2.お役立ち
「良い香りがするな」
「あら、エミリオじゃない。貴方もいちじくのケーキ食べる?」
ティータイムをしていたサロンにエミリオ様がやってきた。今日も美しいレオン様のお兄様です。
マデリン様とエミリオ様とカリナ様は、同じダークブロンドの髪色で、瞳もアンバー。アナベル様の遺伝が強く出ているのでしょうか。この3人が揃うと輝きがとてつもなく眩しくて、目がやられます。
「アンジールのいちじくか?」
「そうよ。今年も沢山収穫出来ているそうで送っていただいたのよ」
「アンジール?ベルック公爵領のいちじくなのですか?」
「そうですよ。アンジールは領内のほぼ中央に位置する町の名前で、いちじくが特産品なんです。品種も沢山あって、一番高級ないちじくは王都でも高値で取引されていて、貴族女性にとても人気なんですよ」
確かに、いつまでも美しくいたい女性からしたら欲しいと思うだろう。何しろ栄養価が高く不老長寿の果実。しかも絶世の美女と言われたアナベル様の家系であるベルック公爵領の特産品。マデリン様やカリナ様の美しさを目の当たりにした貴族女性からしたら、自分も食べて美しくなりたいと思うだろう。
……私もさっき思って、リーズ公爵家の料理人に調理してもらおうとしたしね。
このお二人が自然と広告塔になっているのだから、値も上がれば買い手も数多だろう。
「アンジールは今年も順調だね」
エミリオ様がいちじくのパウンドケーキを食べながら「旨いな、羨ましい」と言っているが、顔が旨いという表情をしていないのは何故なんだろうか。
「エミリオお兄様、結局フルートの町はどうされるのです?」
「……まだ何も」
「ベリーの収穫は?」
「気候が良かったからな。収穫量も良かった。でも、それだけだ」
「フルートの町って、リーズ公爵領の隣の町ですよね?」
「そうですよ。以前一緒にベリーのタルトを食べましたよね!」
そうだ。私が隠れ家の森で変身の練習をしていて、間違ってうり坊をダチョウに変身させてしまった為に、猪とダチョウに追い掛けられた時に逃げ込んでしまったところだ。
懐かしい失敗……。
その時にレオン様に助けてもらったのだ。まだ出会ったばかりの頃にも関わらず、浮遊魔法で飛んだのが怖くて吃驚もして、思わずレオン様の首に抱きついてしまって。
恥ずかしい思い出……。
助けてもらった後、レオン様とカリナ様と一緒にタルトを食べに行ったのだ。凄く美味しかったのを覚えている。
「今度その町に鉄道が通る予定なんです」
「ああ!確か隣接する男爵領の方まで開通する計画でしたよね。あそこは温泉もあって保養地として有名な観光地ですもんね。広い牧草地を自由に乗馬で駆け回れるって聞きました。鉄道が通れば王都から1日で行くことが出来るとも聞きましたよ」
「そうなんです。だから鉄道が通ったらフルートの町に寄る人が減ってしまうだろうって言われているんです。今はちょうど中継地として多くの方が休憩で泊まっていかれるので、宿場町としてもそこそこ栄えているのですが、今後は廃れてしまう可能性があり、何か新しい名物でも考えるようにと、エミリオお兄様に指令が下されまして、何も思い付かずこうしてやさぐれているのです」
「煩いな。カリナも考えてみろよ」
「私はあそこのベリーのタルトが大好きなので、王都でも食べられるようにして頂ければ嬉しいですけど」
「王都で店を出すのはいいが、それだけでは町の集客には繋がらない。あそこの宿場で働いている者達の収益に繋がらなければ」
「エミリオは何事もそつなくこなすけれど、そういうアイディアを出すのはイマイチよね。頭が堅いのよ」
「……悪かったな」
ベルック公爵領はとても豊かな土地で、様々な特産品があるけれど、そればかりではないのだな。ご先祖様がこうして一つ一つ丁寧に対応してきたから、権威だけでなく領地も栄えてきたのだろう。
