27.追跡
カリナとのデートを名残惜しくも終えて、ベルック公爵邸へ向かう。アカデミーを出る前に、王家の馬車にはベルック公爵邸で待つよう伝えておいた。
ベルック公爵邸を好きに利用してしまったが、そもそもレオンが頼んできたことなのだから問題は無いだろう。
ベルック公爵邸に着いて、カリナに手を貸し馬車から下ろしたところで、邸の慌ただしさに気付く。
「扉が開け放たれてますわね。誰かいらしているのかしら?」
玄関に近付いたところで、玄関にいたエミリオと執事が私達に気付き出てきた。
「殿下、ようこそお越しくださいました」
「エミリオ、構わない。何かあったのか?」
「リーズ公爵家のフレイヤ嬢が誘拐されたそうです」
「えっ!フレイヤ様が!!」
カリナが驚き、エスコートして触れている手が震え出すのが分かった。
「誘拐?他に分かっていることは?」
「誘拐したのは恐らくドルバック伯爵。魔力探知でフーシェ侯爵領にいるのではと推測し、両親とレオンとリーズ公爵でフーシェ侯爵邸に向かい、侯爵から話を聞くとともに侯爵領への立ち入り許可を得る予定とのことです」
「そうか。私も侯爵邸に向かう」
「えっ!殿下も行かれるのですか!」
カリナが心配そうな顔を向けてくる。
「いちいち王宮に許可を取りながら対応してフレイヤの救出が遅れては、その身が心配だからな。私が代わりに許可を出そうと思う。エミリオ、一応ベルック公爵邸も警備を厳重に。カリナを頼む」
「かしこまりました」
何かを察したのか、番犬のフリードがカリナの足元にすり寄ってから、直ぐ隣に凛々しく座って私を見る。
任せろと言っているのだろうか。賢い犬だ。
「殿下、お気をつけくださいませ」
カリナに少しだけ笑みを見せ、直ぐにフーシェ侯爵邸へと向かった。
◇◇◇
フーシェ侯爵邸に両親とリーズ公爵と共に来たが、フーシェ侯爵は何も知らない様だった。
侯爵が謀ったことではないことは分かったが、連れ去った行き先の手掛かりも掴めなくなった。
「ドルバック伯爵の目的に心当たりはないの?」
「何も無いです……」
母の力を持ってしても、そもそも知らないのでは情報は得られない。
「とりあえず侯爵領地への立ち入りの許可を頂戴」
「はい……」
「それから、ドルバック伯爵が行きそうなところに心当たりは無いの?」
「……母親の所でしょうか」
母親……。魔力が無いが優秀なラッセル伯爵家の出という母親のことか。
「母親?フーシェ侯爵夫人のことかしら?」
「あいつは昔から魔法のことばかり考えていました。しかし、アカデミーを卒業してから、度々領地にいる母親の所へ行っていたようなので……」
体調を崩して領地で療養していると、以前殿下に教えてもらった。お見舞いにでも行っていたのだろうか。
「フーシェ侯爵夫人のいるところを教えて頂戴」
フーシェ侯爵夫人が療養していると言う場所の住所と地図を差し出させた。
しかし、そこにいるのかどうか確証はない。
「レオンの探知結果の南西40キロには当てはまるな。周辺まで行ってみて再度探知魔法をして探りながら行けるか」
「恐らく探知魔法が使えないように何かされています。周辺では余計探ることが出来ないかもしれません」
父の言葉を否定する。先程探知した時、辿りづらく細工をされているのを感じた。
「ドルバック伯爵なら魔力を霞ませる魔法を使っていても不思議ではないな。無駄に魔力を使ってしまうことになりかねない」
ヒューゴ様もドルバック伯爵も王宮魔導士だ。魔法の知識も深く、程度もお互い理解しているのだろう。リーズ公爵夫妻が追って来れないように、ドルバック伯爵も手を打っている筈だ。
「しかし他に手掛かりはありません。母親の所へ行きましょう!」
「まだ王宮からの返事がない。王都を出る許可が無いと、城門を通過出来ないだろうな。禁止されている車だしな」
もどかしい!今すぐにでもフレイヤの所へ行きたいのに。
「王宮から許可が取れ次第向かえるように──あ……」
逸る気持ちを抑えようとも思わず侯爵邸を出ようとした時、外に王家の馬車が到着したのが見えた。
馬車から出てきたのは、エドワード殿下だった。
「殿下!?」
「フレイヤの居場所は分かったか?」
前置き等何もない。この方らしいな。
「恐らくドルバック伯爵の母親の所ではないかと。王宮からの城門通過許可を待っていたところです」
「分かった。私が一緒に行こう。許可証が無くても顔パスだ」
「えっ…よ、宜しいのですか?」
ヒューゴ様が驚いている。
「構わない。急ぐぞ。……これが噂の車か?」
侯爵邸の敷地内に停めていた車を見つけ、殿下が興味深そうに見やる。
「何人乗れる?」
「えー…4人です」
「ではリーズ公爵と私とレオンで行こう。帰りはフレイヤも乗るだろう。ベルック公爵夫妻はここで待機し、王宮からの使者を待ち、対応を頼む。既に到着している警備隊は、騎馬だけフーシェ侯爵領へ向かえ。残りはここと、リーズ公爵家の警備を」
「はっ!」
殿下の指示で警備隊が動き出す。
俺達も車に乗り込み、直ぐに出発する。
「殿下、何故侯爵邸へ?到着が速かったですね」
「お前にカリナを慰めろと言われ出掛けていたのだ。そしてベルック公爵邸にカリナを送り届けた時にこの件を聞いてな、急いで来た」
「勝手に宜しかったのですか?」
「リーズ公爵家唯一の跡取りであるフレイヤにもしものことがあれば、リーズ公爵家断絶に繋がる。それは王家としても阻止したいと考えるだろう。それに、またカリナが責任を感じてしまうからな。泣かせたくない」
「カリナは泣いていたのですか?」
「ああ」
「……ありがとうございました」
王子にお願いしていいものかとも思ったが、どうやら悪くなかったようだ。
「しかし、車とはなかなかの乗り心地だな。スピードもある」
「田舎の直線の道なら100キロで走行出来ますよ」
「動力は魔力だったか?」
「魔道具に魔力を込めてあります。魔力が尽きても、自身の魔力を流せば乗り続けられます。これは殆ど鑑賞用として邸に置いておりましたが、整備はしていたので安心して乗っていてください」
「焦る気持ちは分かるが、気を付けて行くぞ」
車に乗り、馬車とは違う速さを感じながら、フレイヤが無事でいることを願う。




