26.幸せな婚約期間
今年の花祭りも終わり、レオン様の卒業が近づいてきていた。
騎士団への入団試験にも無事に合格された。
お父様とお母様も一緒に邸でお祝いのお食事会を開いて、楽しい時間を過ごした。
アカデミーの授業後の魔法レッスンも変わらず行ってくださっている。
私が仮装トーナメント大会の後に自分の成績が情けないと言った為か、もしくは卒業したら出来なくなる為か、しっかりと指導をしてくださる。特に数種類の魔法を同時に使い、集中力を切らさずに魔力を均等に使う訓練だ。
騎士科なのに魔法科並みの指導が出来るレオン様って、やっぱり凄いなぁと思ってしまった。魔法戦に出場しても優勝出来てしまうのでは無いだろうか。
穏やかな日々を送る中、ふと、レオン様に訪ねてみた。
「あの、レオン様はエドワード殿下の想い人が何方かご存じですか?」
「ん?何で急に」
確かに急だったかもしれない。
「仮装トーナメント大会の時に、ルイーズが殿下の想い人が分かったみたいなことを言っていたんです。それ以来殿下をお見掛けする度に観察してみたんですけれど、私には全然分からないんです」
「……大丈夫。そのうちに分かる日が来るよ」
「そうなのですか?」
「それにしても……本当に俺達は似た者同士だな」
「似た者同士?どういう意味ですか?」
でもレオン様はそれ以上は教えてくださらなかった。
私とレオン様、何が似ているのだろう?
魔法技術に関しては圧倒的にレオン様の方が上だし、私と違って見目麗しくおモテになる方だし、似ているところなんて全然ない。
始まりの魔女の直系であるという境遇が似ているというか、同じなだけだと思う。
そんな穏やかな日々の後には学年末の試験が目白押しで、魔法レッスンもお休みして試験勉強に集中した。
そして、試験が無事に終わり、私は3年生へ進級出来ることが決まり、レオン様も卒業が確定した。
そしてとうとう卒業の日がやって来た。
「なんだよ……どういうことだよ」
「あんなに兄ぶってたくせに……」
今日は3年生方の卒業パーティーの日。
婚約者や恋人、またはきょうだいがいる方は、アカデミーの基礎科以上の年齢であればその方をパートナーとして連れて参加出来るので、私もレオン様に連れられて卒業パーティーに参加している。
ショーン様ともう一人のレオン様のご友人の方は婚約者も恋人も居ないそうで、卒業直前に一緒に参加してくれるパートナー探しをしたそうだが、断られたり見つけられずでシングルでの参加だそう。
「結局カリナちゃんは殿下か!?」
「何でだ!騙されていたのか!信じたくない!」
喚いているお二人の視線の先には、周りの視線をも集めているエドワード殿下とカリナ様がいる。
「レオン様!殿下とカリナ様の美男美女が揃っていらっしゃると華やかで素敵ですね!本物のご兄妹みたいに仲良しですし羨ましいです!」
「兄妹……?まだ気づかないのか……?」
「レオン様?どうされました?」
何だか唖然とした表情をしているレオン様。
「何でもないよ」
すぐに優しい微笑みに変わった。
そして今日も相変わらず美しい。今日の衣装は濃紺ベースに青色の刺繍が施されている。それに青色のポケットチーフ。私はちょっと恥ずかしいけれど、こんなにも青を素敵に着こなしてくださって、青色も喜んでいることでしょう……。
私の衣装は琥珀色。今日の為にレオン様が贈ってくださったのだ。ポイントで色が入っているとかじゃない。さりげなく取り入れているとかでもない。がっつりしっかり思いっきり全身で琥珀色。
ドレス自体は本当に素敵なんだけれど、とにかく恥ずかしい。
ショーン様にはハッキリと「独占欲凄いね~」と言われてしまったし。
