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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第3部
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12.綺麗な夕日

翌日、浮遊魔法の練習の為隠れ家の森に来ていた。体を浮かす訓練だ。


しかし、昨日私がレオン様の頬にキスをしたという事実は、なかなかに恥ずかしく、ちょっと後悔している。

ショーン様直伝の失言で恥をかき、なんとか乗り越えようとしていたところに、ちょっと仕返ししたい気持ちがムクムクしてしまったが為に更に恥を重ねる結果となってしまった。


今日、アカデミーから我が邸まで一緒の馬車に乗っている間も、レオン様はニコニコと私を膝の上に乗せ「いつかな~キスまだかな~」とからかわれた。

恥ずかしくて両手で隠した顔をレオン様の肩に埋めるしかなく、「可愛い」と連呼されながら赤くなった耳にキスをされるという、何の修行かと思うような恥の苦行に耐えねばならなかった。


こんな状態で魔法に集中出来るのかと不安に思っていたけれど、隠れ家に到着して森に出れば、レオン様もさすがの切り替えの上手さで、すっかり講師然とされていた。



「じゃあ始めようか。先ずは浮揚から」


レオン様はお手本でスッと1メートルくらいの高さで浮いた。何とも自然に苦もなく浮くので、やっぱり凄いなと思ってしまう。


私は深呼吸をして集中する。

魔力を流して少しずつ空中に浮き上がる。体のバランスが上手く取れずぐらぐらとしてしまい、魔力のコントロールも疎かになってしまう。少し浮いては落ちて足が着いてしまう。


……私、下手になった?


いやいや、もう一度集中し直そう!


足を地に戻してさっきより大きく深呼吸をする。そして魔力を再び流していく。足が地面から離れると、やはり体がぐらついてしまう。また足が地に着きそうになる寸前で、レオン様が私の手を取ってくださった。


「怖がらないで体の力を抜いて」


レオン様に支えられながら徐々に地面から離れ、何とか1メートルの高さまで浮かぶことが出来た。


「すみません!下手になってました……」


さらなる恥の上書き。しかも出来ると思っていた魔法が出来ないのは、恥よりショックの方が大きいかもしれない。現実を直視したくないからか本能で目を瞑ってしまった。


「多分だけど、背が伸びたりして感覚が変わり、体を上手く支えられずにバランスを崩してしまったんじゃないかな」


苦手だからと使わないでいると、下手になってしまう魔法もあるんだな……。気をつけよう。

以前浮遊魔法をしたのは基礎科の頃だったかもしれない。背が伸びて体重も増えたのだろうなと思う。気を遣ってかハッキリと体重が増えたとは言わないレオン様は優しいな。

でもちょっと体がむちっとしてきた自覚はある。


「……もしかして、太った……?」


ぼそりと自分に向けて言った言葉だった。でもすぐ側にいるレオン様にはちゃんと聞こえてしまっていた。


「フレイヤは華奢でしょ?女性らしい体つきになっただけではないかな」


女性らしい体つきかぁ。

そう言えば胸は大きくなったかな。


そんなことを考えながら、レオン様が支えてくださっている手とは反対の手で思わず胸を押さえた。


「そうかも……」


なんて納得してレオン様の顔を見上げれば、少し顔を赤らめて顔を反らしていた。



…………はっ!

レオン様を動揺させるのは、この手だったのか!


いやっ!さすがにこれは私も恥ずかしいから無理だけど!!


ちょっとの間だけ、浮揚しながら手を繋ぎ、お互いに顔を赤くして無言になってしまったのは仕方がないと思う。



────気を取り直して。


「手を離すから、一人でバランスをとって浮揚し続けて、その感覚を覚えて」


「はい」


手が離れ、支えが無くなると体がぐらつきそうになる。背筋を伸ばして手足の力を抜く。空中にふわりと漂うイメージをしてバランスをとる。


「いいよ、ちゃんと出来てる」


褒めてもらえてホッとする。なんとか浮揚をキープし続けられた。


「OK!一度着地して」


少しずつ魔力を減らし、静かに降り立つ。


「今度は一人で浮いてみて」


「はい!」


深呼吸をして、魔力を徐々に流していく。地面から足が離れて、今度はぐらつかずに浮くことが出来た。


「浮揚はクリアだね。じゃあ次は浮遊だね。昨日の蝶を飛ばす魔法と殆ど変わらないから、流す魔力量の調整と空中での自身の体のバランス感覚を意識してね」


「はい」


「早速あの木の枝に乗ってみよう。ついてきてね」


言うなりボールを投げたように木の枝まで綺麗な曲線の軌道で飛んで行く。

この方は容姿の美しさだけでなく、魔法まで美しい。


今見せてもらったイメージを頭に浮かべ、風魔法を起こす。スカートがふわりと揺れるけれど、なかなか飛ばない。流す魔力を徐々に増やし、それに伴い体が上へと昇っていく。

次第にスピードが上がり、レオン様と同じ様に木に向かって飛んで行く。


でも木の枝の手前まで来て体が風に乗り過ぎて止まれないことに気づく。このままでは木の枝が入り組んだところに突入してしまう……!


