4.小さな恋敵
お披露目も終わり、翌日の朝も朝食後に庭で稽古をしていた。
フレイヤはベンチに座って、今日もタオルを握り締めて見学をしている。
魔法でベンチを温めようとしたら、「自分でやります!」と、燃やさないように少しずつ魔力を流して温めていた。やってあげたいのに魔法の練習だし仕方ないからと譲ったものの、寂しさを感じてしまう。巣立つ小鳥を見送る親鳥はこんな気持ちなんだろうか。
好きな女性に頼られたいと思うのは、男のエゴイズムだろうな。
「フレイヤー!!!」
マシューが走って来てベンチに座るフレイヤに抱き付く。
歴代リーズ公爵達は魔法の扉で昨日のうちに帰っていったのだが、タンカーヴィル伯爵一家はエレナおばあ様の館から馬車で1日掛かるそうで、この領主館に一晩泊まったのだ。エレナおばあ様の館に泊まれば良いのに……。
「あら、マシュー」
フレイヤの隣に陣取り、頭を撫でて貰っている。俺の視線に気付き、ニヤリとする。
(またしても……)
マシューはフレイヤの事が好きなのは一目瞭然。そして俺を敵視し挑発してくる。
昨夜だって子どもであるという特権を使い、フレイヤと一緒に寝ようとした。勿論許さなかったけど。
「……マシューはいくつだ?」
「9歳だけど?」
「ローラ王女殿下と同じ年か。マシューも騎士を目指すのだろう?ローラ王女殿下の護衛騎士になれるんじゃないか?」
「俺はフレイヤの騎士になるんだ!」
「それは必要ない。俺がいるから」
「今はまだ子どもでも絶対俺の方が強くなる!」
「おっ!レオン様稽古中か!私の相手をしてください!」
ルイーズがマシューを追い掛けて来たようだ。
「レオンはルイーズの相手をしてろよ!で、負ければいいんだ!」
「なんだ、マシューはまだ諦めてないのか?年が違いすぎるだろ」
「そんなの関係ない!ルーク様だってソフィア様と50歳位の年の差があったんだ!」
「まあ、そうだけど。でも、もう婚約してるんだから、数年後には結婚するんだぞ?」
「フレイヤはきっと寿命が長いから、若い俺の方がずっと側にいてあげられる!だから俺と結婚するんだ!」
「レオン様もアナベル様の直系だから、結構寿命が長いのではないか?」
「……」
ルイーズに言いくるめられ不貞腐れてる。
「ふふっ。ありがとうね、マシュー」
優しいフレイヤはマシューに笑みを向けて頭を撫でてあげている。マシューは甘えるようにフレイヤの胸に顔を埋めてグリグリ……
おい!!!
「そんなに怖い顔しなくても……相手は子どもなんだし」
ルイーズに肩を叩かれ宥められるが、胸にグリグリは絶対わざとだ!狡いぞ!!
「9歳はもう駄目だろ!」
「もうじき帰るんだから、今だけ許してあげてくださいよ。あいつの初恋なんだから」
自慢じゃないが俺の初恋もフレイヤだぞ!
「はいはい!レオン様は私の相手をしてください!」
グイグイと体を引っ張られ、フレイヤと離される。この強引さ、カリナみたいでアナベル様の家系の魔女っぽいな。
仕方がないので相手をすることに。
俺が氷の剣を使って素振りをしていたからか、ルイーズも氷の剣を魔法で出す。
「……仕上がり良いな」
「ありがとうございます」
ルイーズの氷の剣は濁りの無い綺麗なクリスタルだ。そして向こう側が覗ける程を通り越して、そこに存在していないかの様な透明感。1年生でこのレベルは凄いと思う。3年生でも数人しか作り出せないレベル。
「行きますよ」
言って直ぐ踏み込んで来た。
(……速いなっ!)
振り下ろしてきた剣を受け止めるとキーンと楽器のような綺麗な高音が響いた。
打ち合いをするが、剣の振りも速い。体は細く見えるが、筋肉が相当付いているのだろう。押し込む力も決して軽くない。それに反射が良く、身のこなしが軽やかで躱すのが上手い。
(なるほど。優勝してもおかしくないな)
あの自信は過信ではなく、自己肯定力を高め、高パフォーマンスに繋げている気がする。
(これは良い稽古になるな)
少し楽しくなってきて、ルイーズに合わせていた動きをアップする。するとルイーズも上げてきた。俺を測っていたようだ。
「やっぱり手加減してましたね!」
「様子を見ていた。まだ速くなるな」
「当たり前です!」
さらにスピードを上げてきた。こんなに速いのは3年生には居ないな。
本気で行きたいところだが、慣れない雪の上。雪かきされているがやはり残っている為、踏ん張る足が滑るので次の動きに少し遅れてしまう。
ルイーズは雪に慣れているのだろうか。全く気にする素振りがない。
剣を合わせながら魔法で溶かす余裕は与えてくれないし。戦いながら慣れるしかない。
「フレイヤ、寒くないか?」
「ん……うん……」
ふと、マシューとフレイヤの会話が耳に届き、チラリと見やると、マシューがフレイヤの膝の上に乗っていた。
(膝上!!!マシューめ、好き勝手しやがって……)
「余所見なんて余裕ですね!」
完全に意識を逸らしてしまっていた。ルイーズの下から掬い上げるような振りにハッとして剣で受け止めようとしたら、反応が遅かった様で右脇にルイーズの剣が入ってしまった。
「……っつ!」
後ろに跳び後退る。あまり深くは入らなかったが、直ぐに右手へ力を入れるのは無理だろうなと思う程に痛みと痺れを感じる。
「あっ……!レオン様っ!!」
フレイヤが思わずといった感じでベンチから立ち上がる。膝に乗っていたマシューが床に転げ落ちた。
「わっ!わっ!マシュー、ごめんね!!痛かったよね!」
1人ワタワタしている。急いでマシューを立たせるとベンチに座らせて、こちらに向き直る。
「だ…大丈夫ですか?怪我しましたか!?」
「いや、大丈夫だ。一応防御魔法を掛けていたし、このくらいは騎士科では当たり前の怪我だ」
「そ、そうなのですか……」
そんなに心配されるとは思わず、嬉しさもあるが、まずいものを見せてしまっただろうかと申し訳ない気持ちになる。
「フレイヤ、心配し過ぎ!レオン様も直ぐに後ろに避けたから大して入ってないし、そもそもフレイヤに気を取られて余所見する方が悪いんだから」
全くもってその通りで苦笑いする。
ルイーズは剣を肩に担ぐように構えて、何とも男らしいポーズだ。
「えっ…!わ、私のせいですか!ご、ご、ごめんなさい!」
「フレイヤのせいじゃないよ。俺が集中しきれていなかったのが悪いのだから」
フレイヤの背を撫でて落ち着かせてやる。
ふと、フレイヤの後ろのベンチにちょこんと座るマシューが目に入った。どこか唖然とした表情を浮かべている。
「ん?マシュー、どうしたんだ?マシューのご希望通り、レオン様は私に負けたぞ?」
はっきりと負けたと言われると傷付くな……。
フレイヤに格好悪いところを見せて、心配を掛けさせてしまい、苦い思いが残る。
「……」
マシューは何も言わず、唖然とした表情から一転、ムッとした表情に変わり、ベンチから降りて館の中へ走って行ってしまった。
「何だ?」
訳が分からず、3人で顔を見合せた。




