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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第3部
71/159

8.長い

翌日、レオン様は18歳になりました。


「お誕生日おめでとうございます!」


「ありがとう、フレイヤ」


いつも授業後に行っている魔法レッスンはお休みをして、我がリーズ公爵家にお招きしてお祝いをすることにした。


「このズコットケーキは、リーズ公爵領の特産品のヨーグルトから作ったリコッタクリームと、マスカルポーネチーズにチョコレートを混ぜたクリームにナッツが入ってます!邸の厨房の料理人の自信作ですよ!」


いろいろ考えた結果、何処かのお店に行くのもレオン様は変装しないと目立ってしまうので、厨房にお願いして邸で振る舞うことにしたのだ。


「美味しいね。リーズ公爵領のものを選んで使ってくれたの?ありがとう」


レオン様は18歳になっても美しい微笑みをくれます。


「あの……あと、ちょっと、恥ずかしいのですが……これ……」


おずおずとハンカチを差し出す。


「……フレイヤが刺繍をしてくれたの?」


「はい……実は、昨日、レオン様の誕生日を知りまして……何も買いに行けず、一晩しか時間がなかったのでイニシャルしか刺繍できなかったのです。……ショボくて、ごめんなさい」


レオン様は受け取ったハンカチの刺繍したところを撫でながら、じっとハンカチを見ている。


(何だか……検品されている様な気分……)


本当にありきたりで定番なプレゼントに落ち着いてしまった。刺繍は苦手ではないので失敗とかはしなかったけれど、何しろ準備する時間なんて無かったので、ハンカチも糸も邸にあったもので作ってしまった。白色のなんの変哲もない普通のハンカチに、黄色のシンプルな糸。

お気に召さなかったかしらと不安が襲ってドキドキしてしまう。


でも、顔を上げたレオン様は見たこともない様な表情をしていた。


「俺のことを考えながら刺繍をしてくれたんでしょ?それが嬉しい。ありがとう」


少し照れたような笑みを浮かべた少年の様なレオン様に、胸がキュッとなってしまった。


カリナ様が言っていた「お兄様はフレイヤ様にお祝いしてもらえるなら、何だって喜びますよ」という言葉は、本当だった……


本当に喜んでくれているのが伝わってくる笑み。良く思われようとしてする笑みでも、心配を掛けまいとする笑みでも、私に気を遣って作った笑みでも、どれでもない。


純粋な少年の様な笑みで、可愛らしいと思ってしまった。



「……レオン様。もう一つ、プレゼントがあるのですが、聞いてもらえますか?」


「まだあるの?聞くって、何?」


深呼吸をする。

意味は分からないが、ショーン様に教えてもらったままに伝えよう。


「レオン様。私のハジメテをもらってください!」


ぶっと、レオン様が噴き出した。


あれ……?

想像していた反応と違うんだけど……?

噴き出してしまった口を手で押さえているけれど、手で隠れていない顔が……真っ赤?



◇◇◇



フレイヤの衝撃的発言に固まる。


なぜ……急に……


俺の聞き間違いか?


フレイヤの言い間違いか?


「ハジメテ」……


いや、いずれ貰うつもりだし、誰にも渡すつもりも無いけど……ここで言うのは、何故?

こんな、ケーキを食べながら、和やかなお祝いをして貰っている今言うのは……何故だ?



こんな風にフレイヤに誕生日のお祝いをして貰えて、本当に嬉しかった。

昨年はいちいちプレゼントを断るのも面倒で、変装して気配も消して逃げ回った。でも今年は婚約したおかげで数が減った。それでもプレゼントを持ってくる令嬢がいたが、堂々と全部断った。


そしてアカデミーの授業後にリーズ公爵邸に招かれ、こうして2人っきりで祝ってくれたのも嬉しいし、俺のことを考えながら選んでくれたケーキも、俺のことを一晩考えながら刺繍してくれたハンカチも、全てが嬉しくて嬉しくて堪らない。どんな高級な店で買う品よりも、嬉しく価値のある物だ。


そしてさらにプレゼントがあると伝えられ話を聞けば……まさかの衝撃的発言。



俺の勘違いか?

俺がエロいから勘違いしているだけで、実は違う意味があるのか?



「あの……私、もしかして変なことを言ってしまったのでしょうか……?」


フレイヤが不安そうな顔をしている。


さ……誘われているとしたら、返答出来ないでいる俺は……やっぱりヘタレかもしれない……。


でも、もし誘っているとしたら、何も言わない俺に不安になるというよりは、フレイヤだったら恥ずかしくなるのではないだろうか?


「ど、どういう意味か、分かって言ってる……?」


伺うような視線を送ってみる。


「……ごめんなさい!実は意味が分からないんです!」


ん?


「分からない……?」


「昨日、ショーン様に偶然お会いした時に、そう言うだけでレオン様が喜ぶからって教えてくださって、意味も分からず言いました!」


(あの野郎……)


そう言うことか。

思わず片手で顔を覆う。


(純粋なフレイヤに余計なことを言いやがって……)


「私、言葉を間違えましたか?それとも、ショーン様が勘違いされたとかですか?」


「いや……まあ、うん……」


(何て答えたらいいんだー!ショーンの奴、明日会ったら覚えてろよっ!)


心の中でショーンへ悪態をつき、言葉の意味をフレイヤに言って良いものかどうか迷う。

でも、何て言うんだ?ストレートになんて言えない。


「……ごめんなさい。せっかくのお誕生日に、不快な思いをさせてしまいました」


「違うちがう!不快ではないから、大丈夫!」


戸惑っただけだ……。


「すみません……」


そんな悲しそうな顔をしないでくれ!

全部、全部、ショーンが悪いんだから!


「だから……その……多分、ショーンの悪戯なんだ」


「……悪戯ですか?」


「ああ……その……ハジメテをもらってって言うのは……」


ああぁ……何て言えば良いんだ……

もう腹を括るしかない。


「処女をもらって欲しいって、意味なんだけど……」


フレイヤの時間が止まったかのように数秒固まった後、顔を真っ赤にさせたと思ったら両手で顔を覆って俯いてしまった。


「───────!」


言葉にならないよね。そうだよね。俺も言ってて恥ずかしい。


「……フレイヤ、大丈夫?」


俺に話し掛けられ、ビクッと激しく肩を揺らす。


俺、怖がられてる?嫌われた?


顔を覆っている両手を少し下げ、ソロリと上目遣いでこちらを見る。その目は涙目で、顔は真っ赤だ。

それが可愛くて可愛くて、心臓を撃ち抜かれた俺は、何かを堪えるのに必死だった。

本人が意味を分かっていなかったとはいえ、誘い文句を言われ、そんなに可愛い顔をされたら、雄が大人しくしていられるわけがない。

可能なら今すぐ抱き上げて寝室に連れていってフレイヤの「ハジメテ」を貰ってしまいたい。


出来ないけど。


結婚まで、あと、1年半……


長いなぁ……



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