琥珀色は輝くような美しさで、私の顔の造形では完全に押し負けている。
カリナ様が着た方が琥珀色も喜ぶのではないでしょうか……。
卒業パーティーは夜会とも違い、学生ばかりなのもあって少し気楽に参加出来た。新歓パーティーのように保護者も同伴しない。先生方がいるくらいで、皆さんアカデミーでの思い出話で盛り上がっているようだった。
ダンスも踊る順番なんて気にせず、皆好きな時に踊って、友人同士パートナーを交換したりして楽しそうに踊っている。
でも私はレオン様以外とは踊らせて貰えなかった。ショーン様に誘われたのにレオン様が断ってしまった。
私もダンスは特に進んで踊りたいタイプでも無いので良いのだけれど、ショーン様には申し訳なかったなと思う。
レオン様にも多くの令嬢がアタックしに来たけれど、全部断っていた。卒業の思い出作りに踊りたい令嬢の気持ちも分かるので、レオン様に言ってみた。
「せっかくの卒業パーティーですよ?踊らなくても宜しいのですか?」
「俺が踊っている間にフレイヤが別の男に絡まれでもしたらと思うと、とてもじゃないが踊ってなんかいられない」
そう言って腰を強く引き寄せられ、結局私が何も言えなくなった。
殿下は律儀に誘ってきた全ての令嬢と踊っていたのに。良かったのだろうか……。
カリナ様にも多くの方がダンスの申し込みにやって来て、可能な限り踊っていた。卒業生でもないのに一際目立っていた。
このお二人は皆に素敵な卒業祝いをしていたのかもしれないと思った。
ダンスを踊れないので、食事を楽しもうとレオン様と一緒にいろいろつまんだ。
その結果、お腹がパンパンになった。
何しろドレスなんて着ているのだから、きつくコルセットを締められており大して食べていないのにお腹が苦しくなってしまった。
そしてレオン様に笑われてしまった。
恥ずかしい……。
ダンスも踊れず、食事ももう食べられず、結局ホールから出て広いバルコニーで外の風に当たりながら何でもない会話をして過ごした。
寂しさを隠して、2人で居られる今を楽しみたかった。
◇◇◇
「もうあの2人にもなかなか会えなくなるのかぁ」
「ショーンはそうだな」
「お前は騎士団だもんな。何だかんだ2人がいちゃ付き合ってるのを見られなくなるのも寂しいもんだな」
「あんなに散々ムカつくって言ってたのにか?」
「ムカつくのは羨ましいからだ」
「それは分かる。俺も恋人が欲しいなぁ……こんな風に野郎と2人でいなきゃならないなんて……」
「レオンとフレイヤは結局2人でいるのか?」
「殿下。もうダンスは良いんですか?」
「休憩だ。さすがに疲れた」
「カリナちゃんもおつかれさま」
「ふふっ。ありがとうございます」
「俺も恋人が欲しいなぁと思ってあの2人を見てました」
視線の先には、レオンお兄様とフレイヤ様。
「本当に仲が良いですよね。卒業しても仲の良さは変わらないんじゃないでしょうか」
「羨ましい~」
「いつからかレオンに告白する令嬢が全く居なくなったもんな」
「あんだけフレイヤちゃんしか見てないんじゃな。そりゃ令嬢も悟るってもんだ」
「フレイヤちゃんも綺麗になったし、色っぽいし。何より始まりの魔女の公爵令嬢だ。レオンを横取りなんてする気も無くなるさ」
「2人の結婚式楽しみだな~」
「ショーンは式に呼んで貰えるか怪しいけどな」
「えっ、何で!?」
「…………」
「殿下、どうかされました?」
友人お二人の会話にも加わらず、無言で真剣な顔をして2人を見つめている殿下に違和感を感じて声をかける。
「……そうだな。きっと、一年後には幸せな結婚をしているだろう」
どこか希望を込めて言っているように感じた。
この方には、私達にはまだ分かり得ない何かを感じ取っているのだろうか。




