6.最高の…
『レオン様……私、離れたくない』
『俺も離したくない』
『今夜は、ずっと……一緒にいても、いいですか?』
『……朝まで離さないよ?』
顔を赤らめながらこくりと頷く。
再び見上げた瞳と目が合うと、唇を合わせる。
サフランイエロー色のショールを肩から下ろし、寝室の床にパサリと落ちる。
フレイヤを横抱きに抱えて寝台の上にそっと下ろし、そのまま両手をフレイヤの両側に突いて覆い被さる。
『好きだよ、フレイヤ』
『レオン様……私もです』
キスを落としてからゆっくりとフレイヤの服のボタンを外していく。服を肩から下ろせば、白く綺麗で欲を昂らせる肌と細い肩が現れる。さらに下ろせば、フレイヤの思いの外豊かな2つの膨らみが────
「レオンお兄様ー!いつまで寝ているのです!!」
「う~ん……フレイヤ……」
「フレイヤ様の夢でも見てるんですか!いい加減起きないと、今日からアカデミーが始まるんですよ!!」
カリナの騒がしい声と共に、思いっきりバサリと布団を剥ぎ取られる。
「きっ……!!!」
「んん……なんだ……カリナ?」
布団を剥ぎ取られたことで寒くて目が覚めた。目の前には俺の布団を持ったまま驚愕の顔をして固まっているカリナ。
何だ?と思ってカリナの視線に合わせて視線を落とせば……ああ、成る程……
「きゃああああ!!!レオンお兄様サイテー!!!」
男の生物学的生理現象を妹に晒してしまった。
◇◇◇
「ほんっとうに、旅行で何も無かったの!?」
「無いよ。しつこいなぁ……」
無いって言ってるのに、またカリナに思いっきり頬を叩かれた。
「朝から本当にサイテー!妹に何見せてるのよ!」
「勝手に部屋に入ってきたそっちが悪いんだろ」
「お兄様がなかなか起きないから使用人達が部屋の前で迷ってたんです!だから私が起こしに行ったのに!私が起こさなかったら、アカデミーに間に合いませんでしたよ!?」
ベルック公爵家では、男子の部屋に女性の使用人の立ち入りが禁止されている。代々、美貌に惑わされ夜這いやら色仕掛けやらをする者がいたからだそうだ。
使用人を採用するときは、父や兄や俺に近づく目的で応募してきたのではないかを母が見極めてから採用を決定するのだが、邸で働くうちに惑わされる者もいるのだ。実際に兄が13歳の頃に襲われかけたことがある。
男性の使用人の数はそこまで多くないので、俺に専属で付く使用人はいない。幼い頃は祖母くらいの年齢の女性使用人が世話をしてくれていたが。殆ど寝坊することも無いのだが、たまにするとこうしてカリナによって起こされる。
因みに男性使用人の採用も母が厳しく見極める。
兄がアカデミーを卒業してから、兄の秘書官を育てる為に男性使用人を雇ったのだが、1人目はある日突然母が「貴方は本気になってしまったみたいだからクビにします」と言って解雇した。どうやら母の魅力に惑わされてしまったらしい。
2人目はとても真面目で仕事熱心だったのだが、これまた突然父と母に泣きながら「カリナ様に恋をしてしまいました。お約束を守れず申し訳ありません」と言って自ら辞めていった。
そして今の3人目は続いている。興味本位で何故平気なのか聞いてみたら、「ぽっちゃりした女性が好きなので奥様もカリナ様も対象外です」とハッキリと言っていた。好みは人それぞれ。
「仕方ないって。レオンも男なんだから」
「今までこんなこと無かったのに!」
「そりゃ、それまで恋して来なかったんだから無かっただろうな。好きな女をオカズにするのは男の性だな」
「おかず?」
そっとカリナの耳を塞ぐ。
「兄さん。あまり変なこと教えないでくれ」
俺がエドワード殿下に何を言われるか分からない。
「何で耳を塞ぐのですか……?そんな破廉恥な意味なんですか……!」
「……カリナにはまだ早い」
兄は面白げな表情を浮かべて呑気に朝食を食べている。
「エミリオお兄様の女ったらし!レオンお兄様のスケベ!」
耳を塞いでいた俺の手を振り払い、氷の塊を飛ばしてきたが、何とかキャッチした。兄は魔法でシールドを出して防いでいる。
「今日も賑やかな朝食ね~」
何故母はこうも平気でいられるのだ……。
娘に余計なことを言う息子を注意したりしないのか。本当にこの家の教育法は謎だ。
◇◇◇
「レオン……その頬はどうしたんだ?」
アカデミーでエドワード殿下に会った瞬間に指摘された。
「まだ赤いですか?今朝カリナに叩かれたんです」
もう痛みを感じないので、赤みは引いたと思っていた。
「カリナ?何をしたんだ?」
「あんまり言いたくないんですけど……」
「どうせ面白い話なんだろ?話せ」
この方は相変わらずだな。
仕方がないので最高の夢をカリナに邪魔された挙げ句に、カリナに叩かれた一連の事を話した。兄の言ったオカズの事だけは言わなかったけれど。
そう……最高の夢だった。あくまで俺の想像による夢ではあるが、あと少し、カリナがもうあとちょっと遅く登場していれば、フレイヤの普段隠された服の下が露になり、見ることが出来たのに……。
想像だけど。
今晩夢の続きを見られないだろうか……。
「お前な……」
俺の話を聞いて殿下が呆れている。
「とりあえず、その頬はどうにかした方が良いんじゃないか?あらぬ噂をされるぞ?」
「あらぬ噂?」
「フレイヤと喧嘩したとか」
それは困る。そんな根も葉もない噂、好き勝手されたらフレイヤに迷惑を掛けてしまう。
「治します。ご指摘ありがとうございます」
頬に手を当てて、治癒魔法で治した。
「よお!レオン~、フレイヤちゃんとの甘~い旅行はどうだった?」
煩い友人の登場だ。
「夢に見る程良い旅行だったみたいだぞ」
コイツらには言いたくないのに、ニヤリとした殿下が面白がって仄めかすような事を言う。本当に意地が悪い。
「あーくっそ、いいなぁ!俺も恋人が欲しい!」
「レオンに婚約者が出来ても全然モテないのは何故だ!?」
……そういうところでは無いだろうか。
「モテるのを待たずに気になる令嬢に声を掛けたりはしないのか?」
「ん?いいのか?カリナちゃんにアタックするぞ?」
「それはダメだな」
カリナには殿下がいる。
2人の関係が公になるのはまだ先だろう。俺としてはさっさと婚約者にでもして欲しいところだが、王家にも色々と事情があるのだろう。俺には全く分からないが、何か事情があるのだということしか分からない。
今も殿下はそ知らぬ顔をしてそこにいる。相変わらずのポーカーフェイス。
「まぁ、もうじき卒業だしな。カリナちゃんなら親も文句無しで了承してくれるだろうけど、俺が選んだ令嬢に納得するかどうか分からないからな。本気になっても別れなきゃいけなくなったら辛いし」
いつもふざけてばかりいるコイツらも、家の事情をそれぞれに抱えている貴族だ。
政略結婚が嫌いと言う母と、恋を応援してくれる邸の皆には感謝しかない。
……キスまでって言う約束は辛いけど。




