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魔法の星の恋物語  作者: 知香
第2部
53/159

24.カリナの恋

「あら、殿下?」


「やあ、カリナ」


授業を終えて馬車乗り場に来るとエドワード殿下がいらっしゃった。


「こんなところで、どうされたのですか?」


「カリナを待っていたんだよ」


「私……?」


私に何か用事でもあるというのだろうか。

殿下とはレオンお兄様にくっついていると出会えるが、それ以外では滅多に会えたりしない。


魔法科に進学して食堂が同じになっても、個室を使われていることが多い為、見掛けることも少ない。

騎士科は野外での授業が多いので、外を探せば見つかるが、何せ私も授業中なのだから余所見なんてしていられない。


授業が無い時間に、クラスの令嬢が騒いでいるのを辿れば、だいたいレオンお兄様がいるので、必ず隣にいる殿下を見つけることが出来る。

レオンお兄様はフレイヤ様と婚約しても、何故か人気がある。フレイヤ様に向ける微笑みが、令嬢の諦める気持ちを奪ってしまう……らしい。でも皆どこかアイドルの様な立場で見ているので、本気で恋をしている人は少ないだろう。


レオンお兄様のヘタレ話でも聞かせてあげようかしら。そうしたら諦めもつくかしら。


「今日はもう何も用事はないか?」


「ええ……何も、ありませんけど」


「じゃあ、ちょっと出掛けよう」


「えっ?出掛けるのですか?」


「ああ。王家の馬車だと目立つから、ベルック公爵家の馬車に乗せてくれ」


そう言うと私の背を押して、スタスタと歩き出した。


「えっ?えっ?えっ?」


困惑してる私に笑顔を向けて、「どうぞ」なんて言って公爵家の馬車に乗せてくれた。うちの馬車なのに、御者は全てを理解しているのか何も疑問を言わず、普通に馬車が進み出した。


「ど、どちらに向かわれるのですか?」


「町だよ」


「殿下も、行かれるのですか?」


「一緒にね」


「良いのですか?お忙しいのではないのですか?」


「2時間くらいなら大丈夫だ」


ニコリと良い笑顔を向けてくれる。

何がなんだか分からないけれど、これは、所謂デートなのかしら?

その考えに至ると、ちょっと恥ずかしさが込み上げてくる。


ダメだ。顔がにやけないように引き締めなければ。

顔が赤くならないように平静を保たなくては。


チラリと殿下を見ると、窓の外を眺めていた。王都の様子や市民の生活振りを観察しているのだろうか。


長く綺麗な金色の髪に、整った顔立ち。

長い手足に、均整のとれた身体。剣術をしているから、エスコートしてくれる手には剣だこやマメがある。


殿下の元には沢山の令嬢の釣書が届いているらしい。見目の良さだけでなく、王子なのだから当たり前だろう。

それでも誰とも婚約しない。


ある令嬢界隈では、殿下は同性愛者なのではと噂され、勝手にレオンお兄様を相手に妄想している……らしい。あまりにも仲が良いから、私ですら疑いたくなるけれど、王族相手にそんな勝手な噂をしようものなら不敬になってしまう為、大きな声ではせず、ひっそりと美形2人を眺め楽しんでいる令嬢達を、私は知っている。


暫くして馬車が停車した。殿下にエスコートされ馬車を降りると、飲食店の様だった。来たことの無い、少し高級そうなお店。よくレオンお兄様を連れ回して行っていたスイーツ店やカフェとはちょっと違う、若い令嬢が来なさそうなレストランの様だった。


