22.思惑
王宮────
父上と姉上に呼び出され、国王の執務室までやってきた。警備の者が扉を開け、室内へと入ると2人が既に待っていた。
「エドワード、待ってたよ」
現国王である父はそう言うと、直ぐに侍従に席を外すよう伝え、室内には親子3人だけにされた。
促されるまま姉上の対面に座る。
「エドワード、この間の仮装トーナメント大会は準決勝でルイーズに負けたそうね」
「……ええ」
「ルイーズがそんなに強いとは思わなかったわ」
「卒業後は騎士団への入団を希望しているそうです。姉上の護衛に丁度良いのではないですか?」
「そうね。強い女は大歓迎よ。女性が力を持つと煩い狸が多いから、黙らせられる力のある女性にもっと王宮で働いて欲しいものだわ」
女性国王に対して様々な意見がある。始まりの魔女のエマ様は女性国王であったのに、王宮に侍る者の中には、何故だか良しとしない者がいる。
姉上が国王になれば、そんな者達など無視して今より優秀な女性をどんどん登用していくだろう。
「それで、ご用件は?」
「お前の婚約の件だ」
「貴方、お父様にカリナとの婚約について打診していたのでしょう?婚約には条件があるのよ」
「条件?」
「貴方は臣籍降下をしてから婚約したいらしいけれど、それはまだ認められない。王族の身のままなら婚約を容認できるわ」
「何故です?」
「ローラがまだ9歳で王位継承権が与えられていないから、貴方に抜けられると困るの。与えられるまでまだ5年あるわ。それまで婚約を待てるなら良いけれど」
5年はさすがに長い……。そんなにカリナを待たせるのは無理だろう。
「それと、私の結婚がまだ先になりそうなのよ。彼の教育が完了するまでの目処が立たないの」
「もともと学者でしたよね?とても頭の良い印象でしたが」
「その分野ではとても優秀よ。でも侯爵家の四男で社交場に殆ど出ずにずっと領地で研究に没頭していたような人なのよ。貴族の名前もろくに覚えてなかったからね。政治も全くで、王宮にどんな部署があるのかもまだ覚えられていないわ。だからこそ私の顔もまともに知らず、お見合いパーティーで初めて顔を合わせて一目惚れしてくれたんだもの」
貴族の名前もろくに覚えていないとは、少しレオンに似ているな。
次期国王となる姉上の顔を知らなかったというのも、貴族としてはあり得ないのではないだろうか。
以前ダンスが苦手だと言っており、年末の王宮舞踏会のお披露目で姉上と踊るために猛練習をして何とか切り抜けていた。もともと基礎はしっかりと学んではいたようなので、彼に足りないのは主に経験だったのだろう。そんなにも社交場に出ていなかったのなら踊れなくても納得だな。
教育が遅れているのは聞いていたが、そこまでだったのか。
姉上の「美形に愛されたい」という要求を汲んで決めてしまった婚約者だから、多少のことは目を瞑り、高魔力と侯爵家で高位貴族であることをクリアできているので良しとしていたが、そんな問題があるとは。
「そんな方なのに、よくお見合いパーティーに参加してくれたものですね」
「アナベル様の家系にとってベルック公爵家はかなりの影響力があるのでしょう。無碍に出来なかったんじゃなくて」
そうなのだろうか。今度会ったときに参加するに至った経緯を聞いてみようか。
「出来れば早めに結婚をして、王位を継承する前に子どもを産みたかったけれど、今の進捗状況では無理そうね。王位継承後早々に子どもを産んだら暫くは政務から離れなければならなくなり、復帰しても減らさないと難しいとおばあ様が仰っていたから、その時私の代わりに政務を行える者がいて欲しいのよ」
おばあ様は前国王だ。きっと多くの苦労をしてこられたのだろう。子どもは父上一人だけだ。国王としての政務を行いながらでは、父上を産み育てるので精一杯だったのだろうか。
「それが私ですか?」
「夫となった彼にも勿論頑張って貰うけれど、そこまで任せられないと思うの。だからお父様にも協力はして貰いたいけれど、引退したのに結局直ぐに仕事に戻られるとなると、女性権力者をよく思っていない狸が煩いからね」
「その狸が煩いから私は臣籍降下したいのですが」
「エドワードを次期国王に推している者達は意外と多いからね。公でいくら姉弟仲をよく見せても、その者達には響かない。恐らくだが、臣籍降下を許さないかもしれないぞ。議会の承認が得られないかもしれない」
父上の言う通りかもしれない。本当に面倒臭い。
「子どもを産むことに理解と協力をしてくれたっていいのに。王族の子孫繁栄はどうでも良いのかしら。狸達はそんなに女性を軽視して、何に怯えているのかしらね」
姉上もうんざりしているようだ。
「それで、エドワードがカリナと婚約して妃教育を受けてくれたら、カリナにも手伝ってもらえるかなって思って」
「……カリナを利用するおつもりですか?」
「言い方が悪いわよ、エドワード。私は優秀な人材にはとことん頼って任せる方針なの」
良いように言って俺を納得させようとしているのだろう。全く、この姉上は。
「貴方がカリナに妃教育を受けさせたくない気持ちは分かるわよ。あれは面倒だし大変よね。それに、貴方を国王に推す者達はカリナを利用しようとするでしょう。何しろ、アナベル様の直系魔女。貴方達に子どもが生まれたら高魔力だろうし、そんなサラブレッドを放ってはおかないのは容易に想像できるわ。貴方はそれを危惧しているのでしょう?」
「……ええ」
「でも、それは貴方一人でどうにかしようとしても難しいわよ。一度カリナと話しなさい」
「全部話せと?」
「そうよ。カリナももう子どもではないわ。それに、ベルック公爵夫人にも催促されているでしょう?」
「催促、ですか?」
「あら、貴方気づいてないの?カリナを魔法科に進学させたのは、ベルック公爵夫人よ。文官科に進学すれば妃教育も免除される分野があるんだもの。それを敢えて魔法科に進学させたのは、貴方に早くどうにかしなさいとのメッセージがあったのよ。貴方との婚約が決まってないのに文官科に進学したら、何か嗅ぎとられてしまうだろうしね」
……全然気がつかなかった。
それにしても、カリナに気持ちを伝えた時には既に魔法科に進学していた筈なんだが。
ベルック公爵夫人はとっくの昔に私の気持ちにも王家の事情にも気がついていたということか。
「狸だけでなく、女の狐も怖いのよ?」
狐って……。
「大丈夫だ、エドワード。俺も狐達は苦手だ。狐の遠回しに隠されたメッセージを読み取るのは難しい」
「お父様は昔から散々ベルック公爵夫人にやられていたそうですね」
「マデリンが一番苦手だ。鋭いし容赦ないからな」
きっと色々あったのだろうな。催眠魔法を掛けられたことがあるという話も聞いたし。
「まあ、そういう訳で、カリナの意思も確認しなさい。彼女なら妃教育くらいこなすでしょうし、場合によっては文官科に編入もできるし」
はぁと溜め息をつく。
「分かりました」
レオンからも独りよがりだと言われたしな。カリナを信頼することも大事なのだろう。腹を括ろう。
「それと、まだ話があるの」




