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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第1部
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8.花祭り

「レオンお兄様ー!花祭りに行きましょう!」


休日は朝食後、いつも庭で打ち込みをするのだが、平気で邪魔をしてくるのがこの妹だ。


「……まだ終わってないんだけど」


「大丈夫!お兄様は強いから1日やらなくても平気よ。心配なら明日倍量やれば良いでしょ?花祭りは今日1日だけなのよ!逃したら次は来年なのよ!さあ行くわよ!」


妹の迫力に負けて後退れば、持っていた木剣を簡単に取り上げられ、ズルズルと引き摺られながら強引に外出の準備をさせられた。

始まりの魔女アナベルの家系であるこの家は、女性がとにかく強い。なので妹のカリナに勝とうとも思わない俺は、大した抵抗もせず花祭りへと連れていかれた。




「噴水広場の屋台で何か食べて、メイン大通りのお店で花冠を買って、午後は今日だけ開放される王宮庭園を観に行きましょう!今年も黄色のモッコウバラのトンネルをくぐりたいわ!」


妹の中では今日の予定がしっかりと決まっているようだ。デートコースを考えろと言われるよりずっと良いけれど、妹の言いなりなのも兄としてちょっと情けない。

しかし、結局は妹に連れられるまま、まず噴水広場にやって来た。


噴水の回りの花壇には色とりどりのチューリップが植えられていて、広場の回りに建っている家の窓辺には、赤やピンクのゼラニウムが飾られるように植えられている。道の脇の花壇にも、小さな花をいっぱいにつけたビオラが、春の暖かな風を受けて花びらをチラチラと揺らしている。

そんな鮮やかな春の景色に、素直に綺麗だなと思った。


「レオンお兄様!あのパンにハムが沢山挟んであるやつ、チーズがとろけてて美味しそうよ!ミートパイの屋台は人が沢山並んでいるわ!きっと評判が良くて美味しいのね!焼き立ての香りの誘惑が凄いもの!あのスコーンも食べたいわ!イチゴのジャムか、マーマレードのジャムか、ブルーベリーのジャムか……どのジャムにしようか迷うわ~!」


妹は春の景色より、食べ物に夢中のようだ。

花より団子ってやつだな。


いろいろ食べたいけど食べきれないから、少しずつ食べて残りは俺に消費して貰うために連れてこられたということくらい、毎年のことなので分かっている。


妹の食べたいものを買って、空いたベンチに座って食べているのだが、その様子を回りの人がチラチラと見てくる。


「きゃー!レオン様よ!」


「カリナ様は今日も可愛いわ!」


遠くから聞こえてくる声。

変装でもすれば良かったなと後悔する。

直接的に話し掛けてこないだけ良いかもしれないけど。


授業中であれば集中して気にならなくなるのだが、ここでは無理だ。見られて居心地が悪い。


妹の選んだハムチーズサンドも、ミートパイも、スコーンも全部が美味しいけれど、チラチラと見られて落ち着かない。

でも隣の妹は気にしていない様子。目立つことに抵抗がないのだろう。

俺が隣にいれば、変に近付いてくる輩もいないからと、安心していられるのもあるのだろうか。


買ってきた食べ物を平らげて、「じゃあ、次は花冠ね!」と言って立ち上がり、妹に引っ張られメイン大通りへと歩き始める。

人混みに紛れてしまえば多少は人の目が遮られ、気にならなくなった。


人混みの中を歩きながら、魔法で髪の色を黒からイエローブラウンに変え、帽子を被り、伊達眼鏡もかけることにした。


「あら。いつの間にか、さりげなく変装してるじゃない」


「カリナといると目立ってチラチラ見られるから」


「私は変装しないわよ?せっかく髪を綺麗に結ってきたんだもの。髪色は変えたくないし、眼鏡もイヤ。髪型が崩れる帽子も被りたくないし、そもそも頭には花冠を飾りたいんだから」


相変わらずハッキリした妹だ。



メイン大通りには沢山の花屋の屋台が出ている。春の花のブーケや鉢植えも並んで売られている。

妹は毎年花冠を買って、1日頭に乗せて楽しんでいる。妖精になった気分になれるらしい。


いろんなお店を見て、小ぶりのピンク色や白色の花で作られた花冠に決めたようだ。ミニバラの様な花だけど、何という名前の花かは俺には分からない。


まだ雑貨やスイーツの屋台を見たいと言うので、メイン大通りをさらに進んで行く。


すると、子ども達が集まって騒いでいる声が聞こえてきた。


「あそこ、何かしら?」


「屋台じゃないみたいだね」


気になって近付いてみると、屋台ではなく、馬車のようだった。そしてその馬車から様々な花が溢れ出ていた。しかも花は止まることなくポンポンポンと生み出されては、馬車からもさもさと、どんどんはみ出てきている。

その波のような花を子ども達が掬っては上に投げて、花吹雪のように舞い上がらせ、楽しげに遊んでいる。


「魔法で花を出してるみたいだね」


「綺麗ね~!籠盛りの花ならぬ、馬車盛りの花ね!素敵!」


でも花はずっと馬車からもさもさと出続けており、いつ止まるのだろうかと、少し心配になる。


「たっ……たす、け……」


ん?