こんなアカデミーから直接来た格好のままで入店しても良いお店なのか、少し不安になる。正装すべきなのではと思ってしまう。


ディナーの時間には早い為か、店内に人は全然いない。支配人の様な方が出迎えてくださり、個室に案内された。


「好きなの選んで」


私に手渡してくれたメニューには、コース料理の最後に出てくる様なデザートばかりが並んでいた。


「えっ……宜しいのですか?」


「良いよ」


ニコリと笑顔を返してくださる。何だか凄く大人なデートだと思った。

メニューをオーダーして改めて辺りを見渡す。


個室には大きな窓があり、レストランの庭が眺められた。立派なオリーブの木の根本に、クリスマスローズやカレンジュラ、ネリネといった花が植えられ、庭を彩っている。


「素敵なお店ですね」


「姉上がアカデミーにいた頃、よく友人のご令嬢と一緒に来ていたそうだよ。なかなか気軽に流行りの店等には入れないからね」


あら。王室御用達のお店ってことかしら。


「本当はカリナの好きなお店にでも連れていってあげられたら良かったのだけど、私の身分では難しい」


「いえ、こんな素敵なお店に連れてきて貰えたのですから、とても嬉しいです。でも、急にどうされたのです?」


「レオンに頼まれたんだ。カリナが昨日の件で気落ちしているから、慰めてやってくれって」


「お兄様ったら……」


殿下になんてお願いをするのだ。この方が王子だってこと、忘れていないかしら。いくら仲が良いからって。

私が殿下のことを好きなのを知っているから、そんなお願いをしたのだろう。


「私に気安くそんな依頼をするのはレオンくらいだ」


「そうですわね。自分がフレイヤ様のことで頭がいっぱいで、私に付き合う余裕がないだけなんでしょうけれど!だからって、殿下に依頼するなんて……すみません」


「何故謝る?私はカリナとデートする権利が貰えて嬉しかったんだ。だから謝る必要はない」


ああ。まただ。殿下はいつもそう。

そうやって胸がキュッとするような台詞をさらりと言うのだ。


私が返す言葉に詰まってしまった時、頼んだスイーツが運ばれてきた。助かった……。


私が頼んだのはショコラトルテ。美しい層の断面に、表面をコーティングしているチョコレートの艶やかさ。大きめのお皿に生クリームやチョコソース、そしてベリーで飾り付けられ、芸術作品の様な一皿。


「美しいですね!美味しそう」


「召し上がれ」


口に運ぶと、クランベリージャムの酸味に、甘いミルクチョコレートと、苦味のあるビターチョコレートの味の変化に思わず笑みが溢れる。


「とっても美味しいです」


「そうか」


殿下は穏やかな笑みを浮かべている。

殿下は召し上がらないようで、珈琲を飲んでいる。

レオンお兄様とスイーツを食べに行くと、ちょっとはしたないけど食べ比べとかして、平気でお互いのスイーツを交換したり、手を伸ばして一口貰ったりするけれど、さすがに殿下には出来ない。


「殿下も一口食べますか?」の一言が言えず、結局1人で平らげてしまった。


「とても美味しかったです。ありがとうございます」


「カリナのその笑顔が見れて良かったよ」


レオンお兄様のせいで、殿下に心配をさせてしまった。


どうしても、フレイヤ様に申し訳ないことをしてしまったという気持ちが、昨日から消えないのだ。

それに、リーズ公爵家もうちも、プブル卿に対して相当怒っているようなのだ。

それは私がフレイヤ様から離れなければ防げたことで、どうしても自分の情けなさを感じてしまう。そしてあの追い掛けた令嬢は恐らくフーシェ侯爵令嬢だった筈で、捕まえていたらレオンお兄様が嵌められることも、フレイヤ様が誤解することも無かったのだ。


私も始まりの魔女の直系なのに。魔法を使って捕まえることが出来ず、力不足だった。相手の方が魔法で姿を上手く消したのだろう。私は役に立たなかった。


「何を考えている?また暗い顔をしているよ」


ハッと殿下を見る。目の前に殿下がいらっしゃるのに、別のことを考えているなんて、失礼なことをしてしまった。


「すみません」


「昨日のこと?」


「……はい」


「レオンは仕方無かったしカリナが悪い訳ではないと言っていた」


「でもっ、好きでもない人にキスを迫られるなんて……そんなの、絶対に嫌だった筈です。怖かった筈なんです」


「そうだな」


「せっかくお兄様のところに転移して逃げたのに、私がフーシェ侯爵令嬢を捕まえられなかったせいでフレイヤ様は誤解してしまって……このまま、あの2人が、別れてしまったら……私のせいで……」


気付けばポロリと涙が出ていた。情けない顔をしている気がする。殿下に見せられる顔じゃない。

俯いて、目に力を入れて涙を我慢する。


俯いた視線の先に、スッとハンカチが現れる。いつの間にかすぐ隣に殿下が立っていた。さっきまでテーブルの向かえに座っていたのに。


「あの2人は別れないよ」


私がハンカチを受け取らないからか、殿下が私の涙を拭いてくれる。ローズ王女殿下のお世話で慣れているのだろうか。為されるがまま、私は動けなかった。


「レオンが離すわけない」


その通りかもしれない。レオンお兄様は、たとえ何があっても、きっと、フレイヤ様のことを好きでいる。


「涙は止まったか?」


殿下は指の背で私の頬をスルリと撫でる。

剣だこやマメのある手を気にしてか、いつも指の背で撫でる。気持ち良い優しさ。


コクンと頷く。

殿下にドキドキしてしまって、涙なんて吹き飛んでしまった。


「……参ったな」


「?」


「そんな顔で見上げられたら……拐いたくなるな」


「……私なんかを、拐ってくださるのですか?」


「……そうだな……いつか、拐いに行くから、それまで待っていてくれるか?」


「……待ちます」


ギュッと抱き締めてくれた殿下の体は、筋肉で堅くて広くて、男の人の体だった。



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