20.剣術戦②
剣術戦の決勝が始まる。
「本当に私と対戦するまで負けずに勝ち残ってくださってありがとうございます」
「俺は優勝する為に勝ち残っただけだ」
「フレイヤの前で負けたくないだけでしょ」
「否定はしない」
お互いに剣を構える。ルイーズの構えを見ておやと思う。剣を中段にし、剣先を俺に突くように向ける。
「今日は霞の構えだな。防御重視か」
「ああ、レオン様はちょっと違う剣術を習ってきたんでしたっけ。殿下と同じ剣術ですよね。これ、霞の構えって言うんですね」
身長に差があるので、上から打ち下ろされた時の力に対抗する為の構えなのだろうか。
俺はいつも通りに正眼に構える。
お互いがピタリと静止し、審判の先生の開始の合図が掛かる。
踏み込み合い、剣がぶつかり合う。
ルイーズは前回の様に俺を測ることもなく、初めから本気のスピードでくる。俺は殿下ほど力は無いのでルイーズを押して下がらせることは出来ず、上手く横に流され回転してしまう。
(なるほど……誘導されてるな)
上段での打ち合いに何だかルイーズに踊らされているような感覚がして、それも癪なので重心を下げ中段を狙いにいく。磁石かと思うくらい全ての剣の動きについてきて受け止める。反射が良い。
突きにも反応して剣で止め、さらりと躱し体を反転して反撃をしてくる。
「強いな」
「楽しそうで光栄です」
「楽しそうに見えるか?」
「うっすら笑ってますよ」
「ルイーズもな」
手合せが楽しいと思うのも久し振りだった。アカデミーに入ってから殿下より強い人と対戦した記憶がない。
騎士団に入れたら、俺より強い人なんてゴロゴロ居そうだけど。
強い人とやるのは勉強になるし、俺ももっと強くなりたいと向上心が湧いてくるから不思議だ。
ルイーズが強く剣を降り、一度俺を跳ね退ける。
ルイーズの呼吸を聞き、そろそろかと思う。
ちょっと申し訳なく思うけれど、こればかりは仕方がない。
脇構えをとり、呼吸を整える。
ルイーズが構え直したのを見て足を踏み込み一気に間合いを詰める。ルイーズが下ろしてきた剣を払い、そのまま肩を突く。突かれたルイーズは勢いのままに後ろに飛ばされ体をズズズッと地面に滑らせ倒れ込んだ。
審判の先生の声が掛かった。
「大丈夫か?」
近付いた俺に気づいて、寝転んだまま顔を向けてきた。
「あー、負けたー」
「あれだけ殿下と打ち合いをした後だからな。疲労が見えてた」
「……それは言い訳になってしまいます。体力が無い私が悪い」
「ルイーズはオリバーのように伯爵領で騎士をするのか?それとも王都の騎士団を希望しているのか?」
「……騎士団」
いつまでも令嬢とは思えないような大の字で寝転んだままのルイーズに手を伸ばす。
「そうか。一緒だな。ならまた対戦できる。もちろん、殿下とも」
「……まだ騎士団への入団は決まってないだろ」
ルイーズが俺の手を取ったので、引っ張り上げ立たせる。
「そうだな」
「……この歓声。レオン様、またファンが増えるんじゃないですか」
そう言われて、歓声や拍手の音が耳に入ってきた。無意識に排除していたようだ。それだけ集中していたってことか。
「どうでもいいよ。フレイヤの前で勝てたから」
「……良かったですね。優勝オメデトウゴザイマス」
とりあえず笑顔を返しておいた。ルイーズは本当に悔しそうだ。でも、きっと来年は優勝するだろう。
◇◇◇
レオン様とルイーズの試合を観ていて、ハラハラしっぱなしだった。胸の前で組んだ手は力が入りすぎてしまい、ほどいたら小刻みに震えていた。
試合が終わって競技場の周りで観戦していた人達から歓声と拍手が沸き起こり、レオン様がルイーズに手を貸して立ち上がらせた時は、令嬢達の悲鳴が凄かった。
あそこにいる方が、まるで別人に見えた。
決勝の前までは格好良いなとか、凄いなとか思って見てたのに、何故だか急に知らない人に見えてしまった。
ルイーズと話しているレオン様は、少し楽しそう。令嬢に対しては本当にクールな人なのに。
そしてルイーズも砕けた表情をしていた。もともと美人な顔立ちで、他の令嬢と明るく会話するタイプではなく、レオン様と同じくクールでサバサバとしているのできつい印象を与えることが多い。あんな柔和な顔は殆ど見たことがなかった。
競技場から下りてきて、ご友人達に手荒に迎えられている。「おめでとう」とかに混じって「またお前の優勝でつまらない」とか「女性にあんな突き喰らわすなよ」とか言われている。肩を叩かれたり、首に巻き付いたり、親しげな態度のご友人に対して淡々とした表情。
それを眺めていた私に気づいて、ぱっと優しげな笑顔を向けてくださり、側に近寄ってきてくれる。
「おっ、おめでとうございますっ」
何故か落ち着かず、慌ててお祝いの言葉を言った。
「ありがとう」
今日も美しい微笑みで返してくださりながら、私の頬にそっと触れる。
アカデミーではあまり触れ合いをしないし、こんな大勢いる人前で触れられ吃驚して、ビクッと肩を大きく跳ねてしまった。
それだけが理由では無いかもしれない。
別人に見えてしまっているからかもしれない。
私が肩を跳ねてしまったせいか、レオン様の手が止まる。
「……嫌、だった?」
笑顔が一転、不安げな表情になってしまった。
「いえ、あの……えっと……」
「レオンが女性に対しても容赦ないのを見て怖くなったんじゃない?」
ショーン様の言葉にレオン様が固まった。それはもうビシッという効果音の幻聴が聞こえてくる程に。完全なる無表情になった。
「えっ、えっ、ショーン様!?違いますよ!」
怖い!?
私は吃驚したからで……
別人に見えたのは……怖かったからなの!?
違うと思うけど……ああ!自分がよく分からない!
そうなの!?
今冷静に自分の感情を分析できない!!!
頭がパニックになっている!
とにかくレオン様とショーン様の間でオロオロとしてしまう。
「ショーン……本戦に出られなかった腹いせか」
「そうです」
「剣術で勝負はしないんだな」
「相手の弱点をつくのは基本ですからね。何においても」
「そうだとしても、フレイヤ様を巻き添えにするのは可哀想ではありませんか?」
「……フレイヤちゃん、ごめんね」
「余計にレオンに恨まれるだけじゃないか?」
「よし、今のうちに逃げよう」
「逃げるんだ……」
「もう終わったからな。皆、良い週末を!また来週!」
そう言ってショーン様はさっさと去っていった。
……固まってしまったレオン様はどうしたら良いんですか!?




