23.予感
「騎士団の入団試験、合格したわよ。おめでとう」
こんな風に合格を伝えられると思わなかったので、少し身構える。「まだ話がある」と言われたので重要な話なのだろうかと思っていたところのこの通達だ。
「ありがとうございます」
「正式な発表はまだだけれど、貴方には特殊部隊の副隊長に就いてもらうわ」
「特殊部隊!?それは……」
特殊部隊は今現在は存在しない部隊だ。有事の際、特に公にされない様な案件に対応する為に、必要期間だけ配置される部隊。公にされない案件を扱うので部隊の存在すら公にされない。
「エドワードが急遽対応してくれたドルバック伯爵の起こした誘拐事件で、ドルバック伯爵は逃走後、マトフェイの地に身を隠す予定だったそうだ」
「マトフェイの地!?何故彼の地とドルバック伯爵が繋がっているのですか?」
「向こうからドルバック伯爵にコンタクトを取ってきたようだ。ドルバック伯爵がフレイヤのネックレスを奪う為に画策しているのをどこかで見ていたのだろうな。フレイヤの命を奪う条件で、衣食住と魔道具の研究の為の資金や設備を提供すると言われたそうだ」
「フレイヤの命を……ですか」
「ドルバック伯爵はフレイヤの命を奪う条件を、理由も聞かずに承諾している。なのでその目的までは分からない。狙われているのは確かだろうが、それがフレイヤだけなのかどうかもな」
「カリナが貴方の婚約者になれば、王家の影を付けることが出来るようになるわ。フレイヤには残念ながら付けられないけれど」
「……レオンが何よりも優先して護衛しそうですが」
「レオンも騎士団の入団試験をパスしているわ。貴方と同じ特殊部隊に配置される予定よ。レオンは変装が得意だったでしょう?諜報員として動いて貰いたいのよ。だからフレイヤの護衛は無理ね」
「納得しないかもしれませんよ?」
「この特殊部隊は、40年前のことにも関わってくるし、彼の地の者の企みが判明すればフレイヤの命を守ることにも繋がるわ。そうならばレオンは引き受けるんじゃないかしら」
フレイヤの命を盾に脅しているように聞こえてしまうのは何故だろうか。
友人だから過剰に感情移入してしまっているからだろうか。
「ドルバック伯爵は彼の地へは結局一度も行ってはおらず、あの日、指定された港で船が待っている予定だったそうだ。知らされていたのはマトフェイという名だけ。あとコンタクトを取ってきたのが若い金髪の男だったということ」
「それだけでよく信用したものですね」
「母親の境遇も全てお見通しだったようだ。魔道具に関する知識が欲しいとも言われていた。しかし、初めは話に乗る気にはなれなかったところ、フレイヤのネックレスに手を弾かれ、どうにも奪えずそこで決心したとのことだ」
フレイヤに知られてしまえば犯罪者となり、ここでの地位剥奪や研究が途絶えてしまう。だから殺すことにしたということか……。
ドルバック伯爵にとっては、魔道具研究が一番優先される事項なのか。人命よりも。
「エドワードとレオンは入団後他の新人と同様に研修を受けるけれど、その間も特殊部隊には調査をさせる。40年前にも特殊部隊に所属していた隊員もいる。そして隊長には、リアム・グランヴィルを据える」
リアム・グランヴィル。前リーズ公爵、つまりフレイヤの故祖父であるブライアンの元相棒であり、親友だった男。グランヴィル伯爵。
「現リーズ公爵夫妻は40年前のことを知らされていない。リアムから前リーズ公爵であるカミーユに話をすると言っていた。リーズ公爵夫妻への説明やフレイヤの護衛をどうするかは、カミーユ次第になるだろう」
ブライアン亡き後、再婚することなく公爵位を受け継ぎ守ってきたカミーユ。優秀な王宮魔導士だったが、リーズ公爵夫人であるエミリーを産んだ後、その任を辞め、女公爵として現リーズ公爵であるヒューゴに譲るまで立ち続けた。
「また、始まりの魔女の直系が狙われる可能性が出てきた。ローラにも護衛を増やすわ。少し、行動を制限させなければならなくなるのは、あの歳では可哀想だけれど、仕方ないわね。フレイヤとカリナのこと、アカデミーに在籍している間貴方も注意して見てあげて」
「はい」
「まあ、カリナはベルック公爵家が付いてるし、自身も強いからね。エミリオは何か感じ取っているのか、公爵家でも独自に探りを入れているみたいよ。あいつ、勘は鋭いからね」
あいつ呼ばわり……。
相変わらずエミリオのことが嫌いなんだな……。
「今のところドルバック伯爵の件以降、彼の地から何も動きは見られない。またレオンへの諜報に関する訓練は配属後になる。それまでは別の者が潜入調査や情報収集を行う。どこまでの情報が掴めるかはわからないが。また進展があればエドワードに伝える。今日はこれで終いだ。残りの数ヶ月の平和で幸せな学生生活を楽しめ」
「卒業パーティーはカリナをパートナーとして誘うんでしょ?その為に婚約の件をお父様に急かしていたんじゃなくて?もし断られたら私がパートナーになってあげるわよ。貴方には私の時にパートナーになって貰ったからね」
「そうならないようにします」
姉上をエスコートして卒業パーティーに出るなんて嫌だ。絶対に卒業生が恐縮してしまい堅いパーティーになるだろう。生まれ持ったこの女王気質。パーティーの主役の座を奪い、卒業生が楽しめなくなる可能性が高い。
しかも婚約を発表し、数年後には国王だ。これ幸いと近寄ろうとすり寄る者が現れ、つまらない社交場へと変わってしまうだろう。
嫌だ……。
「ああ、あと、レオンにはまだ言うなよ。今はまだ幸せな婚約期間を味あわせてやれ」
卒業したら幸せな婚約期間じゃなくなるということか。
「分かりました」
知らない方が幸せということなのだろう。
そう言えば以前レオンが、アカデミーを卒業したら毎日のように会えなくなるのが寂しいとフレイヤに言われた、というようなことを言っていたな。
父上の話を聞く限り、騎士団の任務で多忙になり、毎日どころか滅多に会えなくなるのでは無いだろうか。
レオンも、恐らく俺も……。
それだけではない。
ブライアンの二の舞にならないようにしなければならない。
それだけは、絶対に。




