3.琥珀色の輝き
ベルック公爵家から戻って、お父様にエミリオ様からのお手紙を渡した。
お父様は手紙を読み終えると、地球の文化に興味を示して貰えたことが嬉しいのか、嬉々として執務室に向かい、その日はそれ以降お父様の姿を見ることは無かった。
ベルック公爵家からいちじくを沢山頂いたので邸の厨房に渡したところ、市場で買うととても高価なものだったらしく、料理人達が驚いていた。そんな高価なものを袋いっぱいに頂いてしまったのか……。
ベルック公爵邸で食べたパウンドケーキが美味しかったという話をしたら、明日からいちじくの料理を全力で作ってくれると言ってくれた。
楽しみだな。
お父様は夢中になると食事を忘れてしまう人なので、仕方なくお母様と2人で夕食を頂いた。
夕食後に、刺繍を刺して赤くなりじんじんと痛くなってしまった指先に気がついたお母様が、治癒魔法を掛けてくれた。
就寝の準備をしてからお母様に挨拶をして、自室に入った。照明を点けようとして、室内が月明かりに照らされてとても明るいことに気づき、点けること無く窓辺に近寄る。
窓辺のテーブルには、レオン様からお手紙と一緒に届いた花がガラス花瓶に生けてある。
先日頂いたのは黄色のガーベラ。
1年前にも貰ったことがある。
花言葉は確か ≪究極の愛≫……うん、恥ずかしい。
黄色のガーベラは月の明かりに照らされて、光輝いている。レオン様の瞳のよう。
あの瞳に見つめられるとドキドキする。
同じ色の瞳のエミリオ様に今日見つめられたけれど、やっぱり違う。綺麗だとは思うけれど、胸がときめいたり、安心したりはしないのだ。
会いたい。
早く、会いたい。
花言葉じゃない愛の台詞を、会って直接言って欲しい。
私よりも大きな体の筋肉質な腕でぎゅっと抱き締めて欲しい。安心するあの腕の中に居たい。
優しいキスも、強引なキスも、甘く体が痺れるようなキスも、思い出しては切なくなり、して欲しくなる。
いつかのレオン様の言葉を思い出す。
もう、何度も何度も思い出している言葉。
『君が会いたいと思ってくれている時は俺も君に会いたいと思っているよ』
レオン様も私に会いたいと思ってくださっているのだろうか。
転移魔法で会いに行ったらどんな顔をするだろう。
吃驚する?喜んでくださる?……迷惑?
騎士団の研修の決まりとして外部との接触は禁止だから、バレたら入団を取り消されてしまうかもしれない。
……それは、だめ。転移は、だめ。
うん、だめ。
誕生日プレゼントで頂いたイヤリングは、昼間着けていて今はジュエリーケースに仕舞って机の上だ。
『君がこれを着けていてくれたら、会えない時でも、俺は君の側にいられる気がする』
琥珀色と青色の混ざり合った雫型のガラスのイヤリング。2色はいつも一緒に混ざっている。羨ましい。
この同じ夜空の下で、貴方も同じ月を眺めているだろうか。
今ここで、この瞬間、私の側で、一緒に今日の綺麗な月を眺められたら、貴方は何て言ってくれるだろう。
貴方のことを考えながら、台詞を想像して、今日も寂しさを紛らわしている。
『明日も月が綺麗だといいね』
◇◇◇
「フレイヤは騎士団の入団式を見に行くの?」
アカデミーの食堂で、友人とランチ。今日の魚ランチはイワナのオーブン焼き。ふっくらとした白身が美味しい。海水魚も好きだけど、淡水魚も好き。イワナの旬も終わりだ。頑張って産卵をして戻ってきて欲しい。また春まで暫しのお別れ……。
「うん。ベルック公爵家の皆さんと行くよ」
入団式は新隊員の家族や婚約者は見学に行けるのだ。久しぶりにレオン様にお会いできるのでちょっとドキドキもするけれど、入団式がどんなものなのか楽しみだ。
「良いなぁ。きっとエドワード殿下もレオン様も騎士服姿がとても似合っていて素敵なんだろうなぁ」
「私も見てみたい!殿下は絵姿が新聞に載ったりしないかなぁ!レオン様は王宮舞踏会とかで警護している姿を見れたりしないかなぁ!アリーチェ王女殿下の結婚式とか戴冠式とかで護衛するかな!?でも遠目になるだろうな……。フレイヤの結婚式でレオン様騎士服着るかしら!?」
「う~ん……どうなんだろう……」
結婚式のことはまだ日取りくらいしか決まっていない。
それにしても、そうか。騎士団は基本的に王宮にいるから、そうそう出会えないんだな。レオン様ファンの友人にとっては羨ましいのか……。う~ん……。
「アカデミーから王子様が居なくなってしまって目の保養が……」
王子様……。そう言えば昔そんなことを言ってたっけ。
友人はとても残念そうな顔をしている。
王子様とは、本物の王子様のエドワード殿下のことか、もしくは物語の王子様のように格好良いと言っていたレオン様のことか。
「でもこの間の新歓パーティーに参加した時、格好良い方が居たのよ!」
「へぇ」
「反応薄いわね、フレイヤ。まぁ、貴女にはレオン様がいるものね」
まあ、そうだ。正直興味はない。
「新しい王子様?」
「確かにとっても格好良かったんだけど、どこのお家の方なのかが全然分からなくて。お一人で参加されていたしね。初めてお見掛けしたから1年生かしらね。話し掛けられたから少しだけお話ししたけれど、とても紳士的な方だったわ」
「アカデミーでまた見掛けられるんじゃない?王子様に会えるといいね」
何故か友人2人に白い目で見られている。
可笑しなこと言ったかな?
「……何だろう。何だか、凄く適当に言ってない?しかもちょっと上から目線……」
「えっ。そんなつもりは……」
「仕方ないかー!卒業したらレオン様とすぐ結婚だものね!人妻になるんだものね~!あんなに格好良い人が旦那様になるんだものね~!婚約者も恋人もいない私達よりか恋愛の先輩だものね~!」
何かトゲのある言い方ですよ……!
「レオン様にいっぱい愛されて、凄く綺麗になったもんね、フレイヤは。レオン様と出会うまでは恋愛になんて興味なくて魔法のことばっかり考えてたのにぃ」
友人のチクチクが凄く痛いです……!