でも、私もレオン様と結婚をして、いずれ爵位を継いだ時、こういったことを考え解決していかなければならないのだ。
「リーズ公爵領ではどうしてる?」
まさかの私に話を振られました。
「リーズ公爵領は広いので、早くから鉄道を敷いて観光列車にして、雄大な大自然を眺めながら旅を出来るようにしています。山岳の大河の横を通る列車が特に人気で、冬には雪原や雪山を、秋には紅葉を、春夏は新緑や花で彩られた景色で、季節ごとに変わる自然の風景を楽しんで貰い、また車内でも領内の特産品を使った料理を楽しんで貰っています。その為列車内で口にして気に入って頂いた品をお土産に購入される方が多いです」
「ふ~ん……観光列車ねぇ、俺も乗って旅に出たい」
「エミリオお兄様、現実逃避ですか?」
「見識を広めるために……」
「エミリオはどこかで勝手に子どもとか作って帰ってきそうだから不安だわ」
マデリン様のツッコミの内容が凄いです……。
「私もフルートの町のベリーのタルトが大好きです。でもスイーツは短時間の休憩や列車内で召し上がれてしまうので、宿泊者を集客するには向かない特産品ですよね……泊まって貰いたいのなら……食事やお酒、もしくはイベントでしょうか」
「ワインは作っているけれど、ワインも列車で楽しめてしまうだろ?」
「父が地球の文化が好きで、先日父と母がサングリアという果実を入れたワインを飲んでました。酒場で楽しむワインを造ってみてはどうでしょう?」
「サングリア?」
「作り方とかは父に聞かないとよく分からないのですが、ラズベリーとかブラックベリー、カシスとかも入れてたと思います。あまりお酒を飲まない母も美味しいと言って気に入っていたようでした。私はまだお酒が飲めないので、オレンジとラズベリーの入った果実炭酸水を頂きました。とっても美味しかったですよ。冬にはホットで頂くのも美味しいらしいと父は言ってましたけど」
「へぇ……サングリア、ねぇ」
「良いじゃない!私も飲んでみたいわ!」
「私も果実炭酸水飲みたいです!」
「ちなみに、イベントって?」
エミリオ様にじーっと見つめられ、尋問されているような気分です……。
「うっ……観光産業として、お祭りとかでしょうか……?」
「収穫祭とは違うの?」
適当に言ったのに、しっかり追求されています。
適当に言ってごめんなさい。しっかり考えますっ!
「ええっと……王都や別の地域から人を呼び寄せるには、ただ特産品を売って屋台を出すのでは弱いので、そこでしか楽しめない何かをする、とかでしょうか……?」
「何か?」
何かですか!?
何かですよね!?
何だろう!
記憶をフル稼働しなくては……!
……ああ!
「そう言えば!地球の文化に関する書籍で見たことがあるのですが、地球のある地域では色水を投げ合うことで豊穣に感謝して、厄除け祈願をするお祭りがあるそうですよ!」
「は?」
「色水?」
「何故……?」
おお……反応が悪い……。
失敗したようだな……。
「ごめんなさい!ワインとかジュースで色水を想像して、そこから書籍の記憶が突然蘇ったので、思い出したままに口に出してました!忘れてください!!」
よくよく考えれば、王都の貴族が色水を投げ合い、その色水を被り汚れることを進んで行うとは考えにくい……。
「ふ~ん……フレイヤって、面白いね。なるほどね」
「そうね。発想力が豊かだわ。それに知識も豊富なのね」
「い、いえっ!その、魔力暴走を起こしてたのもあって、結構引きこもり体質なものでして、よく本を読んでいたのです……」
エミリオ様が突然立ち上がり、「フレイヤ」と呼び掛けられた。
「リーズ公爵宛に手紙を書くから、持って帰ってくれる?サングリアについてもうちょっと知りたい」
「あ、はっ、はい!」
……えっと、多少はお役に立てたのでしょうか?




