34.しるし
今日はマデリン様にお招き頂き、ベルック公爵邸で一連の事件の顛末を教えて貰っていた。外は寒いが、今日もサロンは快適な温度に保たれている。
「フーシェ侯爵夫人は北方の修道院に行くことになったわ。フレイヤちゃんの温情とこれまでの境遇を鑑みての処遇だそうよ。ご本人はずっと小さな家に閉じ込められて殆ど人と会わずに暮らしていたし、修道院の方が人と接することが出来るから有難いって話していたそうよ」
「そうですか」
「フーシェ侯爵は、ラッセル伯爵家との縁を切りたくなくてずっと夫人と離婚しなかったそうだけど、陛下から沙汰が下されて離婚することも出来たわ。ラッセル伯爵家も夫人が病気療養で領地にいると信じていたそうで、騙していたフーシェ侯爵に対して裁判を起こして夫人が負った精神的苦痛に対する慰謝料を請求して、それを修道院に寄付するつもりだそうよ。ふんだくってやるって意気込んでいたわ」
ふふふと笑うマデリン様が、少し怖い。フーシェ侯爵に利用されて不要になったら閉じ込められるなんて、同じ女として同情する気持ちと侯爵に対する怒りがあるのだろうな。
「ドルバック伯爵は王宮魔導士の資格と貴族位を剥奪されたわ。でも魔法や魔道具に関する知識や技術は素晴らしいから、監視付きの部屋で研究を続けることを許されたそうよ。まあ、牢に入れられるのに近い筈なんだけれど、貴族の面倒事から解放され研究に没頭出来るって喜んじゃってるみたいなんだけどね。本当に魔法好きなのねぇ」
2人とも私を誘拐して殺そうとしたけれど、未遂で終わったから、そこまで重い罪にならずに済んだようだ。
「ちょっと処罰が軽い気がする」
不機嫌を隠さないレオン様。私の命を奪おうとした2人に対しての怒りは消えないそう。私はその気持ちだけで充分なんだけどな。
「お兄様、雷を落としたのでしょう?殿下やリーズ公爵にまで当たりそうになったって、殿下がぼやいてましたよ」
「……当たらなかったから、いいだろ」
いや……さすがに殿下に当たってたら大変ですよ。
「プブル侯爵親子へは処罰を下す程では無いって陛下に言われちゃって、何も出来ないのが悔しいところだけど。何も無かったとは言え、フレイヤちゃんが襲われた話を広められるのも本意ではないからね」
「でも、謝罪はしていただきました。プブル卿もよく認めましたね。証拠なんて何もないので、シラを切り通すことも出来たでしょうに」
「ああ……それは、母さんとエミリー様が自白させたからね」
「お母様が?自白……ですか?」
「私とエミリー様は幼馴染みみたいなもので、よくリーズ公爵家で魔法書を一緒に読んでたのよ。その中に催眠魔法があってね、私の弟が悪戯をしたらその催眠魔法をかけて自白させていたの。でもある時、王宮で今の陛下がまだ若い頃に嘘を付いたのが許せなくて催眠魔法を使って自白させたら、その場にいた前国王陛下に叱られちゃって。催眠魔法って禁忌魔法だったらしくて、他の貴族が催眠魔法を悪用したら困るからって、催眠魔法が載った魔法書を没収されちゃったのよ」
「禁忌魔法……」
もしかして、隠れ家にある魔法書には、他にも禁忌魔法が載っているんじゃ……不安になってきた。
「それで今回フレイヤちゃんが襲われて私とエミリー様はこのまま黙ってなんていられないと思って、前国王陛下にお会いして催眠魔法の使用許可を求めに行ったのよ。前国王陛下も女性だからね、一緒に腹を立ててくださって、使用許可を得られたから催眠魔法で企み全てを自白させたのよ」
ニコリと笑顔を見せるマデリン様は、やっぱり怖い。お母様も時々こんな笑顔するんだよね……。
プブル侯爵親子がうちに来て震えながら謝罪していた時も、お母様はこれよりも深い笑顔をしていたけれど。
「色々と、ありがとうございました」
「いいのよ。こちらこそお礼を言いたいの。今回のことで、魔力が無い者が蔑まれることが起きるなんて、始まりの魔女の直系としてしっかりと受け止めなければならないことだと思ったの。フレイヤちゃんの言う通り、魔女達が迫害から逃れる為に創った星なのに、その子孫が反対に迫害するなんて、始まりの魔女の3人はきっと悲しむでしょうね。ご先祖様に顔向け出来ないわ。フーシェ侯爵夫人…もう離婚したから侯爵夫人じゃ無いわね。ラッセル伯爵婦人が閉じ込められていた家にかけられた魔法は、フーシェ侯爵家に代々伝えられていた魔法で、本来、侯爵家の先祖の魔女が、地球の人間に暴力を振るわれるのから身を守る為の、魔力の無い者が入ってこられない結界だったのよ。それを反対に閉じ込める為に使うだなんて、到底許せることではないわ!侯爵位を継承する際に次代に引き継ぐ習わしだったから、ドルバック伯爵はその魔法の解除方法を知らなかったみたいね」
魔法は使い方や使う人によって、良くも悪くもなってしまう。それがよく分かった。
「さあ!こんなところかしら?あんまりフレイヤちゃんと一緒にいると、レオンに邪魔者扱いされちゃうから、私とカリナは向こうに行きましょうか」
そう言ってお二人はサロンを出ていってしまい、レオン様と2人っきりになった。
「フレイヤが温情を与えるから……もっと厳しくても良いのに」
この方はまだぶつぶつ言ってる。もう処罰は決定されたのに。
「いいんです。レオン様が雷を与えてくださったのでしょう?それで充分じゃないですか」
「俺はフレイヤにキスを迫ったプブル卿にも雷を食らわせてやりたいくらいだよ」
私の髪を1房掬い取り、ちょっと怒った顔して髪をクルクル弄ぶ。
先日の森での一件以来、レオン様はすっかり元に戻り、躊躇わずに私に触れてくださるようになった。嬉しいけれど、やっぱりこの美貌でされるとどうしても照れてしまう。
「リーズ公爵家の名に惹かれただけで、私はレオン様と違ってモテませんから、もうあんな目に遇うことも無いと思いますよ」
レオン様はじーっと私の顔を見る。
何かおかしな事言いました……?
