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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第3部
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2.ぬるま湯

剣が鋭く振られる音と一緒に時々風圧が届く。


レオン様が、休みの日はいつも朝食後に剣の稽古をしているとのことで、出掛ける前に稽古を見学することに。

レオン様は気にせず出掛けようと言ってくださったのだけれど、私が見たくて稽古をしてくださいとお願いしたのだ。


ベルック公爵邸には打ち込み台があるらしいけれど、ここには無い為、魔法で出した氷の剣で素振りを繰り返している。氷の剣に負荷を掛けて重くしているそうで、冬の冷たい空気を切り裂く音も鈍く、重さを感じる音が聞こえる。


レオン様の動きに合わせて揺れる髪の下から覗くアンバーの瞳の真剣さと鋭さにドキドキしてしまう。雪に反射した光が入るせいか、いつもに増して黄金色の輝きをしている。

剣を握る手の甲の筋や、首に浮き出る筋に、いつもの優しいレオン様とは違う力強さや男らしさを感じて、更にドキドキしてしまう。


実はレオン様が剣を振るっている姿を見るのはほぼ初めてなのだ。


仮装トーナメント大会の時は猪の姿だったし、友人と一緒に授業をしているところを見たのだって校舎の3階からで遠かったし。


こんなにも間近で見られるなんて、婚約者の特権だろうか。


タオルを握る手が小刻みに震える。雪が積もっている冬の庭が寒いからじゃなく、レオン様の殺気に充てられて怖いからでもなく、格好良さにドキドキが止まらず鳥肌が立ってしまった。


胸を高鳴らせ見惚れるように眺めていたら、レオン様は動きを止め大きく一呼吸してこちらに振り返り、視線がバチッと合う。何故か見ていたことがバレてしまったような気恥ずかしさがあるけど、見ていても何も悪いことなんて無く、寧ろ見たいと言ったのは私なのだから何も気にする必要はない筈なのに、照れてしまう。


「終わりにしようか。……手が震えているね。外で座っているだけだと寒いよね。付き合わせてごめんね」


私の震えている手に気付いて、タオルを握りしめている手を包み込むように触れ、魔法で温めてくださる。


「いっ…いえっ!そのっ!この…震えているのは寒いからではないので、大丈夫です!たっ、タオルっ…タオルを使ってくださいっ!」


剣を振るっている姿に惚れ直してドキドキが止まらない私は、動揺を隠しきれない。

タオルを差し出したいのに両手を握られ言葉で伝えるしか出来ない。


(格好良くて強くてさらに優しいこの方に気遣われて……尊すぎるっ!)


「ありがとう」


タオルを受け取って私が座るベンチの横に腰掛けると、ベンチに軽く触れて、今度はベンチを温めてくださった。お尻から柔らかな温もりが伝わってくる。こんなにも繊細な魔法を使いこなす技術に、やっぱり凄い方だなぁと思う。


「ありがとうございます!とても温かいです!」


「フレイヤが風邪でも引いてしまったら大変だから」


さっきまでの真剣で鋭い目つきとは反対の、優しい目。体を動かした後の熱気が、すぐ隣に座ったレオン様から伝わってくる。いつもの爽やかな香りに男らしい汗の匂いを感じて、胸が騒がしく落ち着かない。

隣にいたら伝わってしまいそうで恥ずかしくて、誤魔化すように慌てて立ち上がる。


「この魔法っ!椅子を温める魔法、私も出来るようになりたいです!どうやったらこんなにも繊細な魔法が出来るのですか!?」


慌てて立ち上がった私にクスリと笑うレオン様。お見通しですか?私の動揺など全てお見通しの様ですね……。


「火魔法の応用だね。微量の魔力を流し熱を加えるんだ」


「やってみてもいいですか!」


レオン様が立ち上がって一度魔法を解く。

火魔法の呪文を唱え、熱を生み出す。ベンチに触れて魔力を徐々に流していく。


(ちょっとずつ、ちょっとずつ)


失敗しないように慎重に熱を加えていく。

そう意識していたのに、レオン様が私にぴったりとくっつくようにベンチに触れている手に手を重ねた。


「いい感じで魔力が流れているね。あともう少しでちょうど良い温度になるかな」


背後に立っているレオン様から、さっき逃げた筈の熱気と匂いを感じ、更に耳元で話すからゾクリとしてしまい、魔力コントロールどころじゃなくなってしまい、一気に魔力が流れてしまった。


ボンッ!!!


「きゃあああ!!」

「わっ!!」


ベンチが燃えました………。



◇◇◇



稽古を終えて、麓の町の散策に出掛けることに。


燃えたベンチはレオン様が治癒魔法を使って直してくださった。完全に燃えて炭になると直せないけど、直ぐに水で火を消したので殆ど燃えずに済み、ちょっと焦げたところは人間の火傷と同様に細胞を再生させることで直すことが出来た。

本当に繊細な魔法がとても上手い。見習いたい。私も……出来るようになりたい!


麓の町は、領地内で最も栄えている町で、特に文化芸術の町とも言える。


ソフィア様を始め、歴代のリーズ公爵のコレクションの書籍が所蔵されている大図書館。


数代前の公爵の趣味であった芸術品が所蔵されている美術館。


王宮魔導士をしていた公爵のコレクションの魔道具が所蔵されている博物館。


また、北部の山で良質な土が採れる為陶磁器も有名で、多くの窯を持った工房があり、陶磁器の店が列なる通りがある。


それとガラス工房も多くあり、その店の前を通ると色鮮やかなガラス製品にキラキラと光が反射し、歩くだけでも楽しくて気分が上がる。


「領地で栽培が盛んなのはトウモロコシなので、冬は缶詰のコーンスープが良く売れて、トウモロコシ粉を使ったコーンブレッドやクッキーなんかも人気なんですよ」


「昨日の晩餐で出されたコーンスープも美味しかったね。コーンの甘味だけでなくクリーミーな濃厚さでとても体が温まったよ」


「乳製品も特産品です!山岳部のチーズを使った家庭料理が広まってこの辺の郷土料理になったので、町のレストランでも食べられるんですよ!」


町を歩きながら領地の話をする。ちょっと自慢げに。


レオン様も興味津々で、町の気になったことを沢山聞いてくださるし、沢山褒めてくださる。更に嬉しくなって余計に話をしてしまっているかも。


領地では王都とは違い、レオン様を知っている人が全然いないから変装することはないけれど、美貌は変わらないので道行く人に振り返られる。防寒で帽子を被っていても隠しきれない美しさに、頬を染める女性の多いこと。


そんな町の人達に思わず苦笑いしてしまう。

でも余所見しているとレオン様に肩を抱き寄せられ微笑まれる。私が不安にならないように、相応しくないとか不釣り合いだとか卑屈になる隙を与えないようにしてくださっているのではないかと、最近思う。

そして、愛情を言葉でも行動でも伝え安心させてくださる。疑う隙を与えないように。


それはぬるま湯に浸かっているようで、このままでは私はダメ人間になってしまわないだろうか……?



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