「きゃっ……!」


「危ない!」


思わず目を閉じてしまった私の体を、レオン様が引き寄せてくださり、何とか突入は回避できた。

枝が入り組んだところに入ってしまったら、あちこち切り傷を作ってしまうところだっただろう。


「着地するときはより魔力のコントロールが必要になるから気をつけてね」


「はい。すみません」


枝の上のレオン様の隣に体を下ろしてもらった。


「蝶よりも自身の体の方が体積がある分推進力も上がるから、止まる為にはかなり手前から魔力を減らすか、もしくは抵抗力や摩擦力を利用する魔法を使うかしてコントロールしないと」


「はい」


ふうっと一息つく。

やはり浮遊魔法は私にとって難しい。風魔法の魔力コントロールが繊細に出来ない。


「……私は風魔法との相性が悪いのでしょうか。風魔法は他の魔法に比べ特にコントロールが難しく感じます」


「むしろ逆じゃないだろうか」


「逆?」


どういうことだろうとレオン様を見上げる。


「昨年の仮装トーナメント大会での竜巻の規模は学生で生み出せるレベルとは思えなかったし、魔力膨張を起こした時も体を纏っていたのは風魔法だった。だから資質として風魔法の相性が良いと思うけど。コントロールが難しいのは、高度なレベルまで魔力を使えてしまい上限が他魔法より高い為なのかもしれない」


「上限が高い……」


なるほど。そういうこともあるのか。


「まあ、俺の推測でしかないけど。風魔法のコントロールが上手く出来るようになれば、風魔法は一番の武器になるんじゃないかな」


私の耳元の髪を撫でるように触れ、優しい笑顔で見つめ返してくださる。思い通りに出来ず軽く弱音を吐いてしまい、気落ちしかけていた私を慰めてくださっているようだ。


……ぬるま湯だ。

ダメだ。優しいレオン様に甘えてばかりいてはダメだ。


「もう一度、やります!」


真剣な目で訴えれば、くすりと笑って私から手を離す。


「今度はここから隠れ家の屋根まで飛んでみようか」


トンと枝を軽く蹴って、これまた10メートル程離れた屋根まで綺麗な放物線を描きながら飛んで行く。そして音も立てずに軽く着地する。


昨日、レオン様に言った「貴方に追いつきたい」という言葉を思い出す。追い掛けても全然追いつけない。貴方の隣に立つのに恥ずかしくないように、絶えず努力をしないとと思うのに、つい優しさに甘えてしまう。いつも気に掛けて振り向いては私を支えてくださるけれど、本当は手の届かない遠くまで簡単に行ってしまえる人なのだ。遥か遠くまで行けるのに、私の為に行かないで待っていてくださる。これは足手まといと言うのではないか……。


考え事はダメだ。魔法に集中しなければ。


深呼吸をしてから風魔法を体に纏い、枝を蹴って飛ぶ。地面に落下しないように、少し手前から魔力を減らして、重力を感じながら屋根に向かって降りていく。枝から屋根まで距離はあるが、枝の上より屋根の方が着地面積が広いので、降りやすいかもしれない。屋根にぶつからないように速度に気をつけなければ。推進力を抑えるために正面から風の抵抗を生み出す。

足が屋根について、勢いを殺しきれずに着地後数歩前に歩いてしまった。


「さっきよりコントロールが良かったね」


「まだまだですけど」


もっと練習しないと。対戦中はこんなに浮遊魔法の為に意識を集中させる訳にはいかないだろう。イメージのままに自然と飛べるようにならなければ、攻撃を躱すのも間に合わない。


まだ魔力も残っているし、可能な限り浮遊の練習をしようかと飛び移るのに丁度良い木はないかと考えていたら、レオン様に腰を掴まれた。


「顔を上げて」


言われてレオン様を見上げると、レオン様は真っ直ぐ正面を向いていた。その横顔は茜色に染められており、視線を倣うと、その先には夕日が見えていた。


「わっ……」


息を呑むような美しい夕日だった。


「綺麗だな……」


魔法に夢中で全然気がつかなかった。

綺麗な夕日。でもそれはもうじき日が暮れるということ。


「……昔、おばあ様がおじい様に『夕日が綺麗だね』と言われたことがあるって、教えてもらったことがあります」


「カミーユおばあ様?」


「はい。愛の言葉だったそうですよ」


「愛の言葉なの?」


「そうみたいです。おじい様は騎士でしたがとても文学的で愛情に溢れている方だったそうです」


私が生まれるよりも前に亡くなったらしい、ブライアンおじい様。


「カミーユおばあ様は何て答えたの?」


「『きっと月も綺麗ですね』と答えたそうですよ」


「月?」


「その時は私も子どもでしたし意味を教えてくださらなかったので分からなかったのですが……」


今なら何となく分かる。月は夜にならないと綺麗に見られない。


「もし、俺が同じ言葉をフレイヤに言ったら、君は何て答える?」


腰を抱かれたまま、すぐ隣の温もりを感じドキドキする。


そんなこと聞くなんて……


「明日も……夕日が綺麗だと良いですね」


腰を抱く手が強くなって引き寄せられる。

気持ちが伝わったんだろうと分かった気がした。



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