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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第3部
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10.儘ならない

今日は座学の授業なので騎士科の教室にいた。

まだ2月で外の空気は冷たく寒いが、大きな窓からは春を感じさせる温かな日差しが差し込み、教室内を明るくしている。


そんな教室とは正反対に、俺の心は冷えていた。いや、外の空気と同じで寒いと言った方が的確かもしれない。だって冷たい風が吹いているのだから。

理由は言わずもがな。



「それでレオンは正気をなくして凹んでる訳か」


「俺のせいって、酷くないっすか!?」


「いや、お前のせいだろ」


「いや、でも、婚約者じゃないっすか。別に良いんじゃないかと思うんですけど?18歳で成人したんだし、何の問題も無いじゃないっすか!?」


「まあ、確かに今時結婚に処女性を重視するっていうのも珍しいかもな」


「王家は駄目だけどな」


「王家はもし万が一、別の男の子どもを身籠ったまま結婚し、王家の血を全く継いでない者が混ざることを問題とするからですよね?それは分かるんですけど、別にレオンもフレイヤちゃんもただの貴族ですよ?」


「ま、伝統ある公爵家同士だしな。それにフレイヤはアカデミー卒業までまだ1年以上あるから、妊娠して卒業出来なくなることを懸念しているのかもな」


「あー……そう……レオン、喜ぶと思ったのにな」



当人そっちのけで好き勝手に話されている。


机にだらしなく両腕を伸ばして突っ伏している。首を窓の方に向ければ、青空が見える。綺麗な青。外の光の中にいるときのフレイヤの瞳の色とよく似ている。


君に拒絶されたら、生きていけない。


照れている顔も可愛いけれど、俺のそばで青い瞳を細めて笑っていて欲しい。



◇◇◇



あまり集中出来なかった授業が終わり、いつものレオン様との魔法レッスンの時間。レッスン場の前まで来て、多分、30分くらい立ち尽くしている。何人も横を通り過ぎて行った。恐らく通行人の邪魔をしてしまっているだろう。



行かなきゃ。待たせているかもしれない。


会ったら絶対に恥ずかしくて顔を見られない。


もうじき仮装トーナメント大会もあるから、しっかりレッスンしなきゃ。


でも、今もうすでに顔が熱いから絶対に赤くなっている。



はぁ、と溜め息を何度も繰り返す。

逃げようとしてしまう自分にも嫌気がさすけど、足が動かないのだ。


ここまでは来れたのに、1歩が踏み出ない。


(ダメダメ!いつも逃げるのは私の悪いところだ!)


手足が震えるけれど、何とかレッスン場に入る。レオン様と約束している、いつもの個室へ向かう。

ノロノロと震える手を扉の取っ手に伸ばして、いつもは重たくなんて無いのに、重たく感じる扉をカチャリと開けてソロソロと開く。足も重くて床に引っ付いているんじゃないかってくらいだけれど、何とか床から足を上げて1歩入ると、すぐに抱き寄せられ扉が閉まった。


「っ……レオン……さま?」


正直目の前は服で顔が見えないから、抱き締めているのがレオン様かどうかなんて分からない。

それでもいつもの爽やかな香りがして、そうかなと思って声を掛けてみる。


「……良かった。来てくれて、良かった。もう、ここに来てくれなかったら、どうしようって思ってた」


そんなこと無いですって否定してあげたいのに、さっきまで逃げたい気持ちもあったのは事実なので、何も言えない。

ただ成されるがままに、抱き締められていることにした。

何も言えない代わりに両手をソロリとレオン様の背中に回した。そうしたら抱き締める腕の力がギュッと少し強くなった。


個室に入った瞬間に抱き締められたってことは、扉の直ぐ目の前で私が来るのを待っていたのだろうか。


強い腕の力に負けずに顔を上げれば、そんな私に気づいて視線を合わせてくださる。どこか不安そうな顔。私がこんな顔をさせてしまったのか。


「来るのが遅くなって、ごめんなさい。今朝も、逃げたりして、ごめんなさい」


レオン様は表情を崩してコツンとおでこを合わせる。


「今、俺の腕の中にいてくれるだけで良いんだ」


私が1人恥ずかしがっているだけで、レオン様は昨日のことは気にしていないのかもしれない。私が恥ずかしがっていることを気にしているのだろう。


そうだ。レオン様はショーン様の悪戯だと言っていたし、私が本気で言っていないということは分かってくださっているのだ。


だから、私自身が恥を乗り越えさえすれば良いのだ。


恥……


恥ずかしいけど。


恥ずかしいけれど、この腕の中はホッとする。レオン様のハグのパワーって凄いな。


恥なら魔法を失敗して沢山かいてきた。


うん……大丈夫。


精一杯の笑顔をする。


「ありがとうございます。魔法レッスンしましょう」


「……もうちょっと、抱き締めていたい」


「……ここはアカデミーですよ?学舎です。自制しましょう」


「……ここなら誰も見てないし」


「ダメです」


「…………」


「離して、くださいませんか?」


何故だか抱き締める腕の力を緩めてくださらないので、ぐいぐいと硬い胸板を押してみるけれど、びくともしない。


それにしてもレオン様のこの顔には見覚えがある。

お父様がお母様に時々見せる顔と一緒だ。耳をペタンと伏せた犬の様な、少し悲しそうでどこか甘えのある顔。


そういう時お母様はニコリと笑顔を浮かべてお父様を操縦する。私もそんなお母様みたいになりたい。


よし。


お母様の笑顔を意識してニコリとレオン様に微笑む。


「レッスンしましょう。私、仮装トーナメント大会で本戦に出られるようになりたいのです」


「……ずるい」


うん。反応を見ても、なかなか上手く出来たのかもしれない。


でも、急にガブリと食い付かれるキスをされ、唇を吸われた。突然のことで固まってしまう。


「これで我慢する」


唇を離した後、ペロリと自身の唇を舐めながら言う。頂かれた感が凄い。


……やっぱり私はレオン様に敵わない。

これは我慢した内には入らないのでは無いでしょうか?


私はお母様みたいに操縦出来るようになれるのだろうか。



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