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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第2部
58/159

29.女優

「それがあれば私はここから出られるかもしれないの。だから、私に貸してくださらないかしら?」



ずっと、10年以上もここに閉じ込められていたフーシェ侯爵夫人。本当にこのネックレスで出られるの?これはソフィア様のものではあるけれど、そんな力があるのだろうか。

でも、私もこのネックレスをしていると、魔力コントロールが上手く出来る気がしている。やっぱり何かしらの力はあるのかもしれない。


ここから出る為に貸すくらいなら平気だ。

だから、侯爵夫人に向かってコクコクと頷いた。


「ありがとう!嬉しいわ!」


ホッとした表情を浮かべている。


「じゃあ、まず手のロープをほどくわね。ほどいたらネックレスを自分で外してくれるかしら?」


またコクコクと頷くと、すぐ隣にいたドルバック伯爵が手のロープを外してくれた。ずっと後ろ手になっていたので、肩や腕が痛く、動かしづらいが、ソロリソロリと手を首の裏に回し、ネックレスを外す。


外したネックレスをドルバック伯爵に渡そうとした時、バシッと静電気のようなものが発生し、ドルバック伯爵の手を弾いた。


「つっ……!」


本当に……弾いてる!外すだけでなく、触るのも駄目ってこと?ドルバック伯爵の手が少し赤くなっている。


「まぁ……私が受け取っても弾かれるかしら?」


少し躊躇いながらも侯爵夫人が差し出した手に、ネックレスをゆっくりと置いてみた。


置けた。

何故?人を選んでいるのだろうか?

それとも魔力が無いから?


「良かったわ!弾かれなかったわね」


侯爵夫人は嬉しそうにネックレスを首に着けた。


「これで……本当に出られるの?」


急ぎ足でリビングを出て、扉も開けっ放しで玄関に向かう。玄関の扉のドアノブに手を掛け、一呼吸置いてからガチャリと扉を押す。


「……出られたわ……出られたわ!!」


扉を押し開けそのまま外に踏み出し、外の地面を踏みしめている。


あの扉から外にずっと出られなかったんだ。

10年以上も……私も魔力暴走で邸に閉じ籠っていたけれど、隠れ家の森の中は好きに走り回れた。

でも侯爵夫人は、窓から外を眺めるだけだったんだろう。どんな暮らしだったのだろう。どんな気持ちだったのだろう。

喜んでいる様子を見ると、手助けが出来て良かったなと思った。



すると、突然、ドルバック伯爵が私の腕を後ろに持ってきて、魔法で再び縛られ、床に転がされた。


(なんで!?)


ずっと口をテープで塞がれていたままだったので、ウーウー言いながらドルバック伯爵を見るが、ゾクリとする程冷たい目をしていた。


「アハハハハハハハ!ごめんなさいね、お嬢さん。貴女はもう用無しよ!」


用無し……?

侯爵夫人が急に笑い出したことに、不気味さを感じた。誰?さっきまで品のある人だったのに……どういうこと?


「貴女、ソフィア様の直系なんですってね。いいわね、魔力が高くて。私なんて、魔力が無くて蔑まれてたのよ?分かる?私の気持ちが」


侯爵夫人から向けられる目は、さっきのドルバック伯爵から向けられた冷たい目と同じだ。


「このネックレスがあれば私も魔力持ちってことよ。残念だけど、このまま貰うわね。それから、貴女に生きてられると私達犯罪者にされちゃって困るから、ここで死んでね。貴女は失踪したことにしておくから」


死……ぬ……?


侯爵夫人の言葉に体が固まる。


そんな私に構わず、ドルバック伯爵はこの小さな家の玄関までスタスタと歩いていき、玄関に立ち、手に火の魔法を出して、家にその火を移らせ、扉を閉めた。


扉は閉まってしまい、閉じ込められた。

玄関でつけられた火は次第に大きく燃え移ってゆく。


ああ、騙された。

ネックレスが欲しかったんだ。でもネックレスを私から外すことが出来なくて、芝居をして情に訴えて私が外すように仕向けたんだ。侯爵夫人の話はどこまでが本当で何が嘘だったんだろう。


もしかして、邸の私の部屋に不法侵入したのも、ネックレスを盗むためにドルバック伯爵が?犯人はお父様の追跡を躱す程の人だ。ドルバック伯爵なら可能かもしれない。


たった1つのネックレスで……なんで……?


火が炎となって、玄関から廊下へと広がっていく。直ぐに私の居るリビングにも伝ってくるだろう。


逃げる方法を考えないと。

扉は閉められ炎をつけられてしまった。窓を割って出られないだろうか。でも、リビングには格子の付いた窓と小さな窓しかない。割ったとしても手が縛られていては抜け出るのは難しい。

先ほど閉じ込められていた部屋の窓にも格子が付いていたから無理だし。


どうにか魔法が使えないだろうか。

手のロープが切れれば……。

何かないかと辺りを見渡すけど、何も無い。ソファは木で出来た手摺や脚の部分も綺麗に角が丸くなっている。

さっきの部屋の机の様に、少し古びた質素な物の方が削れるのに、リビングには角処理がきちんとされた少し高価な家具しか見当たらない。


暖炉の火でロープを炙る?

薪で削る?

暖炉……火掻き棒は無いだろうか!?


ソファに寄りかかりながら体を起こし、立ち上がろうとしたが、煙が室内の天井に溜まっていっているので、しゃがみこんで暖炉まで移動した。


(火掻き棒……どこ!?)


キョロキョロと探すが見当たらない。

無いの?隠された?


手も不自由で探し回ることも出来ない。


ハッと、暖炉を作っている石を見て、これしかないと思った。石の角のなるべく鋭利なところを必死にロープに当て、削った。

手が、腕が、肩が痛いなんて言ってる場合じゃない。


頭がクラクラしてきた。

気付けば火はかなり回っていた。小さな家だし、秋で空気も乾燥している。あっという間にリビングも火に囲まれていく。


熱い。

煙をかなり吸ってしまったかもしれない。

それなのに、ロープは切れない。


どうしよう。

焦ってしまう。


涙が出てくる。煙のせいなのか、死んでしまうかもしれないという恐怖や悲しみのせいなのか……


ああ……思考も鈍ってきた。


目の前が霞んで……力が入らなくなる……



お父様。

お母様。


間抜けな娘で、ごめんなさい。


レオン様。


間抜けな婚約者で、ごめんなさい───



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