「フレイヤは自分がどれだけ魅力的か分かってない。それに、男がどれだけ欲にまみれているかも分かっていない」
ん?どう言うこと?
レオン様は急に私をソファに押し倒した。
「えっ……!?」
「フレイヤは俺の婚約者だからね」
レオン様は私のドレスのレースのハイネック部分のボタンを1つずつ外し始めた。
「きゃあああ!だっ、だめです!レオン様っ!」
胸元の上部をはだけさせると、真っ赤になりながら慌ててレオン様の肩を押し返して抵抗する私の手首をがしりと掴み、顔を埋めた。
「ぅんっ……」
チクリと胸元に痛みを感じた。
「しるし、付けたからね。他の男に見せたらダメだよ?」
しるし?
私の胸元から顔を上げたレオン様は、信じられないくらいの色気を纏った雄の顔をしていて、ドキッとしてしまった。
……ダダダダダダダダダダッ
あ、何か聞き覚えのある……
でも今回は二重奏な気がする……
バァン!!
「レオン!悲鳴が聞こえたわよっ!」
「レオンお兄様!何が───あ………」
以前の言いつけ通りに少し開けていた扉を、思いっきり開け放して、マデリン様とカリナ様が勢い良く飛び込んできた。
でもお二人が見たのは、ソファに押し倒され胸元をはだけさせられた私と、その上にのし掛かっているレオン様……。
「……なにを、しているの?」
今までに聞いたこともない低い声のマデリン様。
「やっ……これはっ……」
レオン様が慌てている。
「なんでフレイヤちゃんの胸元にキスマークがあるの?」
あ、これ、キスマークなんですね……
「いやっ……ちがっ……」
「何が違うの?結婚するまではキスまでって、言ったわよね?」
「だから、キスしただけで……」
「キスって、そんなとこまでして良いと思ってるの?何勝手に曲解してるのよ!」
ああ……マデリン様の手から生み出された氷の塊がパキパキ鳴りながら大きくなっていく………
「レオンお兄様サイテー!!!」
カリナ様の右手は赤く大きくなって……火魔法で武装したのでしょうか………
「ちょっと、2人とも、まて……!」
「待つか!この変態息子────!!!」
◇◇◇
「あ……あの……大丈夫でしょうか?」
「冷たっ!今冬だぞ!死ぬ───!!」
レオン様は、マデリン様が作った氷の水槽の中に落とされ、空気穴を数ヶ所開けた、これまた氷の蓋をされ、閉じ込められている。
そのレオン様の左頬には、カリナ様によって殴られ付けられた赤い跡がある……。
水槽の中は水だけど、水槽が氷で出来ているので、相当冷たいだろうな。左頬は冷やされて良いかもしれないけれど……。
「大丈夫よ。レオンごときじゃ私の魔法を解くことなんて出来ないでしょうけれど、10分もすれば自分の魔法を使って自力で脱出するでしょ。死にはしないわよ」
「ほ、本当ですか?」
「いいんですよ!お兄様は調子に乗りすぎなんです!反省させないと!フレイヤ様は優しすぎなんです」
「さっ!向こうで美味しいレモンケーキを一緒に食べましょう!」
「寒い──!出せ──!」
私はこのお二人には逆らえない。
見捨てます。ごめんなさい、レオン様。
まあ、たまには、お灸を据えるのも大事かな?
……………
そして本当に10分後、水も滴る良い男状態で抜け出してきたレオン様は、壮絶な色気を纏っていた。
濡れた髪を雑にかき上げる姿は格好良くてドキドキしてしまい、その濡れた髪の下のちょっと不貞腐れた表情は可愛いなと思ってしまった。
END
第2部完結です。
お読みくださりありがとうございました。
知香