「今、声聞こえなかった?」


「たすけてって、聞こえた気がしたわ……」


妹と顔を見合わせて確認する。その声は妹にも聞こえていたようで、空耳ではないようだ。

慌てて馬車に近寄ってみると、御者も声が聞こえたのか慌てて「お嬢様ー!」と言って花を掻き分けている。


「中に人が居るんですか!?」


「居ます!」


御者に確認するとやはり馬車の中に人が居て、花に埋もれてしまっているようだ。


「大丈夫ですかー!?」


「い…いき、が……くる、し、い……」


声を掛けると返答があり、花の隙間から、白く細い指の小刻みに震える手が出ていた。その様はちょっとホラーだ……。


とりあえず魔法を解除させる呪文を唱える。花が生産されるのは止まったが、埋もれている人を助け出すために、馬車の中の花を窓から掻き出した。


何とか息が出来るくらいには花を掻き出すことができたが、お嬢様と呼ばれているその女性はゼーゼーと激しく呼吸している。顔には汗のせいか花が所々くっついていて、髪も乱れて、馬車の中も暗く、顔はよく分からない。


「すみませんっ…はぁ、ありがとう、ございますっ…はぁはぁ…」


「いえ……。それにしても、凄い魔法ですね」


「あああああ!もう、恥ずかしい!」


女性は両手で顔を覆ってしまった。乱れた前髪の隙間から、おでこが赤くなっているのが見えた。恥ずかしさで顔が赤くなったのかもしれない。


しかし、この声は……


「お兄様!レディが恥ずかしがっています!馬車から離れてください!」


妹に体をぐいっと後ろに引っ張られ、馬車から離されてしまった。


「顔に花が付いてしまって、髪型も服装も乱れてしまっているのに、男性がじろじろと見るものではありませんわ!」


助けただけなのに……。



「一体何があったんですか?」


女性の呼吸が落ち着いてから、妹が事情を聞き始めた。


「あの……子ども達に喜んでもらおうと、お花を魔法で出して見せてあげたら、止まらなくなってしまって……」


「まぁ……」


「危うく花で窒息するところでした。助けて頂いてありがとうございました!」


自分で出した花で窒息しかけたら、それは恥ずかしいだろうな……。


「あの…!何かお礼をさせてください!」


「お礼はこのお花でいいかな」


魔法をかけて花を妹のワンピースに飾ってやった。


「わっ!お花のワンピース!可愛いー!お花の妖精みたい!お兄様ありがとう!」


妹の好みは散々付き合わされているので分かっている。思った通り喜んでいる。


「す…すごい……」


「お礼はこの通り素敵なお花を受け取りましたので、気にせずお帰りになってくださいね。ここは人通りも多いので、そのお姿を晒してしまいますわ」


「お気遣いありがとうございます!」


そう言うと、馬車は走り出した。まだ馬車の中には沢山の花を残している為に、馬車が揺れる度に花をポロポロとこぼれ落としながら、去っていった。


それをクスリと笑いながら見送った。


あの声は馬の子だろう。

子どもを楽しませてあげたいという優しさと、また魔法で失敗してしまった間抜けさと、それを恥ずかしがっていた様子に、俺は思わず笑ってしまったのだった。


「……相変わらず、面白い子だな」


「お兄様、知ってるご令嬢なの?」


「まあ、たぶんだけどね」


「お兄様にしては、珍しい反応ね」


暫く妹に俺の様子をじっと見られていたようだが、花をこぼしながら走り去る馬車が面白くて、気にせず馬車が見えなくなるまで眺めていた。



◇◇◇



「またやってしまった……」


自分で出した花で窒息しかけるとか、ほんと恥ずかしいし、情けない。


馬車の中はまだ花が沢山乗っている。失敗したが皮肉にもとっても良い香りがする。


(さっきの人……猪さんに似ていたわ)


私の魔法を簡単に解除して、花をワンピースに纏わす繊細な魔法の技術。それになにより、あの声。


(でも……友人から教えてもらったレオン様とは別人だったわ)


馬車の中からなので逆光でよく見えなかったけれど、ちらりと見えたお姿は、イエロー系の色の髪に眼鏡をかけていた。レオン様という人は黒髪だったはず。


(こんなみっともない姿で無ければ、どこのどなたか聞いて、あの魔法技術についてもお話しを聞きたかった……)


自分の情けなさに、溜め息が止まらない。


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