向かっていった。あれは雪なんかじゃない。キラリと光り鋭さがあったから、氷に変化していた。あんなのを全部受けたら……


「レオン様────!」


大きな音が辺りに響き、吹雪だった一帯は煙が上がり、また何も見えなくなる。

この建物の上にも爆風が来たが、シールドが防いでくれた。


何が……起こったの?

レオン様は?レオン様は……?


煙が夕暮れの穏やかな風に流され、徐々に視界が開けていく。

広場の石畳が破壊され、地面や石が割れて隆起しているのが見えた。


「あ……」


不安が襲ってくる。無惨な姿に変わってしまった広場を目の当たりにし、心臓が大きくなり呼吸が苦しくなる。


頭は冷静に考えることも出来ず、私は衝動的にルイーズの腕を振り払い浮遊魔法で飛んでいた。

ルイーズもこの光景に衝撃を浮けて、力が弛んでしまったのだろう。難なく抜け出せてしまった。


「おい!フレイヤ、駄目だ!」


「お嬢様!!」


ルイーズと男の人の声が背に聞こえたけれど無視した。

レオン様のことしか頭に無かった。

無事で居て欲しい。

いつもみたいに、魔法を軽く使いこなして、余裕な顔をして、平気だよって言って欲しい。


地面に降り立って瓦礫の中を探す。


(どこ!?どこに、いるの!?)


レオン様のところへ転移魔法を試みるけれど出来ない。


すると、突然声がした。


『今日はもういいや。またね、フレイヤ嬢。……生きてると良いね』


テオドール……?


周りを見渡しても姿はない。もう消えた?


……ううん、そんなことより、レオン様はどこに……!


石や地面が隆起して瓦礫と化したせいでまともに歩けず、一つ一つの瓦礫を乗り越え確認しながらレオン様の姿を探す。


大きな瓦礫を越えると、黒い布が見えた。

あれは、レオン様のコート!?

急いで近付く。……けれど、そこにいたのは、余裕な顔をしたレオン様じゃない。


とても無事だとは言えない。平気だよって喋ってはくれない。


瓦礫の上に横たわってピクリとも動く気配がない。


「レオン……さま?」


声を掛けても何も応えてくれない。

手を伸ばして私に触れてもくれない。

瞼が閉じられ綺麗な琥珀色の瞳も見られない。


「やだぁ……!起きてっ!起きて───!」


レオン様の手を握るけれど、握り返してくれない。


「やだ───!レオン様───!……」


瓦礫と化した夕暮れの広場で、私の駄々をこねる声が誰にも咎められることなく響いていた。



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