13.懸念
魔法レッスンが終わってレオン様をお見送りしたところに、入れ違いにお父様とお母様が乗った馬車が帰ってきた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま、フレイヤ。レオンが来てたのか?」
「はい。先程帰られました」
「まあ、仲良しね」
お母様はニコニコととても嬉しそうにする。からかわれてる……?
「もう暫くしたらアカデミーを卒業してしまうものね。そうしたら今程は会えなくなるのだから、2人の時間を大切にね」
「卒業……」
そう言えば、そうだ。
レオン様が卒業されたら、アカデミーの授業後に魔法レッスンをしてもらうことも無くなるんだ。
アカデミーで偶然会うことも、一緒に帰ることも無くなるんだ。
当たり前になっていたこの日常は、あと数ヶ月で終わりなんだ。
何故そんなことにも気づかなかったのだろう。
真っ直ぐに愛を伝えてくださり、それに甘え、溺れて、私は浮かれていたのだろうか。
お母様の言葉で、急に胸の奥に何かが現れた。
これは何と言うモノだろう。
◇◇◇
ベルック公爵邸────
「エミリオお兄様。仮装トーナメント大会ってどんな感じなのですか?」
邸のリビングで魔法書を読んで魔法戦のイメージトレーニングをしていたら、エミリオお兄様がリビングに姿を現したので、捕まえて教えを乞う。
「ああ。カリナは初めてか」
「そうなのです。やっぱり始まりの魔女の直系としては易々と負けるわけにはいきませんし、プライドもあります。何しろ、エミリオお兄様は3年間優勝を譲りませんでしたし、レオンお兄様も昨年は優勝されましたし、お二人と比べられて下に見られたくありませんので!」
優秀な兄を持つとこういう時、変にプレッシャーを受けてしまう。特に公衆の面前でハッキリと順位が出てしまう仮装トーナメント大会は、その後の見られ方や評価に繋がり、まぁつまり、噂の対象となるのだ。
始まりの魔女の直系の、しかも魔女の私は無様な試合をする訳にはいかない。
フレイヤ様がレオンお兄様から魔法レッスンをしてもらい、苦手とする魔力コントロールを克服し着実に力を付けていっているのも知っている。それが始まりの魔女の直系子孫であるプレッシャーからなのも。
私だってそのプレッシャーを幼い頃から感じて努力を絶えずしてきたのだから。
「仮装トーナメント大会は名前の通り、対戦中仮装を解いてはいけないから、常に集中しなければいけない。そして予選で勝ち残った者が本戦トーナメントに出られるので、自身の魔力量の残量を考慮しながら戦う必要がある。そこまでは分かっているだろう?」
「ええ」
「本戦のトーナメントに出てくる者はだいたい毎年一緒だ。昨年本戦に出た者の傾向を調べるのと、1年は何となく力のある者は誰か基礎科の頃から一緒に学んできて分かるだろうから、それぞれ対策を練ることだな」
昨年の情報を何処かで仕入れてこなくては。レオンお兄様は魔法戦も全部見てたかしら?
「フレイヤ様は昨年予選で敗退されたそうです。でも今年は勝ち残ってくると思われますわ。そういったデータの分からない者や急成長された者への対応はどうされるのです?」
「予選をよく観察することだな。余力を充分に残しながら戦っている者が誰かは見ていれば分かる。それに、咄嗟の時に出す魔法は使い慣れている魔法のことが多い。何を得意としていて何を苦手としているのかを見極めることだ」
「なるほど、得意と苦手」
「お前は苦手なんて無いだろ?」
「魔法に関しては苦手意識のある魔法は無いです」
「お前は結構大胆に魔法を使うところがあるから、高魔力に胡座をかいて無駄に魔力を消費しないようにすれば問題ないだろ」
その通りだ。使うべき時は躊躇わず大胆に使い、流すときは魔力も体力も残していかなくては。そこの判断が大事なのだろう。魔法戦の実戦経験が少なく、判断力が弱いかもしれない。
友人と一緒に模擬戦をしてみようかしら。
本当はエミリオお兄様に相手になって欲しいけれど、アカデミーの魔法レッスン場でないとな……この邸の庭でやったら色々と破壊してしまいそう。
レオンお兄様はきっとフレイヤ様に付きっきりで私の相手なんてしてくれないだろうし。
「仮装はどんなのが良いのでしょう?」
「風に煽られにくい服装とか、動きやすい格好じゃないか。レオンは昨年猪だったんだろ?獣の身体強化が図れた上に、視界も広がって意外と良かったんじゃないか」
「……猪は、嫌」
「じゃあ、体にピッタリとしていて更に布地の少ない格好にすれば?魔法を使わなくても馬鹿な男なら勝手に鼻血出して倒れてくれるんじゃないか」
「……ふざけてます?」
「そんな戦い方も見てみたいし、あってもいいかと思ったんだけど。真面目に」
「内容は真面目に聞こえませんよ!」
何故この人は淡々とした調子と顔で不真面目なことを言えるんだろう。
「でもお前はあんまり胸無いから悩殺出来ないか」
「酷い!結構気にしているのに!」
思わず両手で胸を押さえる。
「胸はフレイヤの方が大きいな」
「弟の婚約者のどこを見てるんですか!」
「胸だ」
「いやらしい!!レオンお兄様に刺されますよ!」
「男はだいたい皆こうだ。エドワード殿下もそうだろ。殿下はむっつりス────」
「それ以上言わないで!!!」
手にしていた分厚い魔法書を、思わずエミリオお兄様の顔にヒットさせてしまった。
バンッとなかなかの音と感触。
シールドを張られたり避けられたりすることが多いのに、今日は見事に入った。
私も速くなったものだ。
「……それが教えてやった兄に対する礼か?」
魔法書をエミリオお兄様から離せば、顔が赤くなっていた。綺麗な鼻筋が潰れてしまったかしら。
「教えてくださったことは感謝しますけれど、最後はエミリオお兄様が悪いのです!」
「あら。今日も賑やかね。凄い音がしたけど……エミリオが悪そうね」
「……おい」
「お母様!」
リビングに現れたお母様に思わず抱きつく。すると顔がお母様の胸にはまり、思わず溜め息をついてしまう。
「まあ、カリナったら溜め息なんかついてどうしたの?不安なことでもあるの?」
お母様の腕の中で頭を撫でてもらいながら、目の前の豊かなものが羨ましく感じる。
「どうしたらお母様みたいに胸が大きくなりますか?」
「……貴女の今一番の懸念事項は、それ?」




